LIBOR移行に備え、根本的な変革が求められるアジア企業

Read the English version published on July 30, 2020.

本稿はブルームバーグのAPACヘッドであるBing Liおよび金利デリバティブ商品のグローバルヘッドであるSteffan TsilimosがRisk.netに寄稿したもので、ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。

LIBORからリスクフリーレート(RFR)への移行が金融機関および事業会社に広範な影響を及ぼすことはよく知られた事実です。あらゆる種類の金融商品やアセットクラスで使われている金利指標が根本的に変更されるため、その影響は金融機関や事業会社の経営にまで及びます。企業がこれに対応するためには数多くの作業が必要です。中でも損益を算出し直し、リスクを管理し、新たなプライシングを行うためには、システムとデータ管理を全面的に見直す必要があります。

この根本的な変更に対してアジア太平洋地域の金融機関および事業会社も準備を始めていますが、その進捗状況には差が出ています。「一部の国の対応は他国よりも進んでいます。また、デリバティブ市場と現物市場の間でも進捗状況に差が出ています。例えば、弊社の顧客であるセルサイド金融機関の多くは、市場エクスポージャーがかなり大きいことから事業会社よりはるか以前にLIBOR移行計画の検討を開始しました」と、ブルームバーグのアジア太平洋地域ヘッドであるBing Liは述べています。

一方で、円滑な移行を目指して計画の検討を開始する事業会社の数も増えていますが、その多くにとってのきっかけは規制当局に背中を押されたことでした。オーストラリア証券投資委員会は2019年5月に企業のCEOに書簡を送り、移行準備を開始するよう要請しました。日本においても、日本銀行や金融庁が同様の要請を行っています。

アジアのデリバティブ市場においては、総じてRFRの導入準備が進んでいます。これは国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)が、移行を円滑に進めるためにその枠組みやガイドライン、プロトコルなどを提供して支援を行っているからです。例えばシンガポールにおいては、銀行間貸付スワップ金利(SOR)からシンガポール翌日物金利平均(SORA)への移行準備がかなり進んでいます。シンガポール銀行協会によれば、SOR-SORAステアリンググループに属する銀行の過半数はSORAを参照するデリバティブ取引を開始する準備が整っており、他の資産クラスにおいても準備作業が順調に進んでいます。それでもなお、まだやるべきことはアジア地域においてもグローバルに見ても数多く残っています。

「中央清算されない2者間の取引については、ドキュメンテーションをやり直すか、ポートフォリオのネッティングセットごとに既存のの修正交渉を行うことができます。中央清算される取引については、中央清算機関(CCP)が、既存のLIBORスワップ・レッグをRFRに移行するためにマルチラテラルオークションやその他のプロトコルを実施することができます。また、2者間取引および中央清算される取引の双方について、既存のLIBOR契約を打ち切るとともにRFRを指標として参照する新たな取引を行うことや、LIBORレッグを相殺するベーシス取引を行うことも考えられます」と、ブルームバーグで金利デリバティブ商品のグローバルヘッドを務めるSteffan Tsilimosは述べています。

キャッシュ商品市場にはさらに多くの課題 

Tsilimosはまた、キャッシュ市場の参加者は異なる複数の課題に直面すると述べています。最大の課題の1つは既発債のフォールバック条項で、多くのケースで存在せず、存在したとしても曖昧で発行体により大きく異なっています。また既発債の参照指標をLIBORからRFRへ切り替える作業も大きな課題です。債券を保有する投資家の同意が必要であることから、発行体やカストディアンがイニシアチブを取ることを多くの市場参加者が望んでいます。フォールバック条項が曖昧あるいは欠如している債券の一括売却を望む投資家もいますが、こうした債券の流動性は往々にしてフォールバック条項がきちんと整った債券に比べて低くなっています。

キャッシュ商品のフォールバックレートについてコンセンサスを得るのが難しいもう1つの理由は、こうした債券がリテール市場で取引されていることだとTsilimosは言います。金利スワップ取引と異なり、関係者が3者以上になるためです。例えば、典型的な住宅ローン担保証券の場合、抵当権者、抵当権設定者、カストディアン、発行体、投資家が関係者となります。

キャッシュ商品のドキュメンテーションでフォールバック条項を確認するのは重要な作業ですが、フォールバック条項が存在しなかったり、あるいはLIBORが廃止されても適用できなかったりするケースも存在します。

「各債券がそれぞれ固有の法的ドキュメンテーションを備えていることを考えると、ポートフォリオ内の全証券のフォールバック条項を確認するのは気が遠くなるような作業です。また、価値の移転が発生する可能性もあることから、同意を得るのはかなり困難であり、同意が得られない可能性さえあります」とTsilimosは述べています。

フォールバックが及ぼす影響の評価

ブルームバーグはキャッシュ商品のフォールバック条項を特定することができるツールを提供しています。運用会社や投資家の方々は、このツールを使ってフォールバックの影響を調べることができます。

「ブルームバーグは、変動利付債、地方債、証券化商品、優先証券、シンジケートローンなど幅広いキャッシュ商品のドキュメンテーションを調査して、フォールバック条項を特定しました。

こうして調べたフォールバック条項はブルームバーグターミナルのライセンスに応じて新しいフィールドとして閲覧することができます。またエンタープライズソリューションの一環としてデータライセンスを通じてダウンロードすることもできます」とTsilimosは述べています。

現在、LIBORフォールバック条項は各カウンターパーティ・ペアの間で異なっています。しかし、近く公表予定のISDAプロトコルを選択するカウンターパーティが増えれば、移行が円滑に進むことになるでしょう。またブルームバーグ・インデックス・サービスは、業界協議を通じて決定された正確な手法およびパラメータに基づいて算出を行います。

フォールバックデータの計算機能およびフォールバック条項はブルームバーグ分析ポートフォリオソリューションに統合され、LIBOR移行をグローバルにサポートします。

「ブルームバーグのデリバティブ分析ソリューションを注文執行・管理プラットフォームと併用することにより、バリュエーションおよびリスクへの影響を調べるとともに、LIBOR移行に対応するポートフォリオの変更をシームレスに行うことができます」とTsilimosは述べています。

ブルームバーグターミナルは、RFRを参照してデリバティブのプライシングをサポートします。金融機関や事業会社は、ブルームバーグのスワップ執行ファシリティーや英国およびオランダの多角的取引施設(BMTFおよびBTFE)を活用して、電子取引されるRFRベースのデリバティブ取引を執行することができます。

LIBOR依存度の調査

金融機関や事業会社は、LIBORへの自社の依存度を詳細に調査し、自社のニーズに合った効果的なアプローチを前向きに検討する必要があるとTsilimosは指摘します。

「移行を円滑に進めるためには、ポートフォリオの検証やリスクの分析を開始する必要があります。このプロセスにはISDA契約への変更に関する影響分析、CCPにおけるPAIへの準備、デリバティブ契約の参照金利をRFRに変更することに伴うリスクやバリュエーションの変化に関するwhat-if分析などが含まれます」とTsilimosは述べています。

what-if分析の実施

RFRの普及が進む中で、金融機関および事業会社は中央清算されたデリバティブおよび2者間のデリバティブからなるポートフォリオのバリュエーションおよびリスクに及ぼされる影響を把握する必要があるとTsilimosは言います。ブルームバーグ・マルチアセット・リスク管理システム(のアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)があれば、さまざまなシナリオの下でポートフォリオの損益やリスクが受ける影響についてwhat-if分析を行うことができます。シナリオの例としては、CCP、新たなRFRを導入するためのCSAの再ドキュメンテーション、RFRへの早期移行などがあげられます。

MARS APIはまた、単一のデータスナップショットから得られるリアルタイムの市場の状況を反映するように最適化されており、既存の契約を再編する際に完全な透明性と信頼性を保証し、移行によるリスクを軽減します。

オペレーション上の課題に対応

さらにブルームバーグターミナルは、2021年以降の不確実性がもたらす数多くのオペレーション上の課題にも対応します。例えば、RFRを参照する新たな証券やRFRのイールドカーブ分析、電子取引に関する情報もサポートしています。

「お客様はさまざまな機能を利用して、個別ポートフォリオのニーズに応じてカスタマイズされたソリューションにアクセスすることができます。例えば、キャッシュ商品とRFRを参照するデリバティブの金額の伸びをモニタリングしたり、デリバティブのプライシングやリスク分析を行ったりすることができます」とLiは述べています。

ブルームバーグターミナルは、ローン市場の複利計算もサポートしています。アジア太平洋地域のお客様への継続的なサポートについてLiは次のように述べています。「この地域の銀行に共通する課題は、変動金利のキャッシュフローをどのように計算し確定するかです」

「私たちは日本の銀行と協力して、幾つかのチャネルを利用した取引データ入力ととこの問題を解決するための新しい計算方法を活用したワークフローを作り上げました。ブルームバーグはお客様が各種データを収集、活用できるようにするとともに、このワークフローを地域の銀行がプライシングやリスク計測に利用できるようその導入を支援していきます」

「金利指標の移行は大変複雑な作業です。損益計算やリスク管理などの基本的なタスクを実行するためには、システムやデータ管理を全面的に見直す必要があるからです。このため、必要なテクノロジーの迅速な導入が鍵となります。ブルームバーグは、データやリスク、取引執行に関して一連のホストソリューションを開発しました。これにより2021年に迫ったLIBOR廃止に備える市場参加者の準備作業を支援していきます」とLiは最後に述べました。