<約定だけでなく、照合・決済まで一気通貫できる電子取引システムを求めて>
CLS決済導入
社会要請としての「働き方改革」を受け、国内の事業会社にとって、チームメンバー1人当たりの労働時間の短縮化や業務効率化は、避けて通ることのできない課題となっています。そのような中、為替決済における財務高度化の手段のひとつとして注目を集めているのがCLS決済 (Continuous Linked Settlement: 下記参照)です。このたび、国内製造業として初めてCLS決済導入に踏み切った住友電気工業株式会社財務部様に、その経緯と導入後の効果について、お話をうかがいました。
について
住友電気工業の事業内容についてお聞かせください。
住友電気工業(以下、住友電工)は1897年の創業以来、電線・ケーブルの製造技術をベースに、独創的な研究開発とあくなき新規事業への挑戦を通じて新製品・新技術を創出し、事業領域を拡大してきました。現在では、自動車、情報通信、エレクトロニクス、環境エネルギー、産業素材の5つのセグメントでグローバルに事業を展開し、世界40カ国・390拠点で28万人以上が働いております。
財務部での業務内容についてお聞かせください。
財務部では住友電工単体の為替リスク管理のため、依頼部門から受注・発注ベースでのエクスポージャー情報を取得し、ポジション管理の上、為替予約を主とした金融商品を用いて為替リスクヘッジを行っています。また関係会社の為替リスク低減のためエクスポージャー情報を毎月モニタリングし、取引通貨変更の指導などを行っています。5つのセグメントのビジネスが海外で拡大している事を受け、為替予約の金額、件数ともに増加しています。
住友電工財務部の特徴は何ですか?
さまざまな会社の財務関係者の方々とお話しする機会がありますが、他社さんと比べて当社の為替業務はややストイックと言えるくらいに細かい単位で管理しているように思います。というのも、当社では採算を確定させることを目的に、20以上の事業部の為替エクスポージャーを1ドル単位でチェックする為替業務を行っております。それは、「不確定要素の一つである為替は財務部に社内予約依頼をした時点で確定し、事業部は本業での利益獲得に専念する」という考えから来ております。
財務部で取得する為替予約レートがそのまま事業部の損益に直結するので、財務部ができるベストな事、つまり市場にあるベストレートを事業部に返す事が重要です。各部門、各部署でできる事をストイックに追及する、といった精神が昔からあるように思います。当社では電子取引による価格競争の実施も国内事業会社としてはかなり早期に導入しましたが、これもこうした背景からくるものだと思います。
きっかけ
国内製造業として初めてCLS決済を導入されましたが、導入検討のきっかけは何ですか?
当社のオペレーションでは、電子約定取引を主体として10数行との為替予約の取引があり、従来は取引先ごとに決済が行われていました。ディールを行うフロントオフィスでは電子約定システムもあって、銀行数が業務負荷に与える影響はさほど大きくないものの、決済も含めたバックオフィスでは為替の決済資金を各銀行に用意しなければならず、銀行数の維持と業務効率化が両立しない関係にありました。
決済業務は失敗が許されず、神経を研ぎ澄まして1件1件金額があっているかをチェックする必要があるので、非常に負担が多い業務です。約定だけでない財務部門全体の業務効率化を考えると、今までにない仕組みが必要でした。
CLSの導入は、決済業務の効率化においてどのような効果をもたらしましたか?
バックオフィスでは、決済前に銀行ごとに必要な資金手当て額を調達部門に伝達しており、銀行ごとに金額集計が必要でしたが、CLS決済によって銀行ごとに行われていた決済が1行に集約されたため、ミスが起こる可能性を大幅に削減でき、ストレスも緩和されました。またコロナ禍での在宅勤務においても、照合業務の電子化、決済業務の効率化は非常に大きな役割を果たしています。
検討のきっかけは決済業務の効率化ですが、銀行ごとにグロス額で準備が必要だった決済資金を削減できた事や、反対売買での最良執行の追求も可能になる等、さまざまなメリットがありました。
選んだ理由
CLS決済を導入するにあたり、為替電子取引システムとしてブルームバーグを選んでいただいた理由は何ですか?
当社が目指していたのが、財務部が依頼部門から為替予約依頼を受け付け、予約レートを返すという社内予約管理と、約定、照合、決済という一連の銀行予約管理業務をなるべく人の手を介さず自動化したい、という事でした。それを実現するために中心になるシステムが2つあります。
1つは社内のエクスポージャーを集めて計算し、どんな期間でいくらヘッジしないといけないのかを計算をする財務管理システム(TMS)で、もう1つがブルームバーグのような電子取引システムです。電子取引システムには、電子約定だけでなく、照合・決済まで一気通貫できる機能を有したシステムを探しておりました。
TMSへの自動連携
処理能力とコスト
その中でブルームバーグを電子取引システムとして選んだ理由は3つあります。それは、約定からCLS決済まで一気通貫でき、TMSとつなげられること、大量の予約データを同時に処理できること、そしてFXGOとFXCMSの機能を追加コストなしで、月額利用料の範囲で納められる点です。
まず為替取引約定、コンファメーション照合からCLS決済までがブルームバーグを用いて一気通貫で自動連携でき、さらにTMSとつなげる口がしっかりあるという点は、当社が探していたものと合致していました。
次に、人の手を介する工数をなるべく減らしながらも、期間、通貨、金額など違う複数の為替予約を同時に競争させて約定したいというニーズがある中で、大量の予約依頼データを同時に処理する事ができる点(FXバッチマネジャー機能)が適合していると感じました。まだ構想段階ではありますが、将来的には関係会社の為替予約の集約も考える中で、処理件数増加での業務負担が増えない事は重要でした。
そして最後にコスト削減の観点ですが、ブルームバーグのFXGO(為替電子取引)とFXCMS(コンファメーション自動照合)の機能を追加コストなしで、ブルームバーグ端末の月額利用料の範囲内で利用できることもポイントの一つでした。為替予約を集約するとなると取引件数の増加が予想される中、件数に伴ってコストが増えない点は当社にとってありがたいと感じました。
実際にBloombergを使ってみて良かった点は何ですか?
細かい機能の話になりますが、約定ごとにCLS決済とNon-CLS決済のアカウントに振り分けることができる点が非常に良いと感じました。当社で電子約定する取引の内、ほとんどがCLS決済ではあるものの、そうでない取引も一部残っています。こうしたわれわれの現状のオペレーションに合った機能を備えていたおかげで、Non-CLS決済についても電子約定できて非常に便利です。
今後、さらなる業務効率化を図るご予定は?
自動照合とCLS決済により約定以降の効率化の仕組みができたので、今後は先ほど話に出ました、エクスポージャーの発生から、ポジション管理、為替予約、照合、決済まで一連の流れを人の手をなるべく介さず、ベストレートで為替予約を取り、コストを低減させる事を計画しています。
そのための基盤として財務管理システム(TMS)の導入、TMSとFXGO/FXCMSをSTP接続し、ブルームバーグの機能をさらに活用していこうと考えています。これを第1フェーズとして、第2フェーズでは国内外の関係会社の約定代行を想定しています。子会社ではマーケットレート水準がわからず不透明感がある中で銀行に電話をして約定しているので、最良レートを確保できているか確認しながら約定することは大変困難であるのが現状です。
ベストレート取得によるコスト削減やオペレーションリスクの軽減の視点からも、専門部署への為替取引集中化は効果が出ると期待されます。またその一方で、各関係会社の経理財務人員は、改善活動などより付加価値の高い業務に専念できる環境が整備できると考えています。集約拠点では取引件数が増加しますのでなるべく人の手を介さないシステム構築を今後検討してまいります。
インタビュー 2020/11/18