Read the English version published on November 21, 2025.
主要ポイント
保険主導の資本フローから債券ETFの台頭まで、投資家は利回り、流動性、分散投資について見直しています。 本稿では、ニューヨークで開催されたブルームバーグの「Future of Fixed Income(債券の未来)」イベントで交わされた議論をもとに、市場が新たな局面に入るなかで、注目の焦点が利回り、分散投資、そしてデュレーションへとどのようにシフトしているかをご紹介します。
長年にわたる利回りの低迷、そして短期的な上昇局面を経て、債券はポートフォリオのリターンの中核を担う存在として再び浮上しつつあります。レバレッジド・ローン(leveraged loan)およびプライベートクレジットへの投資額はそれぞれ約1.5兆ドルに達し、米国ハイイールド債市場とほぼ同規模に拡大しており、ETFのイノベーションを受け、債券へのアクセスも急速に拡大しています。2025年10月にニューヨークで開催されたブルームバーグのFuture of Fixed Incomeイベントでは、市場が新たな局面を迎える中で、利回り、分散投資、そしてデュレーションへの注目が高まっていることを業界リーダーたちが強調しました。
利回りが再び注目を集める
長年にわたる低金利環境の中で、債券投資家はスプレッドを最重視してきました。しかし、米国ハイイールド債の利回りが6.5%から7%に上昇する現状では、相対的な割安さよりも絶対的な収益水準が重要になってきています。「今は利回りが優先されています」と、JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、Priya Misra氏は述べます。
スプレッドは依然としてタイトな水準にありますが、これは企業のファンダメンタルズが堅調であることを反映したものです。これはすなわち、企業のバランスシートは健全で、テクニカル面でも強固であり、債券需要も旺盛であることを意味します。多くの企業はパンデミック期に借り換えを行い、歴史的な低金利で長期資金を確保しました。その結果、現在のデフォルト率は低く、企業収益も堅調に推移しています。こうした環境は分散投資やアクティブ運用の追い風となっており、Misra氏が指摘するように、一部のハイイールド債発行体は「米国政府よりも信用度が高い」と言えるケースも出てきています。
公的市場とプライベート市場の融合
ハイイールド債の公的市場規模は10年前とほぼ変わらず約1.5兆ドルですが、その構成は劇的に変化しています。現在では、より信用力の高い発行体が市場の中心を占める一方、信用創造のリスクが高い部分は、レバレッジド・ローンとプライベートクレジットへと移行しています。
さらに、レバレッジド・バイアウト(LBO)やプライベートエクイティに利用されるレバレッジド・ローンも現在1.5兆ドル近くに達しており、プライベートクレジットも同様の拡大を続けています。両者を合わせると、かつてハイイールド債の公的市場に流入していた資金の増加の大部分を取り込んできたと言えます。
こうした資金の移動により、公的市場とプライベート市場という二つの領域は、片側には流動性、もう片側には柔軟性が位置する一つのクレジットの連続体として事実上融合しつつあります。ブルームバーグの債券&プライベート市場責任者であるBrad Fosterは、この変化について次のように述べます。「債券市場における最も顕著な変化の一つは、かつては明確だった公的クレジットとプライベートクレジットの境界線が曖昧になりつつあるという点です」 かつては単一の貸し手のためのニッチな市場だった直接融資は、複数の貸し手から成るクラブローンという形に進化しており、現在では、公的市場とプライベート市場の間で機会を見極めて選好する投資適格の借り手を引き付けています。
このような市場構造の収束は、プライベート市場の成熟だけでなく、企業の資金調達における構造的な多様化も反映しています。そして、投資家が伝統的な債券市場を超えた利回りと流動性を求め続ける中で、この傾向は今後加速する可能性が高いと考えられます。「今後数年間で、プライベート市場やオルタナティブファイナンスの規模が縮小するようなシナリオはほぼ考えられません。むしろ、大幅に拡大していくことになるでしょう」とFosterは述べます。
保険会社が主導権を握る
このように一体化しつつあるクレジットの連続体を支える最も強力な構造的ドライバーとなっているのが保険会社であり、プライベートクレジットへの重要な資金配分者となりつつあります。
Crayhill Capital Managementの共同創業者兼マネージングパートナーであるCarlos Mendez氏によると、年金・年金型商品の発行額は2023年に約4300億ドル規模、2030年までには1.5兆ドルに達すると予測されており、長期資本がプライベートディールに直接かつ急速に投入されています。
「これは構造的な再編成です」とMendez氏は述べます。「預金は銀行業界全体から流出し、資本が保険会社に流入しています」
そして、人口動態はその根本的な原動力であるとMendez氏は指摘します。2034年までに、米国の65歳以上の人口は18歳未満の子どもの人口を上回ると予測されています。また、今後10年間で毎日1万人以上の米国人が65歳を迎え、約80兆ドルに上る家計資産は、債券のように予測可能な収入と安心感をもたらす商品へと着実に移行すると予想されています。
規模、規律、そして次に試されるもの
プライベートクレジットは、分散、規模、そして規律の再認識によって、新たな成熟段階に入りつつあります。「かつては直接融資と同義だったこの市場は、資産担保型ファイナンス、ジュニアキャピタル、そしてクロスボーダー事業拡大をカバーするまでに成長しました」と、Oaktree CapitalのChristina Lee氏は述べます。
今や規模は利回りと同じくらい重要になっています。借り手の間では、大規模で繰り返し融資を提供できる貸し手を選好する傾向がますます高まっています。しかしながら、次の景気後退期を乗り切るには、規模だけでなく経験も重要です。市場にある約600社の直接融資業者のうち、信用サイクル全体を通してポートフォリオを管理してきたのはわずか3.5%程度にすぎません。
こうした経験格差は、かつて投資家が容認していた不透明性に業界が直面する中で、透明性とリスク管理への再注目を促しています。その結果、市場全体で、運用会社が担保のモニタリングや流動性の監視を強化し、過去の行き過ぎから学んだ教訓を再生可能エネルギーやレバレッジド・レンディングといった急成長セクターに適用しています。そして、プライベート市場が拡大するにつれ、伝統的な規律こそが最も持続的な強みとなる可能性があります。
ETFは効率性とアクセス性を再定義
プライベート市場がクレジットユニバースを拡大する一方で、公的市場も進化を遂げつつあります。中でも債券ETFは、価格発見、流動性の確保、ポートフォリオの効率性向上といった観点から不可欠なツールとなっています。債券インデックスはこの進化において中心的な役割を担っており、ETF設計の基礎、ポートフォリオ構築の指針、さらには債券市場全体にわたりパフォーマンス基準を定義するベンチマークとして機能しています。
現在、1兆ドルを超える運用資産がブルームバーグ債券インデックスに連動しており、ETFという構造が債券投資を制度化するプロセスを後押ししたことが浮き彫りになっています。近年では、イノベーションの焦点はレバレッジではなく、ファンドがいかに資金の流れを管理し、収益をどのように分配し、税引後利回りを最大化できるかに移っています。例えば、現物交換やスワップ取引といった仕組みを活用することで、ETFはクーポン収入を未実現キャピタルゲインに変換し、税効率を新たなアルファの源泉へと転換することが可能になります。
こうしたETFの汎用性の高さにより、債券へのアクセスがさらに拡大しています。投資家はETFを活用し、短期国債から投資適格社債、さらにはプライベートクレジットのエクスポージャーを組み込んだポートフォリオに至るまで、クレジット見通しを精緻に表現できるようになりました。加えて、アクティブ債券ETFも、株式に比べて模倣が難しい、債券市場特有の複雑性と断片性を踏まえた真の成長分野として台頭しています。
多くの点において、債券ETFの台頭は、クレジット市場におけるより広範な構造変化を映し出しています。当初、株式のような取引手段として始まったETFは、今や戦略的な債券アロケーションを担うツールへと進化し、債券市場における流動性をより効率的、柔軟かつ大規模に引き出す役割を果たしています。
AIとFRB:新たなマクロ方程式
マクロ環境は依然として変動の激しい状況が続いています。インフレが鈍化し、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策焦点が雇用にシフトする一方で、自動化と人工知能(AI)主導の事業再編によって増幅される景気減速リスクは、今やインフレを上回る脅威となっています。
さらに、AIの台頭がこのマクロ像を複雑化しています。データセンターやコンピューターインフラへの設備投資は、さまざまな業種で雇用機会を置き換えながらも、今後10年間で米国GDP成長率に年間最大1.5ポイント寄与する可能性があります。とはいえ、この規模の投資は現行のモデルでは捉えにくく、2000年代初頭のハイテクブームと類似した状況が続いています。また、AIインフラに関連するエネルギー需要の増加や電力価格の上昇も、市場への圧力となっています。FRBは、こうした不確実性を注意深くモニタリングしています。
「この構造的なAIのテーマによって、景気循環的な減速が覆い隠されています」とMisra氏は警鐘を鳴らします。「FRBはこうした事態を悪化させるわけにはいかないので、比較的早期に利下げへ動くことになるでしょう」
今後の見通し
有利な人口動態と政策の追い風を受けて、債券市場は新たな均衡へと進化しつつあります。その新たな均衡とは、より精緻なクレジットの選別、規律あるデュレーション管理、そして構造面での一段の高度化によって定義されるものです。現在では、保険会社がプライベートクレジットの成長をけん引し、ETFが投資機会を再定義し、投資家が利回りと規律の価値を再発見する中で、債券市場は安定性、純利回りの最大化、商品の高度化を特徴とする新たな成長段階に突入しています。
債券インデックスは、複雑化を続ける市場環境を乗り切るために必要な構造、透明性、比較可能性を提供する存在として、今後の局面においても引き続き中心的な役割を果たしていくことになるでしょう。
ブルームバーグ債券インデックスが債券市場全体にどのように明確性、一貫性、インサイトをもたらすかについては、こちらをご覧ください。
本稿のインサイトは、2025年10月にニューヨークで開催された「Future of Fixed Income」でのパネルディスカッションおよび対談に基づいています。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。