Read the English version published on May 20, 2021.
本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリストCaroline StewartおよびMarie-Christine Yoko Hussが執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。
- 日本政府は緊急事態宣言の対象を9都道府県に拡大、期間は5月31日まで
- 東京と大阪の集団予防接種会場では、5月24日から65歳以上を対象に予防接種を開始
- 医師と看護師のみが注射を行えるようにしたことが、予防接種のペースが上がらない要因に
新型コロナウイルスの初回接種にオンライン予約が必要な地域では、IT(情報技術)機器の操作に不慣れな、もしくは支援する親戚や友人がいない65歳以上の高齢者にとって、接種の遅れや見送りもやむを得ない場合があります。電話回線が混み合い、予約枠も限られているため、一部の地域では予約に支障が出ていますが、これは時間の経過とともに改善されていくと思われます。住民に対して自動で予約を割り振り、予約変更が必要な場合にのみ連絡を受け付けるようにした地域では、よりスムーズに接種が進んでいるもようです。
接種可能な時間帯が限られていることも、接種率の低迷につながっています。東京と大阪では、1日計15000人を収容でき自衛隊員による接種も可能な大規模なセンターが開設され、接種率の向上が期待されます。
予防接種法におけるワクチンの位置づけ
日本政府は、米ファイザーと独バイオンテック、米モデルナ、英アストラゼネカ、米ノババックスから、国民の総数以上のワクチンを確保しています。
日本の予防接種法におけるワクチンの種類
Source: Bloomberg Intelligence
日本製ワクチンが待たれるが
- 5月中旬、日本では約600万回分の接種が行われている。接種が完了したのは全人口の1%強
- 国民の懸念を受け、日本政府は予防接種法に基づく予防接種で発生した健康被害に対する補償制度を、1970年代に制定している
- 新型コロナワクチンの場合、製薬会社が健康被害を受けた患者に賠償金を支払うと、それを政府が補償する
国内で開発されている新型コロナワクチンの承認は、製造会社の経過報告によれば、早くても2021年末となる見通しです。アンジェスはDNAワクチン開発でリードし、約500人のボランティア参加者を対象に中期から後期治験を今年中に完了する予定としています。塩野義製薬の組み換えタンパク質ワクチンに対する第1/2相試験の初期データも待たれています。このデータは、2月下旬頃から公開される予定でした。同試験では、約200人のボランティア参加者を対象に3週間の間隔で2回接種することになっています。塩野義はこれまで、大規模なグローバル試験を実施する意向を示していましたが、ワクチンの普及が進むなかでは難しくなりそうです。第一三共は、3月にメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン候補製品の臨床試験を開始しました。
日本におけるワクチンの歴史的背景
- 1993-2007年:新しいワクチンの導入は、アメリカの17件に対し日本ではわずか2件。「ワクチンギャップ」が生じている
- 2013年:HPVワクチンが全国予防接種プログラムに組み入れられてたった2カ月後、副作用(後にワクチンとは無関係と判断された)が理由で、積極的な勧奨が一時中止された
- 1993年:はしか・おたふく風邪・風疹の3種混合ワクチン接種(MMR)が、有害事象との明確な関連がないにもかかわらず中止された。
日本では、安全性が確立されるまでは性急にワクチンの承認を行わない態勢をとる一方で、柔軟に対応する姿勢も示しており、このことが問題を難しくしています。医学誌ランセットが149カ国で行った調査によると、日本はワクチンに対する信頼感が最も低い国のひとつで、安全性への懸念がその主因です。日本は、歴史的にワクチン導入に慎重な姿勢で臨んでおり、副作用の可能性を理由に接種をためらう傾向もあります。これが不信感の根源になっているのかもしれません。例えば、2013年には副作用関連の懸念が広がり、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種率が70%から1%未満に落ち込む結果となりました。新型コロナワクチンの場合は、世界的な開発・承認プロセスがあまりに速いこと、また現在未承認の新しい技術が使われているらしいという理由で、普及初期の警戒心は極めて強いと推測されます。
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本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。