ESGの未来:GPIF CIO水野弘道氏に聞く

1兆4,000億ドルの運用資産を有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の理事兼最高投資責任者である水野弘道氏は、先日シンガポールで開催されたIMASブルームバーグ投資カンファレンスにおいて講演を行いました。運用マネジャー、投資プロフェッショナル、エンジニア、業界エキスパートからなる400人の聴衆の皆さまを前に、ESG投資に対する考え方とユニバーサルオーナーであり世代を超えた超長期投資家であるGPIFが採用するユニークなアプローチについて説明しました。GPIFは運用資産のうち280億ドルがESG投資で、2015年に責任投資原則に署名しています。

本稿は、同カンファレンスにおいて、ブルームバーグのHaslinda Aminが行った水野氏へのインタビューからの抜粋です。 英語原文はこちら

巨額の運用資産にもかかわらずGPIFの役職員数はわずか130名で、投資のほとんどを外部の運用会社に委託しています。運用会社に対するGPIFの期待と課題を教えてください。

運用会社は投資チェーンにおいて極めて重要なプレーヤーですから、同一の価値観を共有することが必要不可欠です。GPIFは世代を超えた超長期投資家であり、考慮する期間は100年間です。私たちは、GPIFのスチュワードシップ原則と運用会社の議決権行使に対する理解をより深め、投資スタイルに沿ったESGインテグレーションを推奨しています。ESGは、投資分析を超えたところで投資判断に統合される必要があります。

アクティブ運用に関しては、短期的パフォーマンスの重視ではなく長期的な視点の導入を促すために、パフォーマンスにリンクした手数料体系と複数年契約を取り入れました。

水野氏は、公的および民間セクターによるESGインテグレーションとESG投資への支持を促し、日本におけるESG投資促進の中心人物となられています。気候変動対策を推進するためにマイケル・ブルームバーグが主導する気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)と気候ファイナンスリーダーシップイニシアティブ(CFLI)への関わりについてお聞かせください。

ESGについて考えた時、私たちが直面する最も明白な金融リスクの1つが気候変動です。そこで私は、CFLIのみならず、金融安定理事会が設立したTCFDにも積極的に関わっています。ESGに関する情報が不足していることや情報の標準化が進んでいないことが積極的なESG投資の障害となっているとよく言われていますが、言い訳に聞こえます。

今では、80社の日本企業がTCFDに賛同しています。最近ではトヨタ自動車が署名しました。

ESG情報の標準化が進んでいないことはやはり問題でしょうか?

私自身のプライベートエクイティ市場での経験から言えば、情報の欠如は好機を意味します。情報の欠如は運用会社に、新たなビジネス機会を創出し、自社を差別化するユニークなチャンスをもたらします。標準化され一貫性があるESGデータが不足していることは、顧客に超過リターンをもたらすチャンスとして利用できるはずです。

ESGが一時的流行ではなく、本質的な流れであると考える理由は何でしょうか。

最初に、運用会社の「フィデューシャリー・デューティー」という問題について考えてみる必要があります。ESGとフィデューシャリー・デューティーの関係は顧客の投資ホライズンによっても変わってきますが、ESGファクターを全く織り込まないとすれば、それは特に長期投資を見据える顧客に対するフィデューシャリー・デューティーに反する行為となります。

もう1つの問題は、超過リターンを生むことだけが、フィデューシャリー・デューティーを充足する唯一の方法なのかという点です。ESGインテグレーションというのは、市場に勝つことではなく、資本市場をより持続可能にすることだと考えています。ESGは、市場の持続可能性を向上させるきっかけとなり得るものだと思います。

資産運用業界に最も期待される変化は何でしょうか。

人工知能(AI)の活用でしょう。AIのおかげで、人間はより付加価値が高い作業に集中できるようになります。その一例が、価値判断を必要とするESG投資です。GPIFの若手の多くは、ESG関連の仕事に就くことを望んでいます。人間の知恵が必要とされる分野であることを知っているからです。

直近では、GPIFはソニーコンピュータサイエンス研究所に委託し、運用会社の取引パターンのモニタリングにAIをどう活用できるか、そしてAIが資産運用業界にどのような影響を与えるかについて調査研究を行いました。

アジアにおけるESG投資は欧米に比べて遅れていると言われることがよくあります。アジアが追いつくためには何をすべきでしょうか。そして、そこから得られる教訓は何でしょうか。

5年ほど前、私は当時のアナン国連事務総長から「日本は責任投資不毛の砂漠地帯だ」と言われたことがあります。これをきっかけに私は、アセットオーナーや運用会社の皆さまと共同で、ESG投資や責任投資の長期的影響について調べました。アジアは、ラーニングカーブを駆け上がって欧米に追いつくことが可能です。ただし、欧米から学べることは数多くありますが、失敗の二の舞は避けなければなりません。

ESG投資でアジアにターニングポイントが訪れるのはいつとお考えでしょうか。

ターニングポイントが訪れる時期はESGの内容によって異なると思いますが、一番差し迫った問題の1つは気候変動で、私がいろいろなワーキンググループに参加している理由はそこにあります。将来ESGが投資分析に統合されパフォーマンスにリンクされたときが、ESGのターニングポイントとなるでしょう。