2018.06.13 – 14

バイサイドフォーラム東京2018「日本の資産運用業界における課題と戦略」

大規模な金融緩和や規制強化、さらにはAI(人工知能)や機械学習といったテクノロジーの進展など、日本の資産運用業界にも大きな波が押し寄せています。急速な構造的変化への対応が急がれるなか、ブルームバーグでは、2018年6月13日(水)と14日(木)に「バイサイドフォーラム東京2018」を開催しました。

日本の資産運用業界における課題と戦略をテーマとした本イベントでは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)理事長の髙橋 則広氏および金融庁 総務企画局 資産運用企画室長兼 証券取引等監視委員会 証券検査課 資産運用統括モニタリング長 片岡 之総氏による基調講演のほか、大手金融機関、事業会社など、多方面から有識者の皆様をお招きしたパネルディスカッションが2日間にわたって行われ、大変好評を博しました。

特に人工知能・機械学習に関するセッションには両日とも参加者が集中し、テクノロジーの発展に伴う急速な環境変化にビジネスモデルの変容を迫られる金融業界の危機感が浮き彫りとなりました。また、責任投資においては「適切な情報開示の効果をまだ認識していない企業が多い」とする事業会社と運用側の対話に存在するギャップにスポットライトが当たるなか、企業の持続的な成長を目指し、どのように建設的な対話を進めるべきか、実務的な視点で活発にディスカッションが展開されました。

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投資先は中国、欧州、南米。国際展開でグローバルスタンダード化が加速

日本の低金利環境が長引くなかで、国内投資家は適切にリスクを管理しながら、より高いリターンを追及するため、従来の資産以外にも目を向けることを余儀なくされています。「資産運用業の国際展開」をテーマにしたパネルディスカッションでは、野村アセットマネジメント 常務執行役員 運用調査本部長の津田 昌直氏が、「時間はかかるがポテンシャルの高い中国、定性判断によるアクティブ運用の投資ニーズが高まる欧州、アジア株への投資意欲が非常に強い南米の年金基金」に注目しているとしました。

続いて三井住友信託銀行 受託サービス部長の本村 剛氏が「外国籍へのファンドシフトのほか、マイナス金利の影響で海外不動産やバンクローンなど海外のオルタナティブアセットでの運用への関心が高まっている」と指摘。また海外投資家向けにファンドを提供するようになり、国際展開に伴って各拠点でシステムや業務プロセス、業界慣行などのグローバルスタンダード化が加速するだろうとの見解を示しました。

国際化によって浮上してくる国際規制対応として、2018年1月に施行されたMiFID2(第2次金融商品市場指令)の国内資産運用会社への影響について、津田氏は「影響は少ないものの、MiFID 2の施行をきっかけに外部と内部のリサーチの役割分担などの議論を始めている」と答え、本村氏は「欧州中心に規制強化が進んでいることから、外部システムベンダーが導入している規制対応の仕組みを自社のプロセスに取り込み、堅固なプロセスを構築するのが重要になる」との考えを示しました。

資産運用の国際展開において、注目度の高い中国RMB債についてのブルームバーグリアルタイム ソリューションはこちら(英語)から。

適切な情報開示による効果

初日最後のパネルディスカッションは、モデレーターとしてセコム企業年金基金 非常勤顧問 八木 博一氏をお迎えし、「責任投資と資産運用の現状」をテーマとして実施しました。「2014年に日本版スチュワードシップ・コードが施行されて4年、意味のあるエンゲージメントが行われているのか」という問いに、オムロン 取締役の安藤 聡氏は、「エンゲージメントの相手である企業が情報開示の効果をあまり認識していない」と現状を分析。適切な情報開示を実施すれば、資本コストの低減や株価のボラティリティの抑制、インサイダー取引の抑止などの効果が得られることを、事例を挙げながら解説しました。情報開示にあたっては、「中長期の情報を積極的に開示する代わりに、短期の情報開示を控えた結果、ネガティブな事象が起きたときの株価の戻りが早くなる」との効果も紹介しました。

一方、長期投資を基本とする第一生命保険の責任投資推進室長の銭谷 美幸氏は、エンゲージメントを実施するにあたり、「取締役会評価の内容を切り口に対話を進めていく。指摘するというよりは、上場会社としての責務として改善できる点は改めてほしいと建設的な対話をしている」と述べました。さらにパッシブ運用におけるエンゲージメントとして、りそなアセットマネジメント 代表取締役社長の西岡 明彦氏は、「環境と社会、ガバナンスからなるESGだけでなく、ディスクロージャーの『D』を加えた『ESGD』のテーマでエンゲージメントをしている」と独自の取組みを紹介しました。

国連が定めたSDGsを評価軸に加える投資家も増えているなか、ブルームバーグ 在日代表の石橋邦裕は、「SDGs(持続可能な開発目標)関連の分析ツールを開発したばかり。リクエストは増えている」ことを明らかにしました。