Read the English version published on Aug. 15, 2023.
本稿はLisa Duが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。
中国の規制当局は長年、2兆9000億ドル(約422兆円)規模の信託業界を管理しようと試みてきた。この業界は中国のシャドーバンキング(影の銀行)の一部で、通常の銀行預金よりも大きなリターンを提供するが故に、リスクを伴う可能性がある。資産運用会社大手の中植企業集団の傘下にある信託会社が今月、複数の高利回り投資商品の支払いを滞らせたことで、懸念は浮き彫りとなった。世界2位の経済大国である中国の経済が懸念されるという微妙な時期の展開でもある。
1. 信託会社とは何か?
家計の貯蓄を集めて融資に回したり、不動産や株式、債券、商品に投資したりする規制が比較的緩い会社を指す。これらすべての資産クラスを扱う中国の金融会社は他にない。かつてこの業界は中国の富裕層にとって、多額のリターンを得るために資金を預ける安全な場所と見なされていた。しかし信託会社は近年、何十億ドルもの投資商品でデフォルト(債務不履行)に陥り、規制当局が中国のシャドーバンキングの行き過ぎを取り締まり始めた2017年のピーク時と比べ、業界規模は約20%縮小している。
2. 中植とは?
信託会社やウェルスマネジメント、プライベートエクイティー(PE、未公開株)に関与するシャドーバンキングの大手。北京を本拠とし、解直錕氏が1995年に創業した。解氏が心臓発作で亡くなった2021年は、新型コロナウイルスやそのパンデミック(世界的大流行)を受けて中国経済が減速、資本市場のボラティリティーが高まった。現在は約1兆元(約20兆円)を運用している。主要投資先の一つが33%出資する中融国際信託であり、データプロバイダーのユーストラストによると、同信託では270商品、総額395億元が年内に償還期限を迎える。これら商品の平均利回りは6.88%と、銀行の1年物預金金利1.5%を大きく上回る。
3. 中植と中融の何が問題なのか?
中融を含め中植の関連企業が発行した商品の支払いを受けられなかったと、顧客3社が11日に開示。中融は現状についてほとんど公表していないが、同社が営業不可となっているとの偽の書簡がソーシャルメディア上に出回っていることを認識していると明らかにしている。同社ウェブサイトの発表によると、これについて当局に報告した。ソーシャルメディアに出回った真偽不明の書簡1通の中で、中植の資産運用担当者は顧客に謝罪し、グループの資産部門が7月中旬以降、すべての商品で支払い遅延を決定したと説明。同書簡によると、影響を受ける投資家は15万人以上、投資残高は2300億元に上るという。
4. 政府は何をしているのか?
この問題に詳しい関係者によると、中国の国家金融監督管理総局(NFRA)は、中融の債務残高とリスクを調査する作業部会を設置した。同当局は中融に対し、将来の支払い計画と、流動性不足に対処するために処分可能な資産について報告するよう求めたという。
5. なぜ中国にとって重要なのか?
中国政府は、同国経済への信頼回復を迫られている。投資家は、新型コロナ関連規制からの回復ペースの遅さと、巨大な不動産セクターで続く弱さを警戒している。中国の7月の銀行融資は09年以来の低水準に落ち込み、企業と消費者の需要が衰えていることを示している。同国有数の不動産開発業者である碧桂園は、債務不履行の危機に瀕している。中植の危機は、シャドーバンキング業界がこうした問題に対応できる能力に欠け、一部での動揺がすぐに連鎖して広範な信用危機を引き起こす「伝染」リスクを高めているのではないかとの認識につながっている。不動産業界における金融不安は比較的収まっているものの、信託会社や資産運用会社における問題は、個人投資家や富裕層、企業に広がる恐れが大きい。
6. 不動産危機が中植の問題の根源か?
まだ、はっきりしていない。分かっているのは、中国の信託会社は不動産開発業者に関連する投資商品を提供しており、過去に債務不履行に陥ったことがあるということだ。中融の年次報告書によると、同社の信託運用資産6290億元の11%を不動産が占めている。同社は昨年、少なくとも10件の不動産プロジェクトに出資。最終的にこれが、投資家に発行した2300億ドル相当の不動産担保ファンドの一部支払いに充てる現金を生み出すことに賭けた。期待された不動産市場の回復は、今のところ実現していない。
原題:Why Missed Payments at China Trust Firm Jolted Market: QuickTake(抜粋)
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。