イラン紛争:グローバルなエネルギー分散を裏付ける事例

Read the English version published on April 8, 2026.

主要ポイント

  • イラン紛争は、地政学的な出来事が、原油や天然ガスの価格指標の動きにどのような乖離をもたらすかを示しています。その影響は、ブルームバーグのグローバル・エネルギー・インデックスにも表れています。
  • ブルームバーグ・インデックスで見られるように、マーバン原油(アブダビの主力原油)と米ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油とのスプレッド、ならびに欧米間の天然ガス市場でのスプレッドが拡大しています。エネルギーの分散が進めば、局地的なショックの影響を抑えられる可能性があります。
  • LNG(液化天然ガス)の輸送制約といった構造的な要因が、地域ごとの価格差をさらに広げています。こうした状況は、ブルームバーグのグローバル・エネルギー・インデックスを通じた複数の指標を組み合わせたグローバルなエネルギー・エクスポージャーの有効性を示しています。

本稿は、ブルームバーグのクオンツ・リサーチャーであるFrancisco Ibanezと、コモディティ・インデックス・プロダクト・マネージャーのJim Wiederholdが執筆しました。

2025年9月に発表したリポート『Powering the Future: A Modern Benchmark for a Multi-Polar World』では、世界の石油・天然ガス市場が構造的な変化を遂げていることを指摘しました。同時に、従来のように特定の地域に偏ったエネルギー指標では、グローバルなエネルギーの全体像を十分に捉えきれなくなっている可能性を指摘しました。

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2026年初頭に発生した米イラン紛争は、この考え方を実際の市場環境で検証するストレステストとなりました。

これまでの動きを見ると、結果は当社の分析と一致しています。地域ごとにエネルギー価格の動きは大きく分かれ、グローバルに分散した投資が、特定地域の影響を和らげる役割を果たしています。

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ホルムズ海峡:揺らぐエネルギー供給の要所

ホルムズ海峡の前例のない閉鎖は、世界のエネルギー供給に大きな影響を及ぼしています。グローバル市場における最重要ルートの一つである同海峡の重要性が、いま改めて強く認識されています。国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、紛争発生前には、世界のLNG(液化天然ガス)の約5分の1、さらに海上輸送される原油の約4分の1が、日々この海峡を通過していました。

図表1が示す通り、この地域には船舶や精製インフラが集積しており、今回の混乱の大きさが際立っています。さらに、イランによるカタールのラスラファン工業都市(世界有数のLNG輸出拠点)への攻撃が、物理的な供給制約に加え、インフラへの長期的な影響をもたらしています。カタール・エナジーによると、生産能力の約17%を回復するには、3~5年を要する可能性があります。

北米の限られたエネルギー指標をベンチマークとする投資家にとって、これらの動きは限定的な影響として映る可能性があります。一方で、グローバルに分散したエネルギー・バスケットでは、こうした動きこそが、ベンチマークが捉えることを目的とした局地的なショックにほかなりません。

Vessel Traffic and Refinery Infrastructure Around the Strait of Hormuz

原油:マーバン原油とWTIの乖離が拡大

原油ベンチマーク間の動きの違いは大きく、示唆に富む展開となっています。図表2では、マーバン原油(ティッカー:MUC)とWTI原油(ティッカー:CL)の年初来の価格推移を示しています。紛争により主要な生産・供給地域で供給が引き締まったことを受け、マーバン原油は3月中旬に1バレル約150ドルまで上昇しました。一方、WTIは103ドル近辺でピークを付けています。下段のグラフが示すように、両者のスプレッドは一時1バレル48ドルと過去最大に拡大しましたが、その後は、事態の早期収束への期待が市場に織り込まれるにつれて縮小しました。

Murban-WTI spread between April 2025 and April 2026

今回の原油市場の混乱は、広く均等に広がっているわけではありません。混乱は中東に集中しており、影響には地域的な偏りが見られます。米国エネルギー情報局(EIA)のデータが示す通り、米国は原油の純輸出国であり、国内生産は日量1,360万バレル近くと過去最高水準にあります。そのため、ペルシャ湾の供給制約の影響を受けにくい構造にあります。ホルムズ海峡を通過する原油輸入に占める米国の割合は、2000年には約3分の1でしたが、2025年には8%まで低下しました。

ブルームバーグ・インテリジェンスのエネルギーチームは、2026年12月限のWTI先物について、100ドルを上回る水準にとどまるよりも、50ドルに向かう可能性が高いとの見方を示しています。**ブルームバーグ ターミナルをご利用のお客さまは、BI<GO>からブルームバーグ・インテリジェンスのリサーチをご覧いただけます。

ブレント原油もグローバルな価格変動の影響を受けていますが、マーバン原油のピークと比べると、依然として低い水準にとどまっています。マーバン、WTI、ブレントの3指標に見られるこうした価格の乖離は、『Powering the Future』リポートで示した多極化する価格動向を象徴しています。同時に、ブルームバーグ・グローバル・コモディティ・石油・ガス・インデックスが、これら3つの指標をそれぞれ独立した構成要素として組み入れている理由でもあります。

天然ガス:大西洋をまたぐ価格乖離が一段と進行

イラン紛争の影響は、石油にとどまりません。EIAによると、カタールは世界のLNG輸出の約20%を占めており、その約80%がアジア向け、残りの多くが欧州向けとなっています。

ラスラファンへの攻撃とホルムズ海峡の閉鎖により、これらの供給は少なくとも一時的に市場から外れた状態となっており、その影響は世界に広がっています。中でも、欧州は特に影響を受けやすい構造にあります。エネルギー経済・金融分析研究所によると、EUのガス供給に占めるLNGの割合は現在40〜45%と、2022年にロシアがパイプライン供給を縮小する前の25%未満から大きく上昇しています。また、ブルームバーグ・インテリジェンスの分析によると、LNG輸入全体のうち約8%をカタール産が占めています。**

全体の消費規模と比べると、影響を受ける供給量は限定的にとどまります。しかし、在庫が低水準にあり、LNGへの依存も過去最高に高まっている市場環境では、カタールからの供給が一部減少するだけでも、スポット貨物を巡る世界的な競争が一段と激化し、価格変動を押し上げます。こうした動きが、図表3に示されている大西洋をまたぐ価格差の拡大につながっています。 

US, Dutch, and UK Natural Gas Price Performance – 2026 YTD

この分断は一時的なものではなく、構造的な要因に基づくものです。ホワイトペーパーでも強調した通り、天然ガスは原油に比べて代替性が大きく制限されています。大陸間で輸送するには、液化、専用船による輸送、そして仕向け地での再ガス化といった、コストのかかる工程が必要です。

こうした物理的な制約により、両市場間での裁定取引は大きく制限されます。その結果、欧州と米国の天然ガス市場は、それぞれ異なる需給環境に反応し、固有のリスクにさらされています。

この分断は、図表4に示す通り、『Powering the Future』リポートのクラスター分析によって統計的にも確認されています。欧州と米国の天然ガスは、エネルギー市場の中でそれぞれ異なるリスク特性を持つ2つのグループとして分類されました。そのため、米国のみを対象とした天然ガス指標では、欧州の価格変動要因を十分に捉えられない可能性があります。

Clustering Analysis of the Expanded Energy Complex

『Powering the Future』リポートでは、エネルギーのグローバル分散がポートフォリオを局地的なショックからどのように緩和するかを示す、3つの事例を紹介しました。具体的には、2022年の米テキサス州フリーポートLNGターミナルの爆発事故、ロシアから欧州への天然ガス供給の混乱、そして2020年4月に発生したWTI先物のマイナス価格です。今回のイラン紛争は、新たな事例として位置づけられます。共通しているのは、ある地域で地政学的リスクやインフラの混乱が生じると、他の地域に連動する価格は異なる動きを見せ、グローバルに分散したバスケットがその影響をよりバランスよく吸収するという点です。

エネルギーセクターに投資する機関投資家にとって、その示唆は明確です。価格形成が複数地域に分散する中、ベンチマークにもその現実を反映することが求められます。

ブルームバーグ・グローバル・コモディティ・石油・ガス流動性加重インデックス(GCOMOGL)は、こうした環境を踏まえて設計されています。従来の原油・天然ガス指標に加え、ミッドランドWTI原油、マーバン原油、オランダTTF天然ガス、英国NBP天然ガスの4つの指標を新たに組み入れています。

図表5が示す通り、2026年初頭の一連の出来事を踏まえると、本インデックスの設計意図に沿った動きが確認できます。従来型のエネルギーバスケットと比較して、年初来で相対的に高いパフォーマンスを示しています。

Performance Comparison GCOMOGL vs. BCOMEN – 2026 YTD

GCOMOGLの手法の詳細については、こちらをご覧いただくか、ブルームバーグ商品指数のページをご参照ください。

*McGlone, M., & Piazza, V. G. (2026, March 30). US natural gas’ 100% 1Q pump-then-dump may guide 2026 crude oil. Bloomberg Intelligence. 

** Alvarez, P., & Martins, J. (2026, March 20). Qatar outages set to dent supply even if war de-escalates. Bloomberg Intelligence. 

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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