パンデミックで急務となった財務部門の自動化

Read the English version published on  June 9, 2020.

本稿はLesley Meallによって執筆され、英国コーポレート財務担当協会(ACT)のブログから転載されました。ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。

今こそが、財務部門がテクノロジーを戦略的に導入し自動化を推進する絶好のタイミングであるとLesley Meallは言います。

企業財務の健全性を守る立場にある財務担当は、本質的にリスクを嫌います。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、「最悪のシナリオ」という概念には新たな意味と緊急性が与えられました。その最悪のシナリオに備え将来を見据えて、財務担当はリスクの回避、軽減に努めています。

また、キャッシュフローの予想を立て流動性を予測することも財務部門の重要な業務ですが、同じく新型コロナウイルスの影響により、以前よりも短いスパンでより詳細な分析・評価を行うことが必要となりました。シナリオ策定やストレステストについても、より正確な情報に基づいて精度を上げることが求められています。

今、目の前にある危機により、多くのこと、特にテクノロジーが果たす役割とその重要性に関する私たちの考え方が変わりました。あらゆる種類のテクノロジーに関する考え方や取り組み方が、ロックダウン期間中に、時には一晩にして見直され、大きく変化したのです。

今日、財務機能を自動化、スリム化するために必要不可欠と思われるテクノロジーとしては、以下が挙げられます。

  • 流動性、通貨リスク、商品リスクの管理
  • モートアクセスのサポートと維持
  • ソーシャルディスタンスを保つ従業員間のつながりの維持

これらは全て、最終的には私たちの「新たな日常」に反映されることになるでしょう。

「在宅勤務の時代において、財務部門がリスク管理その他の重要な業務を金融機関やITパートナー、顧客と共に効果的かつ統制が取れた形で行うためには、テクノロジーの効果的な活用が鍵となります」と、PwCの財務アドバイザリー部門ヘッドであるDavid Stebbings氏は述べています。

財務部門の役に立つとStebbings氏が考えるテクノロジーとしては、クラウドベース・システム(管理責任が社内サポートチームではなく外部ベンダーにあるため)やオンライン・トレーディング・ポータル(許可または承認されていない取引を防ぐため。録音機能がなくセキュリティが確保されていない電話取引ではそれが難しい)などがあります。

困難な時代に役立つツール

財務部門に役立つテクノロジーは、新型コロナウイルスのパンデミックとロックダウンの間に大きく進歩を遂げました。

「この不確実性の時代において、テクノロジーが財務部門にどう役立つかを、顧客と協力して確かめてきました」と述べるのは、スイスのZandersで企業財務アドバイザリーサービスを率いるElvadas Balkys氏です。

例えば、短期および中期のキャッシュフロー予測の精度を高めることにより、財務部門はより戦略的に考え行動することができるようになります。

「特に危機的状況下において、予測そのものが急速に変化する場合には、それに対応した迅速な判断が求められます。そうした予測を継続的に行い財務を管理するためには、専用のテクノロジーが不可欠です。そこから得られるデータを流動性、借り入れ、ヘッジなどの管理に活用しコストを最小化するのです」とBalkys氏は述べています。

ACTが行った「Business of Treasury 2020」調査への回答からは、数多くの企業の財務部門および財務担当が、新型コロナウイルスの感染拡大以前からテクノロジーの戦略的導入および自動化推進を計画していたことが分かりました。

そうすることのメリットが、ロックダウンにより明確になり注目されるようになりました。

調査回答者の間では、財務機能を進化させ戦略的関与をより高めるためには自動化が必要であるとの認識が高まっていました。特に、異なるシステム間の接続性を向上させ、反復的な業務を削減し、アクセス可能なデータからより優れた戦略的インサイトを収集するためには自動化が不可欠です。

将来を見据えてプランを立てる

こうした可能性は、Business of Treasury調査の「フィンテックの進展は今後2年間で財務担当の仕事にどのような影響を及ぼすと思いますか」という質問に対する回答にも反映されていました。

ある財務担当は、「当社の財務部門では自動化がかなり進んでいて、今は効率性の向上に取り組んでいます。これにより、ただ財務運営に携わるだけではなく、より付加価値を高める戦略的な役割を担うことができるようになると考えています」と語りました。

別の財務担当は、「当社はよりデータを重視する財務運営を行います」と述べました。

「テクノロジーの進展により手作業の多くが自動化されるでしょう。その結果、より多くの時間を戦略的思考に割くことができるようになります」という意見もありました。

一方で、投資の妥当性を立証することは、世界的な新型コロナウイルス感染拡大とその後遺症がなかったとしても、大変難しい作業です。

しかしポジティブな要素もあります。不況時には機会費用が平時よりも低いと考えられるのです。ACTの調査に回答した財務担当の5割以上が2020年にはテクノロジーの更新により多くの時間を割くとしており、これは彼らにとって追い風となるでしょう。

回答した財務担当が所属する企業が多額の投資を行っている分野は、サイバーセキュリティ(43%)、自動化(28%)、新財務管理システム(TMS)(25%)でした。これらの目標は、将来、優先度の変化、タイムスケールのシフト、財務戦略の進化などが起きた場合でも、To doリストに残り続けるでしょう。

コロナウイルスのパンデミックは、財務部門の業務内容および働き方を変化させました。その変化への対応の難易度、スピード、効率性については、各社の自動化の進捗度により相対的に差が出たようでした。特に財務部門が使用するソフトウエアおよびシステムへのリモートアクセスが既に確立されていた企業においては、対応が容易でした。

Cairn Energyのグループ財務担当兼プランニングマネジャーを務めるRob Scriven氏は、ロックダウンのさなかにThe Treasurer誌に対して次のように語りました。「当社のテクノロジーは全てリモート操作が可能で、移動中の作業にも慣れています。そのためコロナウイルスの影響は全くありませんでした。唯一の問題は、手書きの署名や紙の書類が求められた場合です。そのため電子署名システムを開発する必要があります」

あらゆる要素を考慮する

テムズ川の下にスーパー下水道と呼ばれる下水道トンネルを建設中のTidewayでは、software as a service(SaaS)をベースとするツールなどを活用して財務機能の効率性と柔軟性を最大化する財務テクノロジー戦略を採用し、確実に効果を上げています。

「当社のTMSは、以前はオンプレミスに設置されていましたが、最近SaaSバージョンに移行しました。そのため、今ではTMSがクラウド上にあり、大変便利になりました」と語るのは、Tidewayのアシスタント財務担当であるElina Todorova氏です。

以前のシステムでは、業務用以外のラップトップPCからTMSにアクセスすることができませんでしたが、今では簡単にモジュールをオンオフすることができます。

また、現在財務チームが使用するシステムの自動化が進み、システム間の接続性が向上したことも業務運営に大きく貢献しました。

「当社の戦略は、Tidewayが一過性のプロジェクトである点を考慮に入れています。トンネル建設が完成に近づくにつれて会社および財務チームは縮小されます。そのため、テクノロジー導入に関する判断を行うにあたっては、予想されるタイムフレーム内での費用対効果分析を必ず行ってきました」とTodorova氏は言います。

さらに同氏は、「全体の戦略の中で自動化できる部分は可能な限り自動化し、業務フローも可能な限りシームレスにしました。財務チームは4人で決して大きくはありません。そのため、業務効率の向上が常に最優先事項でした」と述べています。

Tideway社が使用するTMSであるFIS Integrityは、同社の会計システムであるNetSuiteと統合されています。

「当社のTMSはNetSuiteから支払に関するファイルを受け取り、会計仕訳帳をNetSuiteにエキスポートします。また、当社がマネーマーケットファンドにキャッシュを投資する際に使用するトレーディングプラットフォームとも統合されています。さらにブルームバーグとも接続されているため、市場金利をTMSにインポートすることも可能です」とTodorova氏は言います。

支払に関してはさらに高度化できる余地が残っています。同社はしばらく前にSWIFTの導入も検討したのですが、Tidewayが多額の支払を行う期間は3、4年しかないことを考慮するとコストと手間がかかりすぎると判断して、導入を見送りました。

サイバーセキュリティに注力

新型コロナウイルスのパンデミックの期間中も、財務部門へのサイバーセキュリティ攻撃が減ることはありませんでした。今後も攻撃が減る可能性は低いと思われます。その防御のためには、費用と時間がかかるテクノロジーへの支出を避けることができません。

今求められているソーシャルディスタンシングや断続的ロックダウンは、パンデミックの終息と共に必要性が減るでしょう。しかし在宅リモートワークに関しては、その実務的および心理的課題が克服されたことから、今後も継続して行われる可能性が高く、サイバーセキュリティの確保に対する関心がより高まるでしょう。

例えば、Stebbings氏は次のように述べています。「家庭のWi-Fiネットワークはセキュリティが弱いため、サイバー攻撃のリスクが高まる可能性があります」

財務部門もますます巧妙化する外部からのサイバー攻撃に対処しなければなりませんが、実はセキュリティチェーンの中で最も脆弱な部分は依然として人間です。

ACTでアソシエイト・ポリシー・アンド・テクニカル・ディレクターを務めるNaresh Aggarwal氏は次のように述べています。「リスクの多くは実際にはテクノロジーからではなく人の行動から発生しています。好奇心や他人を助けたいという気持ちから、不審な添付ファイルを開けたり他人にマーケットニュースサーバーのIPアドレスを教えたりして、失敗してしまうのです」

このため財務部門においては、リスク軽減のための戦略を正式に定めることが必須です。

しかし、財務部門のテクノロジー戦略に関してどんなに素晴らしい計画や目標、指針を策定したとしても、タイミングが悪ければ全てが台無しになってしまうこともあります。

「コロナ危機の前に数多くの財務システムを導入しておけばよかったと悔やまれてなりません」と語るのは、最近International Personal Financeのグループ財務担当に就任したChristof Nelischer氏です。

同氏は2020年4月にThe Treasurer誌に対して、TMSプロジェクトを立ち上げ、電子取引および会社間ネッティングシステムの導入を計画していたと語りました。

しかし新型コロナウイルスの感染拡大およびロックダウンが発生して足元の状況に早急に対処することが必要となったため、同計画は一旦棚上げせざるを得なくなりました。

Nelischer氏は、前職のWillis Towers Watsonの財務部門において最先端の財務テクノロジー戦略の策定および実行に携わった豊富な経験を有しています。そのため、International Personal Financeで計画実行の機会を逸してしまったことを大変残念に思っています。

同氏は「もっと早く計画を実行していればそれがどれほど役に立ったかを、現在のコロナ危機によって痛感させられました」と語る一方で、足元の状況を前向きに捉えています。

「システムをベースとした体制を構築することにより業務の自動化や財政状態の詳細な把握が可能となるなど、システムのメリットがコロナ危機のおかげで明確になったことはプラスと考えています」と同氏は述べています。

たとえ最悪のシナリオからでさえ、得られるものはあるのです。