(Read the English version published on May 24, 2019.)
英国の金融行為規制機構は、2021年末以降、銀行にLIBORの提出を強制しないと表明しました。これと並行して米連邦準備理事会も、新たなリスクフリーレートとして担保付翌日物調達金利(SOFR)を選定し、2021年までに米ドルLIBORを代替すると発表しました。
アジア太平洋地域をはじめとして世界各国・地域の中央銀行および規制当局は、業界関係者に対しLIBORがない未来への移行に備えるよう強く求めています。
一部の中央銀行は、代替参照金利(ARR)として、英ポンド翌日物銀行間平均金利(SONIA)やEUのユーロ短期金利(ESTER―現在のEONIA(ユーロ圏無担保翌日物平均金利))など、翌日物リスクフリーレートの検討を開始しています。
米ドル市場はアジアの金利市場に大きな影響を与えるため、アジアの市場関係者はSOFRの動向に注目しています。また世界中の市場関係者が、ベンチマークの移行が現物債に与える影響に注目しています。
アジア市場の移行への備え
移行の影響について、アジアで懸念されているのは以下の3点です。
- アジア太平洋地域で国ごとに異なったベンチマークと管理手法が導入されてしまうこと
- 新たなベンチマークへの移行に際しての流動性管理とリスク管理
- 市場参加者が移行に備えるために必要とするインフラストラクチャーの特定と保守
移行過程で必要とされる流動性の維持
基本的な問題として懸念されるのは、短期のフォールバック条項、流動性、期間構造がどうなるかです。
アジア各国の中央銀行は、自国市場の分析を進めながら世界的な動向を考慮する必要があります。例えばシンガポールは、SOFR、流動性が高い為替先物取引、クレジットスプレッドを新たな期間構造に沿って合成することにより、SOR(スワップオファーレート)を維持する方法を検討しています。
現在、SOFRをベンチマークとする契約や債券などの発行が増えています。
SOFRがドル建て契約の未来のベンチマークとして存続するためには、SOFR参照商品の市場が拡大し、その流動性が高まることが必要です。清算機関がSOFR参照商品の取り扱いを始めれば、流動性がさらに向上するでしょう。
その他通貨の代替参照金利導入の進捗状況については、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)が2019年4月に公表したリポートで明らかになりました。
2019年第1四半期において「取引された、SOFR、SONIA、SARON(スイス翌日物平均金利)、TONA(東京翌日物平均金利)などの代替リスクフリーレート(RFR)を参照した金利デリバティブ(IRD)の想定元本総額は1兆8,000億ドルで、全取引の2.5%でした。代替RFRを参照した取引の件数は3,088件で、全取引の0.8%でした。TONAを参照した取引の想定元本総額は420億ドルで、そのうち10億ドルがベーシススワップでした」
ISDAは、代替RFRおよび主要銀行間取引金利(IBOR)を参照する金利デリバティブ取引の総額を今後も継続的にモニターし、市場が代替RFRを検討する中でその動向を報告していくと発表しました。
ISDAのフォールバックはセーフティーネットです。IBORからの移行については、ほかにも注目すべきポイントが多数あります。
異なるベンチマーク導入による市場の細分化
通貨および商品によって代替RFR導入の方法が異なる場合、市場が細分化し、バイサイド・セルサイド双方のビジネスが複雑化してしまいます。
例えば銀行に適したソリューションは、保険会社やバイサイド、事業会社にはそれほど適していないかもしれません。特にヘッジは、銀行にとっては大きな関心事ですが事業会社にとってはそれほどでもありません。またこれまで、事業会社やバイサイドはOIS(オーバーナイトインデックススワップ)よりはキャッシュフロー予測の確実性が高い既存のIBORを好むと言われてきました。
重要なのはインフラストラクチャーの特定と早めの計画
アジアをはじめとする各国の規制当局は、移行に対する備えと関係者間の協力を積極的に推奨しています。テクノロジーとインフラストラクチャーの大幅な変更が必要となるため、多くの国や地域で特にLIBORを参照する契約残高が大きい企業に対して移行計画を早めに策定するよう求めています。例えば、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、オーストラリアの幾つかの金融機関に対して、LIBOR移行計画を策定するよう強く求めました。香港では、香港金融管理局(HKMA)の副CEOであるHoward Lee氏が、金利ベンチマーク改革に関する洞察を公表しました。
さまざまな通貨で異なるフォールバックが検討されているため、効果的なデータモデリングが一層重要になります。ブルームバーグは、移行を進める上で欠かせない戦略であるリスク管理と流動性評価を支援する最先端のツールを提供しています。
ブルームバーグターミナルで、ポートフォリオのNPV算出やリスク分析(ギリシャ指標)、シナリオ分析などを行うことができます。また、フェデラルファンドやSOFRなどOISベースのスワップをポートフォリオの代替RFRとして使用した場合のWhat-if分析も可能です。個々のスワップのストラクチャリングとプライシングをスワップマネジャー(SWPM <GO>)で行い、MARS <GO>のポートフォリオに追加して分析します。
ブルームバーグは業界と協力して、リスク評価能力向上を目的とするツールの開発を続けていきます。
議論を続けることが重要
移行に備えるためには何が必要なのか、規制当局も市場参加者も同様に戸惑っています。導入に伴う混乱を最小限に抑えるためには、あらゆる関係者の意見を基に将来を見据えた対応を取ることが重要です。
香港で開催のブルームバーグ主催のイベントでは、HKMAやニューヨーク連銀などの規制当局と関係者が一堂に会して、議論を基礎的な問題認識から次のステップに向けた計画へと進めていきます。ブルームバーグは2021年に向けて、議論の進展を支援していきます。
グローバルに展開する企業においては、全世界を統括する国際本部がアジア各国の地域本部と積極的な協議を行うことが重要です。すべての関係者が、それぞれの地域における移行方針に関する議論に注意を払いながら、2022年以降に満期を迎えるレガシーポジションのリスク管理を行っていく必要があります。
アジアにおけるベンチマーク移行の詳細については以下をご覧ください。