ビットコインのエネルギー問題ー解消困難な理由

Read the English version published on March 21, 2022.

本稿は、Jesper StarnとJosh Saulが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

1. ビットコインの電力消費量

ビットコインの推定電力消費量は、2017年初頭の年間6.6テラワット時から2022年初頭には年間138テラワット時へと急増しました。実行推定電力消費量を追跡している英ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンスセンター(CCAF)によると、これはノルウェーなどの電力消費量が低めの国を上回る消費量です。二酸化炭素(CO2)排出量に関しては、デジタル資産の調査会社Digiconomistによると、ビットコインの採掘による年間排出量は1億1400万トンに上り、これはベルギーの排出量に匹敵します。

2.大量に電力を必要する理由

最大手の採掘業者は、データセンターのような倉庫の中で何万台ものコンピューターを稼働させています。ここで、ネットワーク内の取引の検証のための計算が実行され、計算が完了すると新しいビットコインがリリースされます。採掘業者の数が増えれば増えるほど、計算の複雑さは増していきます。2022年初頭には、求められる処理能力が過去最高となり、採掘業者は競争力を維持するために、さらに強力なマシンと大規模なサーバーファームへの投資を余儀なくされました。ビットコインの擁護者たちは、暗号通貨はまだ世界の電力消費量のごく一部しか使用しておらず、世界のクリスマスイルミネーションを点灯させるのに必要な電力消費量よりも少ないと主張しています。

3. 採掘業者のCO2排出量削減に取り組んでいるか

はい。一部の採掘業者は採掘に、「フレアリング」と呼ばれる焼却処分に回される余剰の天然ガスを使用しています。また、サーバールームの上にソーラーパネルを設置したり、CO2を排出しない原子力発電を調達する契約を結んだりしている採掘業者もあります。採掘業者の多くが、ニューヨーク州北部、カナダ、アイスランド、ノルウェーなど、CO2を排出しない水力発電や風力発電が豊富にある場所にオフィスを移動しています。オフィス移動の動機は、気候変動への懸念と同時に、自社の利益にもあります。再生可能エネルギーは他の電源よりも安価な傾向があるためです。

4. ビットコイン採掘による排出量は減少しているか

これは判断が難しいところです。21年6月の中国当局による暗号資産取引の禁止命令により、ビットコイン採掘業者は、同国のクリーンで豊富な水力電源を奪われ、安価で信頼できる電源を探し求めるようになりました。米国内の再生可能エネルギー電源が利用可能な地域に移動した採掘業者もあれば、カザフスタンのように、化石燃料が依然としてエネルギー構成の大半を占める国にも移動した採掘業者もあります。これらのがビットコインのCO2排出量に与える影響は不明です。誰も、すべての採掘業者がどこにいて、どのような種類の電力を使っているか正確に把握していないためです。しかし、2月に科学雑誌「Joule」が発表したある研究では、中国の方針変更以降、ビットコインの環境負荷が悪化し、ネットワークの電力に使用される再生可能エネルギーの割合は、20年の40%以上から21年8月には25%程度に低下していると指摘されています。また、採掘業者が処理能力の優位性を維持するために、古いコンピューター機器を廃棄するケースが増え続けており、これらが環境に与える影響も見逃すことはできません。

5. 各国政府はどのように対応しているか

再生可能エネルギーが豊富にある国・地域では、ビットコインの採掘業者は依然として歓迎されています。例えば米国のテキサス州では、州の風力発電の出力変動に対応するデマンドレスポンス(電力の需給バランスを調整する仕組み)のソースとしてより多くの採掘業者を誘致しようとしています。一方、他の地域では採掘業者は脅威として見なされています。中国当局による暗号資産取引の禁止は、電力不足で電力供給の制限と工業生産の削減を余儀なくされた状況に対応する措置でした。ビットコインの主要な採掘拠点であるカザフスタンは、自国のエネルギー不足に直面した後、採掘業界に制限を課しました。スウェーデンの金融規制当局は、暗号資産の採掘について、「早急に実現すべき低炭素社会移行への取り組みを脅かす」として、欧州全域での禁止を求めています。一方で、一部の政府では、再生可能電力は運輸や製造など脱炭素化を目指す伝統的な産業に供給することが望ましいと考えています。その他大手の電力需要家は、ビットコインの採掘業者が限られたエネルギー資源を吸い取り、ホスト国には雇用や税収などの見返りがほとんどないことに不満を抱いています。

6. こうした懸念は暗号通貨市場に影響を及ぼしているか

はい。21年2月、米電気自動車(EV)メーカーのテスラはビットコインに15億ドルを投資し、決済手段として暗号通貨の受け入れを開始すると発表しました。この2つの決定が、ビットコイン価格急騰のきっかけとなりました。しかし、5月に同社イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、環境への配慮を理由にビットコインの受け入れを停止するという、驚くべき方向転換を発表しました。この決定が、ビットコインの売りを促し、他の多くのデジタル通貨にも波及しました。

7. これらの状況がビットコインの将来に及ぼす影響は

ビットコインに批判的な人たちは、ビットコインのデジタル台帳(ブロックチェーン)上の取引を検証するために使用されるエネルギー集約的な「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」システムは、現在、時価総額が1兆ドルにも上る資産を支えるようには設計されていなかったと主張しています。アルトコインの支持者たちは、ビットコインが環境に与える影響を、より消費電力の低い別の通貨に切り替えるべき根拠とみています。ソラナやカルダノなどの新しいブロックチェーンの多くは、消費電力の少ない代替プロセスである「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」を採用しています。ビットコインのライバルであるイーサリアムは、2022年半ばにPoWからPoSに切り替える予定で、推定エネルギー消費量の最大99%の削減が期待されています。ビットコインは依然として世界の主要な暗号資産ですが、その普及の拡大に伴いエネルギーを巡る課題も大きくなりつつあります。ビットコイン価格が上昇すると、採掘業者の損益分岐点が下がり、効率の悪い古いマシンを使い続けるインセンティブを採掘業者に与えることになります。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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