脱炭素化:牧畜、セメント、鉄鋼産業の場合

Read the English version published on October 8, 2019.

本稿はVanessa Dezem、William Wilkes、Elena Mazneva の協力を得てReed LandbergとJeremy Hodgesが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

「脱炭素化」という言葉をご存じですか。温室効果ガスの排出を限りなくゼロにするために、産業ごと、プロセスごとに見直しを行うという、抜本的ですが大変手間のかかる気候変動対策のことです。火力発電を再生可能エネルギーに切り替えたり、電気自動車を増産したりといった取り組みはよく知られていますが、ここでは全CO2排出量の25%を占める農業と、合計で14%を占めるセメント製造および鉄鋼業について、あまり知られていない取り組みをご紹介します。

セメント

  • 排出源:クリンカと呼ばれるセメントの主原料を製造するには、キルン(釜)の中で石灰岩を高温で加熱します。その際に、石灰岩に含まれる炭素が酸素と結合してCO2が放出されます。熱源として化石燃料を使用する場合には、さらに多くのCO2が発生します。
  • 解決策:クリンカの使用量を抑える試みや、クリンカの代替物(石炭釜の煙突に付着するフライアッシュ、製鉄所の副産物であるスラグ、麻を混入した石灰など)の研究が進んでいます。
  • 課題:セメントは世界中でビル建設に幅広く使用されているため、当局はその代替物の承認には大変慎重です。また、代替物の中には通常のセメントの3倍のコストがかかるものもあります。
  • 長期的展望:セメントの生産量は今世紀半ばまでに25%近く増加すると予想されています。そこから放出されるCO2の削減は現在のところ、エネルギー効率の向上とクリーンな燃料への転換が進むかどうかにかかっています。しかし、これらによる削減量はたかが知れています。セメント業界の脱炭素化には、現在大規模に使用するにはまだコストが高すぎるCO2回収技術に頼らざるを得ないだろうというのが国際エネルギー機関(IEA)の見解です。
  • 明るい材料:ブラジルのセメントは、クリンカの代わりに火山性物質のポゾランを使用することから、世界で最もクリーンなセメントに数えられます。

  • 排出源:鉄鉱石から不純物を除去する従来の方法は、高炉の中で鉄鉱石をコークス(石炭から抽出した炭素の塊)と共に加熱するというものです。その際に、コークスから放出された一酸化炭素が鉄鉱石から酸素を吸収し、銑鉄とCO2が残ります。
  • 解決策:欧州の鉄鋼メーカーは、一酸化炭素の代わりに水素を使う方法を研究しています。再生可能エネルギーによって作られた水素は高炉の加熱にも使うことができます。また、鉄の再利用は新たな生産に比べてエネルギー集約度がはるかに低いため、CO2排出量削減に欠かせないと考えられています。
  • 課題:世界最大の鉄鋼メーカーArcelorMittalの最高技術責任者は、水素に切り替えれば鉄鋼生産のコストが2倍になると予想しています。切り替えに伴う初期投資については多額の政府援助が必要となるでしょう。
  • 長期的展望:世界の鉄鋼需要は、都市の成長に伴い、2019年から2050年までで50%増加すると予想されています。IEAは、鉄鋼の炭素集約度(一単位の生産に必要とされるCO2の量)を2030年まで毎年9%低下させる必要があるとしています。2010年から2016年までの平均低下率は1.4%でした。
  • 明るい材料:ドイツの鉄鋼メーカーであるThyssenkrupp AGは、鉄鋼生産の過程で放出されるCO2その他のガスを化学物質製造の原料として使用することにより、全体の排出量を削減するCarbon2Chemと呼ばれるパイロットプロジェクトを行っています。

農業

  • 排出源:広く行われている収穫後の刈り株焼却によりCO2が排出されます。また、無機肥料を大量に使用するとメタンガスと亜酸化窒素が排出されます。牧畜および牧畜に関連する農業(牧草の生育など)による熱帯雨林の破壊は、牧畜が農業による排出の60%を占める一因となっています。
  • 解決策:供給側ができることとしては、土壌管理の改善やメタン発生が少ない消化器系を有する家畜の開発などがあります。需要側では、肉や乳製品の消費量抑制や食品会社に対して環境にやさしい納入業者から原材料を購入するよう要請することなどがあります。
  • 課題:ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は、アマゾンの森林破壊抑制に反対する姿勢を取っています。また、アジアには小規模で貧しい農家が多く、その中には伝統的な農作業をやめることを嫌う農家も数多くあります。
  • 長期的展望:世界人口の増加とともに、中国をはじめとする新興国市場の消費者が豊かになりより多くの肉を食べるようになることから、畜産物の消費は2050年までに60%増加すると予測されています。
  • 明るい材料:先進国では肉の消費が予想を上回るスピードで減少しています。また、「ビヨンドミート」などの人口肉が投資家の関心を集めています。