投資の宴が終わり、市場は理性を取り戻す

Read the English version published on May 17, 2022.

本稿はMichael Mackenzieが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

今、自分の投資口座をチェックした人は、おそらくショックを受けてから、もっと運用に回そうと考えるでしょう。

振り返れば、ウォール街を恐怖が席巻した時は、結局は買いの機会だったことがわかります。これは、株式とクレジットの市場暴落時は「押し目買い」の好機と学んできた投資家の一世代を育んだパターンです。最も記憶に残る、短期間に終わった資産価格の暴落は、2020年初頭に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった時でした。今日の市場が抱える問題は何なのか、理解するにはそこからスタートするとよいでしょう。

市場のボラティリティーを高め、資産価格に打撃を与える原因を見つけるのは難しいことではありません。各国中銀が40年ぶりという高インフレに対処しようとする中、2020年に市場を鎮静化するべく始まった財政・金融刺激策は、今や終わりを迎えようとしています。米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派への転身ぶりは劇的ともいえるもので、今月FRBは20年ぶりに0.5%の利上げを実行しました。そしてそれはほんの序章にすぎません。FRBは6月に、低金利を維持するために債券買い増しを続けて積み上がった9兆ドル規模のポートフォリオを縮小し始める予定です。

今年の株式・債券市場の損失は、両資産クラスとも2022年に非常に高い水準でスタートしたことを考えると、実は驚くことではありません。株式も債券も、実質的には大規模な刺激策によって将来の値上がり分から借り入れを行っていたようなものだからです。よって、資産価格がリセットされたことは、特に長期的なリターン改善を求める若い投資家にとっては歓迎されるかもしれません。しかし先走りは禁物です。ウォール街は、市場というエレベーターを一度に数階分下げ、 底値に到達する間際は非常に割安に見えることで知られています。

債券利回りが上昇する中、以前は個人のトレーダーに好まれていた株式およびクレジット(特別買収目的会社、暗号資産、フェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグルのテック企業大手5銘柄の「FAANG」、ミーム株、キャシー・ウッド氏率いるアーク・インベストメント・ファンドなど)の各市場は今年、インフレ高進と金利ショックで大きく落ち込みました。

一番打撃を受けたのはテクノロジー株ですが、株式市場の損失は至る所に広がっています。S&P 500種指数は1月3日の史上最高値から5月11日時点で18%下落し、通常は弱気市場とみなされる20%の下落に迫っています。これは、FRBが前回利上げを行い、同じく最高値から最安値への下落率が20%近くとなった2018年に匹敵します。もちろん、当時のインフレ率は2%近辺で推移していました。ここで、もう1つ気になることが出てきます。これまで株式市場は債券市場と同じボラティリティーを経験していないということです。これは、株式市場がまだ底打ちしていないことを示しています。

実際、債券市場、特に住宅所有者と企業の借り入れコストの指針となる10年物利回りが先導役となっています。家計や企業の長期借り入れコストの急上昇だけでなく、債券利回りが突然魅力を増すと、株式保有でしか利益を出せないという強気シナリオの説得力もなくなります。差し迫った問題は、FRBが今年10年物利回りを倍増して3%超にすることで、過熱気味の住宅・雇用市場を抑制するのに十分とみなすかどうか、ということです。今のところ物価は高止まりしています。4月の消費者物価指数は1年前から8.3%上昇しました。

世界のサプライチェーン問題が解決すればインフレも落ち着くのではないかという希望的観測の下、FRBは、雇用市場への打撃を最小限に押さえつつ緩やかな景気拡大が続くソフトランディングを画策しています。過熱せず冷え込みもしない、適度な状況にある「ゴルディロックス相場」をFRBが実現できるかどうかは、インフレがいつピークに達し、どのような軌道で低下し、それが経済にとってどのような影響をもたらすのかにかかっています。しかし、いずれも控えめに言って確実とは程遠いものです。

多額の負債を抱える経済での金融引き締めにより、2018年後半のように成長が鈍化するのは避けられず、国債利回りの上昇トレンドも阻止されるだろうという議論があります。今回、食品とエネルギーのインフレ高進による消費支出の冷え込みという可能性も、「成長不安」を煽っている要因です。これが実際に起きれば長期金利は押し下げられ、株式とクレジットの押し目買いが支えられるかもしれません。

しかし、過熱気味の米国住宅市場で賃料が高騰し、高インフレが長引く可能性があるため、投資家(および経済)には不安が残るでしょう。グローバル資産運用会社リサーチ・アフィリエイツの創業者ロバート・アーノット氏は、「インフレは一過性のものではない」と述べ、「FRBは今や景気拡大を終わらせる方向に進んでいる」との見解を示しています。

こうした状況下、ブラックロックの米州iシェアーズ投資戦略責任者のガルギ・チャウドゥリ氏は最近のレポートで、保有すべきは配当株だと述べ、配当株は「幅広い市場に対してアウトパフォームする品質と魅力的な配当利回りに加え、ヘルスケア、公益事業、エネルギーなど高インフレと低成長という足元のマクロ経済から恩恵を受けるセクターに分散されたエクスポージャーを提供する、オルタナティブな投資先」と指摘しています。

市場の変動から得られる1つの結論は、FRBや他国の中銀がソフトランディングに持ち込むことが果たしてできるのかという懐疑的な見方です。また、投資家のセンチメントを悩ませ続けているのは、過去との根本的な決別です。つまりFRBは、インフレか経済のどちらかが崩壊するまで、金融政策にブレーキを踏み続けることを余儀なくされている状況です。押し目買いをするように学んできた投資家世代は、もはや中銀からの援助は期待できないという現実に適応する必要があるかもしれません。消費者物価の上昇が停滞している時に高騰していた資産価格を長年にわたり無視してきたFRBには、新たな戦略があるようです。つまり、金融環境を引き締め、インフレを抑制するには必要な代償であるとして、資産価格の下落を無視するのです。

では、この数十年で最も困難な時を、投資家はどのように舵取りをすればよいのでしょうか。特に今年、市場はリセットしましたが、それでもさらに大規模な調整の恐れが残る場合、どうすればよいのでしょうか?

ティー・ロウ・プライス・インベストメント・マネジメントの投資戦略統括デービッド・ジルー氏は「明日、来週、あるいは来四半期にどうなるかを予測することは極めて難しい」と述べます。「私にわかったのは、今年見られたような市場調整は、今後3年から5年間に向けて買いの機会を提供するということです」ジルー氏は、もし株式・債券市場がさらに下落すれば、 ティー・ロウ・プライスのマネジャーらは「現在よりも将来のリターンが有望視されるため」投資を増やすだろうと述べています。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。