世界各地でLGBTQ+の権利や文化、コミュニティへの支持を示したさまざまなイベントが行われる6月、ブルームバーグはVISA社と共催で、「Power of Out」と題したオンライン・パネルディスカッションを開催しました。本イベントでは、東京およびシンガポール在住のパネリストが、それぞれのカミングアウト体験やLGBTQ+としての職場での日常、そして安全な空間やアライ(LGBTQ+を理解し支援する人)について、個人的な経験を共有し、「ありのままの自分自身を受け入れる」という、誰にとっても重要であろう課題について語ってくれました。
登壇者はVISAのコンシューマーソリューション部門ヘッドでバイス・プレジデントのコナー・リンチ氏(以下“コナー”)、ブルームバーグL.P. カスタマーサポート部門、近藤ノエラニ(以下“ノエル”)、同じくエンタープライズデータセールス サポート部門 カルビン・ラウ(以下“カルビン”)の3名で、聞き手はVISAダイバーシティ・インクルージョンチームのリードを務めるビアンカ・ストリンギーニ氏です。視聴者は両社合計で110名以上にのぼりました。
セッションを通じてパネリストから伝わってきたメッセージは以下の3点に集約されています。
- 職場におけるインクルージョンポリシーは、
当事者を勇気づけ、パフォーマンス向上につながる - カミングアウトは無理はせず自分のペースを大切に
- アライは、人ひとりの人生を変える力がある。
さりげないサポートを「見える」かたちで。
仕事に集中できる
―職場でのダイバーシティ&インクルージョンはあなたにとってどんな意味がありますか?
長年にわたってブルームバーグTokyo LGBT & Ally Community (BPROUD)のリーダーを続けるカルビンですが、「入社当初は、自分が歓迎されているというサインを探し回らなければなりませんでした」と言います。しかし、「自分はこのままでいいのだ」と心の底から実感できたとき、「怖れがなくなり、パフォーマンスが格段にあがりました」と述べました。
そして、「職場が安全な場所であれば、自分を隠さなくて済むので、ストレスが減り、貢献度が上がると思います」と話すのは、就職活動中にブルームバーグで2017年に開催された「Power of Out」のイベントでカルビンの活動を見てブルームバーグへの入社を決めたというノエルです。
また、最近まで日本に住んでいて、シンガポールに転居したばかりというコナーは、「集中力が上がり、会社に貢献できます。怖れも恥もなく、ただ、ありのままの自分であるということのすばらしさはかけがえのないものです。隠そうとすれば膨大なエネルギーがとられてしまいます」と明言しました。
―あなたのカミングアウトの体験をお話しいただけますか。
コナー:相手によって段階的に進むので、その瞬間瞬間は覚えていません。他人にとっては、ある意味どちらでもいいことだと思うのです。ただ、楽にはなるから、こころの準備ができたらやればいい。誰にも強制はできません。自分のペースで、心配しなくていい、決して恥じることではないんです。
カルビン:出社1日目からBPROUDやAbilities Community といったマイノリティのためのコミュニティについての存在を知り、「ゲイでもいいのだ」と安心しました。それでも最初はびくびくしていて疲れる上にパーソナルなレベルで同僚とつながることに難しさを感じていました。
ある日、友達と話をしていたとき、ガールフレンドについて聞かれ、「いや、いないんだ、男性とデートしているから」と言ったんです。そうしたら、「あ、そうなんだ。よかったね、で週末はどうだった?」と。なんだか肩透かしを食らったような感じでした。24歳までいた香港では、教会で同性婚は「罪」だと学び、長い時間をかけてその意味を消化しなければなりませんでした。ところが職場は、Celebrate(祝福)してくれる。この経験を通じて自分自身について学ぶこともできました。
カミングアウトするときは安心と安全を感じることができる環境で、よく知っている友達から始めるのがいいと思います。ありのままでいいのだと思えるようになると、自信を持った真のカミングアウトが容易になるはず。やってみたら、「なんでもっと早くやらなかったんだろう」と思うかもしれません。
ノエル:私は職場では常にゲイであることをクリアにしてきたので、特に問題はありませんでした。また、両親はありのままの私を受け入れてくれていたので、ある日、ガールフレンドを紹介しても驚くことなく素直に喜んでくれました。でもコナーのいうとおり、友人には段階を踏むのが適切だと思うし、10代のころは特に慎重でした。米国で生まれ、中学から日本に住んでいますが、田舎で育った私には周りにロールモデルがいなかったので、自分なりにやってきました。これまでも特に隠したり、宣伝したりはしていませんが、反応をみながら、聞かれたら徐々にという感じ。大学で東京に出てきた後は、コミュニティに触れて楽になりました。
―自己を受け入れること、他者から受け入れられることはどちらが大切だと思いますか?また困難を感じるときはどのようなときでしょうか。
ノエル:難しいですが、まず自分を受け入れることが大事だと思います。自分を表現するには、自分を愛する必要があるからです。ただ10代の私なら間違いなく「他人からが先」と答えていたでしょうね。国によって文化的な背景も違うので、自分がどのステージにいるのかによりますね。私の場合は、カミングアウトすることで、私のことをこころから大事に思ってくれている周りの人々の存在を改めて感じることができました。怖かったけど、愛を感じた瞬間でもありました。
カルビン:ノエルの言う通り、まず自分自身を受け入れるのが大事だと思っています。「なんと、自分はゲイなんだ!どうしたらいいんだ?」という否定的な態度ではなく、「あ、もしかしたらゲイなのかも」と静かに受け入れるのです。自分を否定すれば孤独になる。「どこのグループにも属していない」と自分自身の殻に引きこもってしまう。最悪だったのは、自分のことを大事に思えなかった時です。しかし、他者から逃がれられても、自分から逃げることはできません。自分を愛するためには自分をそのまま受け入れるほかありませんでした。
コナー:私も自己を受け入れることがが先だと思います。私はアングロサクソンの保守的な家に生まれ、自分が他の人とちがうということを感じて常に違和感を覚えていました。ただアメリカでは1990年代からカミングアウトパーティなんかがあったけれども、日本では絶対にないでしょうね。日本はアメリカ文化を取り入れていますが、独自の慣習的なところがあって、あまりあけすけには自分の話をしないという違いはあるかもしれません。
誰かの人生を
変えることができる
―聴衆のみなさんに伝えたいことはありますか。彼らは何ができるでしょうか。
コナー:別に「大げさに反応しなくていい」ということでしょうか。単に個人が誰とプライベートを過ごすかという話なので、取り立てて騒ぐことではないですよね。ただ「ああ、そうなんだね」だけでいいと思います。
ノエル:別にパーティすることでもない。ただ受け止めてくれたらうれしいし、目に見える形のサポートを示してくれたらとても勇気づけられると思います。私は入社時の担当者が小さなレインボーのピンバッジをつけていたのを見た時、何千倍も安心・安全を感じることができました。別に声高に叫ばなくても、そんな小さなジェスチャーで安心できる場所は作れると思います。
人によっては自分もゲイだと誤解を与えるのではないかという不安から、サポートグループに名前を連ねるのを躊躇するケースがあるようですが、グループはただ支援する気持ちを表明するところで、ゲイだと表明する場所ではありません。アライになることは、誰かの人生を変える力があることをわかってほしいと思います。
ビッグピクチャーに
変わる瞬間
カルビン:個人レベルで言えば、私たちは「見える存在」でいたいし、アライにもそうであってほしいと思っています。そうすれば対話が始められます。「アライになりたいけど、どうしたらいいのかな」とか「こんなこと言ったら傷つくかな」などなんでも聞いてほしい。支援してくれていることが伝われば、こちらも気軽に話すことができるので、お互い怖さが減ると思います。
企業として大切なのは企業文化がインクルーシブでサポーティブであることを機会あるごとにクリアに発信することだと思います。私はBPROUDのメンバーとして、そのような活動を奨励し続けています。レインボーのバッジを見えるところにつける。シンプルですが、そうしたことが大切だと思いますし、そこから対話がはじまります。今、「結婚の平等(marriage equality)」に関するムーブメントが世界的な広がりを見せています。小さなピースもたくさん集まればビックピクチャーに変わるのです。
最後に、ブルームバーグL.P. エンタープライズセールス部チームリーダーのミーシャ・モルガンが、3名の登壇者が、自分たちのパーソナルな部分について率直に語ってくれた勇気に対して深い感動と感謝を伝えました。そして「見える存在であることが対話に発展し、その対話を通して、サポートが広がります。アライとしてできることは、自然に受け入れることとレインボーのリボンや旗などを活用した小さな発信です。社員一人ひとりの違いをありのままで受け入れるインクルーシブな企業文化は、集中して仕事ができる環境をつくるうえで非常に重要です」としめくくりました。
ブルームバーグでも引き続き、職場におけるダイバーシティとインクルージョンのさらなる向上に向けて、アライと共にLGBTQ+コミュニティの啓もう活動を続けてまいります。