改革と成果:日本における新たな資産運用機会と今後の展望を議論
2月12日、ブルームバーグでは、プライベート・イベントとして、在ニューヨーク日本国総領事館と「日本における新たな資産運用機会」を共同開催しました。このイベントには、日本の公共部門の専門家が一堂に会し、120人ほどの参加者が、米国の機関投資家にとって恩恵となるような、日本政府の新たな政策や構想に耳を傾けました。
冒頭、S&Pグローバル元副会長で作家のポール・シェアード博士が基調講演を行い、続いてブルームバーグ・エコノミクスの日本担当シニアエコノミストが登壇、今後の日本と世界経済の見通しについて解説しました。その後、日本銀行米州統括役 河西 慎氏、株式会社東京証券取引所上場部 企画グループ統括課長の加藤邦彦氏、金融庁総合政策局総合政策課長の高田英樹氏による一連の講演に続き、ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドディレクターの小川アリシア氏をモデレータとするパネルディスカッションが行われました。最後に 財務省在ニューヨーク首席代表 在ニューヨーク総領事館領事 伊藤孝一氏による閉会の挨拶の後、ネットワーキングを兼ねたレセプションで幕を閉じました。
本イベントで議論された主なポイントは以下の通りです。
日本政府は、資産運用市場を開放してグローバル・ハブになることを目指しています。これは、過去のデフレとスタグフレーションから脱却し、 持続的な2%のインフレ率を達成し、維持するという目標の一環です。
日本は、こうした目標達成に向けて、14兆ドルに上る家計の現金・預金を投資に振り向ける取り組みを行っています。現在、家計に眠る金融資産はほとんどリターンを生み出さず、成長もほとんどみられません。このため、政府は個人投資家に対して実質的な税額控除を提供する「少額投資非課税制度(NISA)」を導入しましたが、日本の資産運用業界の評価はあまり高くない上、日本企業への投資リターンは海外企業と比較して低い状況です。 金融環境へのより幅広い関わりを促すため、金融教育にも焦点が当てられています。
この課題に対する取り組みの一環として、政府は日本企業に対し、株価純資産倍率(PBR)が1.0未満の企業に特に焦点を当て、PBRの大幅改善を求めています。日本企業のPBRは海外同業他社に比べてかなり低く、投資対象としての魅力が大幅に劣っています。
日本はまた、人的資本とダイバーシティ(多様性)に重点を置き、女性取締役の割合を30%に引き上げることを目指すなど、さまざまな課題にも取り組んでいます。
一般投資家が関心を持つ政府の主要制度は、企業の情報開示プロセスとコーポレート・ガバナンスという、日本企業にこれまで欠けていた分野に関する断固としたアプローチです。開示制度の改善を目指し、これまでよりはるかに積極的な取り組みがみられ、企業と投資家間の対話、ならびに英語版の会社情報開示の拡大が重視されています。株券等の大量保有の状況等に関する開示制度や、従属上場会社に関する開示状況およびガバナンス課題の見直しも行われる予定です。
日本では従来、現物株式市場がかなり内向きの構造となっていましたが、それも日本経済の将来を見据えて、海外により目を向けたビジョンを反映するものに変更されました。同時に、(変革に対し)意欲の低い企業が、新たなアプローチで独自な取り組みをするよう促すため、継続的な構造再編の見直しが行われています。
このような変化の中で、企業と投資家の間における期待のズレが主要課題の一つとして明らかになりました。このため、政府は資本コストと経営資源の配分に関する事業戦略や計画の明確化に一段と焦点を絞るよう、企業の経営陣に要請しました。これを受けて、現在の開示制度の改善を目指した投資家との対話が進むことが期待されます。
このアプローチは実を結びつつあるようで、海外企業は全般的に企業と投資家間の対話に改善がみられると報告しており、日本企業はさらに多くのグッドプラクティス(優れた取組)例を使い自社プロセスを改善すべく支援を求めるようになっています。東京証券取引所は開示企業の一覧を公開して支援しており、投資家から提起された主要点や好評だった取り組み例とともに、この要請の全体的な目的をさらに強調しています。
日本の政策決定者は、予想される賃金上昇が利益の圧迫要因となり、PBRやROI(投資利益率)改善プロセスが一部企業を市場から追いやる結果になることは受け入れつつも、日本の長期目標を追求する上で短期的なマイナス面はやむを得ないとして、結果については楽観視しています。
この30年間で、日本のコーポレートガバナンスと資産運用に対するアプローチは全体的に変化してきました。完全に成功したとは言えないかもしれませんが、構造的な変化は続いており、資産運用のグローバル・ハブになるという目標の実現に向けて日本は大きく前進しているようにみえます。
主なプログラム
- Welcome Address
Jeff Leckstein, Global Head of Buy-side Enterprise Sales, Bloomberg - Keynote Address
Dr. Paul Sheard, Author and Former Vice Chairman of S&P Global - Insights into Japan’s Economic Trends and Outlook
Taro Kimura, Senior Economist for Japan, Bloomberg Economics - Updates on Japan’s Financial Markets and Policy Dynamics
Makoto Kasai, General Manager for the Americas, Bank of Japan
Kunihiko Kato, Senior Manager, Listing Department, Tokyo Stock Exchange
Hideki Takada, Director for Strategy Development, Financial Services Agency - Panel Discussion & Q&A
Panelists:
Makoto Kasai, General Manager for the Americas, Bank of Japan
Kunihiko Kato, Senior Manager, Listing Department, Tokyo Stock Exchange
Hideki Takada, Director for Strategy Development, Financial Services Agency
Moderator: Alicia Ogawa, Non-Executive Director, Nippon Active Value Fund - Closing Remarks
Koichi Ito, Deputy Consul General / Chief Representative of Ministry of Finance, Consulate General of Japan in New York - Networking Lunch
主な登壇者プロファイルはこちらからご覧いただけます。