本記事はChris Martinが執筆し、ブルームバーグブリーフ・Quick Take の「ビットコインとブロックチェーン」に初出掲載されたものです。
風力発電の成長率は、各種エネルギー形態の中で最も高い。欧州の海上に設置されている既に巨大化した風力タービン(風力発電装置)は、次世代になるとエッフェル塔ほどの高さになるだろう。おそらくそれよりも重要なことに、次世代の風力タービンの多くは、風力発電産業の成長に役立ってきた助成金が認められないとみられるものの、そもそも助成金が不要になるとみられる。風力エネルギーのコストは既にかなり低下しているため、今や世界の大半の国では、コストが最も低い新規電力源になっている。デンマーク、ドイツ、米テキサス州などで風力発電会社が直面している問題の1つが、発電の余剰分への対処である。バンク・オブ・アメリカ(BofA)、ゼネラル・モーターズ(GM)、アルファベット傘下のグーグルなど、多数の大企業は、風力発電会社や太陽光発電会社と長期契約を結んでいる。風力発電、特に海上風力発電設備には、トランプ米大統領という大物の懐疑派が立ちはだかっているが、市場の力という風はかなり強く、大統領の反対を吹き抜けているもようだ。
現状
トランプ大統領は、化石燃料、特に石炭への後押しを確約しているが、初の予算案では風力発電向けの税額控除を据え置いた。一方、ドイツでは4月に助成金を受けられなくても市場価格で電力を供給する旨を約束した国内初の海上発電設備の買収案を承認した。それに加えて、シーメンスを筆頭とするメーカーは、翼の長さが最大のジャンボジェット機を上回る現行タービンの発電能力を、2倍近くに拡大すべく取り組んでいる。2016年における世界の風力発電能力は487ギガワットに達した。そのうち新規設備の発電能力は54ギガワットで、これはトルコの発電量にほぼ匹敵する。新規設備の半分余りが中国に設置されており、同国は世界最大規模の風力設備群を擁するが、送・配電できないため、通常、発電能力の10分の1以上は稼働していない。
背景
古代ペルシャ人は、6世紀という大昔に、風力を利用して水を動かし作物に給水できることを発見した。初期の風車では、単純な設計で羽根が地面と平行方向に回転していたが、ゆっくり回転する石の下に敷いた穀物をひくのにも役立つことが判明した。14世紀までに、欧州で水平軸に改良されて、布製の各回転翼がエネルギーを継続的に吸収できるようになったことで、効率がアップした。チャールズ・ブラッシュという米国人が1888年に初の本格的な発電用風力タービンをクリーブランドに建設した。高さは60フィート(18メートル)で、最大発電量は12キロワットであった。これに対して、現在設置されているタワーの高さは400フィートを超えており、最大8000キロワット発電できる。米航空宇宙局(NASA)も1973年の石油ショック後に風力タービンの研究に力を入れ、米議会は92年に初の税額控除を可決した。オランダと米国のエンジニアが技術を開拓して、コストも下がった。陸上発電で成功したことから、メーカー各社は、風力が陸上よりも強く安定している海上用に、はるかに大きいタービンを建設するようになった。2016年になると、米国では風力発電が全発電量の約8%、世界全体では約5%を占めるようになった。
論争
トランプ大統領は、海上風力発電設備、特にスコットランドの自身のゴルフ・リゾート施設近くで計画されているプロジェクトについて、醜悪な建造物だと嘲笑している。また、「風車」全般を鳥にとっては命取りの代物だと非難し、風力発電は「巨額」の助成金があって初めて経営が成り立っているとやゆした。米国では、21年に期限が切れる税額控除の反対派は、減税は市場をゆがめている特別サービスだと非難している。賛成派は、風力発電設備の建設期間は最短6カ月と、石炭や天然ガスの火力発電所の建設期間の半分にも満たないため、43州が制定した再生可能エネルギー比率目標を達成できる最短の方法だとして、まだ政府が支援する価値があると反論している。欧州では、風力発電拡大の足かせになっている最大の要素は空き地の不足で、そのため、コストが急速に低下している海上風力発電設備への関心が高まっている。現在、風力の電力供給量は、欧州では石炭火力発電を、米国では水力発電を上回っている。しかし中国の実体験は、単体では風力発電能力は伸びず、送・配電網への多額の投資を要することを示している。さもなければ、たとえ風が吹いている場所で風力タービンが回っていても、一般家庭に明かりをともすことはできないだろう。