Read the English version published on November 3, 2025.
主要ポイント
人工知能(AI)は、市場や投資戦略をどのように変えつつあるのでしょうか。本稿では、AIの導入がハードウエアやソフトウエア、エンタープライズサービスへと広がる中で、インファレンス(推論処理)や知的エージェント、データインフラがデジタル成長の次の局面の中核となるにつれ、AIが経済構造をどう変化させ、ポートフォリオ構築にどのような影響を与え、市場のリーダーシップをどのように再定義しつつあるのかを探っていきます。
この記事は、ブルームバーグ・インデックス・サービシズ・リミテッド(BISL)の株式指数プロダクトマネジャー、Mike Pruzinskyが執筆しました。
本稿は、3回シリーズの第1回です。AIが市場をどのように変えつつあるのか、そして市場構造やセクター・ダイナミクスの変化をブルームバーグ・インデックスがどのように反映できるのかを検証します。
プロダクトについて
AIが経済に与えるインパクト
かつてはテクノロジー分野の周辺に位置づけられていたAIは、近年、経済活動の中心へと急速に移行しています。チャットボットやコパイロット(AIアシスタント)から始まった活用は、いまやハードウエア、クラウドプラットフォーム、広告、ゲーム、企業向けサービスにまで広がり、多様な分野を支える存在となりました。
AIの影響はヘルスケアや小売り、金融サービスへと及び、生産性の向上、より精緻なインサイトの提供、既存ビジネスモデルの再構築を後押ししています。ブルームバーグ・インテリジェンスの予測では、生成AIだけで2032年までに年間1.8兆ドルの収益を生み出し、世界のテクノロジー関連支出の最大16%を占める可能性があります。

図1の予測値は将来の収益に焦点を当てたものですが、同時に、AIが日常業務や消費者行動に組み込まれることで、より大きな構造変化が進んでいることも示唆しています。こうした変化によって、テクノロジーが価値を創出し、届ける仕組みそのものが変わりつつあります。
AIの導入が進むにつれ、議論の中心はすでに「AIが実用化されるかどうか」ではなく、「AI関連テーマがポートフォリオ構築や長期的なセクターエクスポージャーにどのような影響をもたらすのか」に移っています。
推論処理と知的エージェントの台頭
現在のAIを特徴づけるキーワードは「加速」です。最新世代の推論モデルは、テキスト、画像、音声、動画といった多様なコンテンツを解釈・分析・生成できるようになり、より複雑なタスクを処理できるようになってきました。これにより、単なるプロンプトへの応答を超え、実際の問題解決や意思決定に踏み込む段階へと進化しています。

最も重要な進展の一つは、「トレーニング」から「推論処理」へのシフトです。大規模モデルのトレーニングは、膨大な計算能力を必要とすることから、かつては投資家の強い関心を集めていました。一方、学習済みモデルを実世界で適用する「推論処理」は、現在ではAIの商用化における議論の焦点となっています。当初は数年間にわたりトレーニングが主役であり続けると予想されていましたが、推論処理への需要はすでにその見通しを上回っています。繰り返し利用されるユースケースと結びつきやすい推論処理は、商用AIの拡大に伴い、市場でより重要な役割を果たすと見られています。
同時に、AIエージェントは実験的なツールの段階を脱し、日々のビジネスや消費者生活に欠かせない存在へと移行しつつあります。こうした“デジタルワーカー”は、契約書のレビューやカスタマーサービスの管理から、ショッピング体験のパーソナライズ、ソフトウエア開発の支援まで、さまざまな中核プロセスに組み込まれています。ブルームバーグ・インテリジェンスは、AIエージェントが2032年までに2700億ドル超の市場を支える可能性があると予測しており、企業の業務運営だけでなく、消費者との接点そのものを変える潜在力を示しています。

AIはハードウエア市場をどう再形成しているのか
AIブームはソフトウエアだけの話ではありません。AIを支える物理インフラそのものが、大規模に作り替えられています。半導体、ハイパースケーラーによる設備投資、ロボティクス、ITサービスはいずれも、新たな需要に応える形で進化を続けています。AI関連の処理はすでに世界のサーバー収益の20%以上を占めており、今後数年間でその比率は40%に達すると見込まれています。
理由はシンプルです。トレーニングの処理は負荷こそ大きいものの短い間隔で行われる一方、推論処理は実際のアプリケーションの中で常時稼働します。こうした変化は、実世界でのAI活用に継続的な処理能力が求められるようになったことで、インフラ需要がより安定的かつ持続的なものへ移りつつあることを示しています。そのため、これらのAI処理はハードウエアインフラへの長期的な需要を押し上げる可能性があり、成長が構造的な需要に支えられることで、従来このセクターに見られた循環的なボラティリティーが和らぐ可能性もあります。
生成AIは業務プロセスと広告をどう変えているのか
コパイロットやコーディングアシスタント、生成系クリエーティブプラットフォームは、人々の働き方そのものを変えつつあります。これらのツールは業務プロセスを効率化し、まったく新しい製品カテゴリーを生み出し、サブスクリプションモデルやサービス統合といった新たなビジネス機会を開いています。独自のデータとスケールを持つ企業は、競合が容易には追随できない競争優位を築きつつあります。

図4が示すとおり、AIはすでに多くの消費者のデジタル体験を変えつつあります。パーソナライズされた推奨や動的コンテンツ生成、インタラクティブ性の高いクリエーティブツールは、次第に標準機能となりつつあります。こうしたパーソナライズされた体験への需要が高まる中、拡張性のあるAI主導のターゲティングを提供できる企業は、その恩恵を享受しうる立場にあると見なされ、市場での評価も高まりつつあります。
ブルームバーグ・インデックスでAIブームを追跡する方法
AIの導入が進むにつれ、市場参加者はその影響を定量的に把握できるツールやデータを求めるようになっています。ブルームバーグは、テーマ型エクスポージャーを提供するインデックスを通じて、こうしたニーズに応えています。「ブルームバーグ人工知能トータルリターン・インデックス(BAIT Index )」は、ハードウエア、ソフトウエア、サービスなどにわたるAI導入に携わるグローバル企業のバスケットを追跡するものです。
一方、「ブルームバーグAIバリューチェーン・インデックス(BAIVT Index )」は、半導体設計企業やクラウド・ハイパースケーラーからアプリケーション開発企業、エンタープライズの導入企業にいたるまで、AIエコシステムの基盤を構成する企業群を追跡し、より構造化されたアプローチで市場を捉えています。

BAITやBAIVTを含むブルームバーグのAIインデックスは、こうした変革を追跡し、測定するための実務的なツールです。これらのインデックスは、AI経済を形作り、その成長から恩恵を受ける企業への体系的なエクスポージャーを提供します。ブルームバーグ・インテリジェンスが指摘するように、AIの導入は産業全体で急速かつ広範に進んでいます。
進化するAIの市場インパクトをマッピング
本稿は、AIの投資環境を考察する3回シリーズの第1回です。
第2回では、AIバリューチェーンを可視化し、半導体、クラウドインフラ、モデル、アプリケーションがどのように価値を生み出すのか、そしてブルームバーグのインデックスがその機会をどのように測定しているのかを解説します。
第3回では、「AIテーマ型インデックス」を取り上げ、ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストチームの知見を基に、ルールベースの手法がAIの開発や導入に重要な役割を果たす企業をどのように特定するのかを検証します。
ブルームバーグ・インデックスに関する詳細は、こちらをご参照ください。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
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