アジアの大富豪が経営者だと女性は出世できない?-日本や韓国で顕著

当記事はブルームバーグ ニュースの谷口崇子が執筆したものです。ブルームバーグ端末上で最初に発表されました。

アジアの女性登用は欧米に比べると進んでいないが、億万長者と呼ばれる創業者たちが経営する企業は特に遅れている。日本や中国、韓国のこうした企業で女性の取締役登用はまれだ。

大富豪が率いる会社の中でも、テクノロジー関連大企業の女性取締役比率の低さが目に付く。日本では孫正義社長のソフトバンクグループ、滝崎武光氏が創業したキーエンス、中国では馬化騰会長のテンセント・ホールディングス(騰訊)、李彦宏会長の百度(バイドゥ)、韓国では李健熙会長のサムスン電子、崔泰源会長のSKハイニックスで女性取締役数がゼロだった。中国一の大富豪である馬雲氏が創業したアリババ・グループ・ホールディング、日本の「買収王」永守重信会長の日本電産の女性取締役は1人だった。

安倍晋三首相が「女性が輝く社会」を掲げるように、アジア各国の政府は社会での女性の登用を奨励しているが、大富豪たちの間では変化のスピードは遅い。米会計事務所、デロイト・トーマツの調査によると、アジアの女性取締役比率は平均7.8%と、中南米に次いで2番目に女性登用が進んでいない地域となった。ヨーロッパではすでに平均22.6%の取締役が女性だ。

アジアの大富豪企業の多くで女性取締役の登用が進んでいない問題で、米コンサルティング会社ISSコーポレート・ソリューションズのスッキン・バンダリ氏は創業者やその親族による株式保有を通じて会社をコントロールできるために、機関投資家や少数株主が求めるダイバーシティー(多様性)の受け入れに積極的でないからだと分析する。
ベストフレンド。

グローバルな女性役員組織ウィメン・コーポレート・ディレクターズ(WCD)のスーザン・スタウトバーグ会長は「男性たちはしばしばベストピープル(適任者)ではなく、ベストフレンド(親友)を取締役会に招きがちだ」と苦言を呈する。

アリババは共同設立者の3分の1が女性で、管理職の約3分の1が女性と「男女平等」を標榜する会社だが、一方で取締役会に女性はウォン・リング・マーテロ氏1人しかいない。マーテロ氏はブルームバーグの取材に「アリババのダイバーシティーへの取り組みを測る物差しは取締役会の役員構成だけではない」とメールで回答した。

マーテロ氏は「もちろんもっと女性がいた方がいいが、馬氏とアリババが男女の多様性に熱心であることをうれしく思っているし、女性は時間とともにもっと増えていくだろう」と述べた。ソフトバンク広報担当の小寺裕恵氏は「取締役に女性はいないが、常務執行役員に1名いる。取締役には、経験や実績、人物面において適任である人物を選任している」とメールで回答を寄せた。

テクノロジー業界以外でも状況は似たり寄ったりだ。18日のブルームバーグ・ビリオネア指数で日中韓で5本の指に入る資産家である柳井正会長兼社長のファーストリテイリング、王健林会長が率いる中国の不動産・娯楽企業、大連万達集団などにも取締役会に1人も女性がいない。
文化・歴史。

アジアでも、比較的経済規模の小さい国では女性比率が高い。ISSのデータによると、タイの取締役会の女性比率は14%、フィリピン、マレーシアでは12%。WCDのスタウトバーグ会長は「理由の一つに、コーポレートガバナンスの改善を見せることで外資を引き付ける狙いがある」とみている。インドでも13年の法改正で企業に少なくとも1人の女性取締役任命が義務付けられたこともあり、高い比率となっている。

日本で女性登用が進まない事情について、日本電産で唯一の女性取締役である石田法子氏は電話インタビューで、「根本的には文化、歴史の問題だ」と指摘する。「明治以降、日本では家制度が確立した。それに基づく価値観で、男は仕事、女は家庭の役割分担意識がもう150年の間根付いてしまっている」とみる。

キーエンス広報担当は「女性を登用しないというわけではなく、適任者がいれば選任する」と述べた。Fリテイリ広報は「特に男性優遇ではなく、これまでの経歴を踏まえて就任してもらっている」とした。サムスンは「継続的に女性の才能を伸ばすための制度作りを進めている」とメールで回答した。百度の広報担当は男女機会均等への取り組みを進めていると述べた。日電産、テンセント、大連万達集団、SKハイニックスはコメントを控えた。

日電産の石田氏は、永守会長について「強力なリーダーシップの一方で、非常に柔軟な考え方を持っている。過去の伝統や因習にとらわれず、人の意見にもよく耳を傾けて今何が最適なのかを考えて決断している」と評価。同社は昨年、2020年に残業ゼロという目標を掲げたほか、永守会長は女性役員を増やしたい意向を持っているという。石田氏は永守会長が「昔のような長時間労働では世界がついてこないと気付いて、柔軟に方向転換をした結果」だと感じている。

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