気候変動に関する株主提案が減少-環境団体や規制当局の出番か

Read the English version published on October 5, 2023.

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンスESGアナリストAndrius Tilvikasと、ESGリサーチEMEA・APAC地域担当ディレクターAdeline Diabが共同で執筆しました。ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

企業が気候変動への取り組みや戦略⽅針などの是非を株主に問う「セイ・オン・クライメート(Say-on-Climate)」は、今年の年次株主総会シーズン以降に提案数が31%減少している上、株主による決議が必須ではありません。また、企業の気候変動対策に関する株主総会の議題も減少しています。これらを背景に、環境団体と規制当局による介入が始まりつつあります。フランスがセイ・オン・クライメートに関する株主投票を義務化したことや、オーストラリアの炭素クレジットに関する法の改定を受けて英豪鉱山会社リオ・ティントが12億ドルを減損処理せざるを得なくなったことなどからは、世界の企業に対する投資による潜在的影響が分かります。

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企業による「セイ・オン・クライメート」提案が31%減少


ブルームバーグ・インテリジェンス(
BI)の分析によると、欧州では投資家の監視の目が弱まりつつあることから、今年の企業経営陣によるセイ・オン・クライメートに関する株主への提案は31%減少して20件となりました。そのうち、株主に却下された提案は皆無で、承認率は2022年に減少した後に再び上昇しています。目立った例外としてはスイスの資源商社グレンコアがあり、同社の承認率は2021年に比べて25%以上減少し69.7%となりました。

欧州では企業によるセイ・オン・クライメートに関する株主への提案は任意であることから、投資家が企業の気候対策への取り組みについて継続的に見解を表明できないというリスクが生じています。英石油会社BPは、2023年の年次株主総会で気候戦略の修正案に関する投票を実施しませんでした。そのため、投資家は同社への不満を表明する別の方法を探さねばならず、取締役会会長の支持率は2022年の96.1%から90.2%に低下しました。

欧州で気候変動に関する株主提案が3倍に


気候変動に関する株主提案は、気候戦略や移行プロセスに対する懸念を受けて
2022年には減少しましたが、今年は3倍に増加しています。オランダの環境保護団体「フォロー・ディス(Follow This)」は、特に石油・ガスセクターに焦点を当て、英シェル、BP、仏トタルエナジーズに対して気候変動に関する決議案を提出し、中期的なスコープ3排出削減目標を設定するよう要請しました。トタルエナジーズでの(法的拘束力がない)勧告的決議は30.4%の投資家から支持を得ましたが、シェルとBPでの拘束的決議における支持率はそれぞれ19.3%と16.3%でした。

これとは別に、英最大の資産運用会社リーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)や英HSBCアセットマネジメントなどのグレンコアの投資家連合(運用資産残高(AUM)は合計2.2兆ドル)は、同社の一般炭生産と支出がパリ協定の目標にどのように整合しているかについての開示を求める株主決議案を共同で提出しました。この提案は投資家から28.8%の支持を得ました。

フランス、セイ・オン・クライメート投票の義務化を採択


フランスは、気候変動に関する株主決議が任意であるというマイナス面を踏まえ、すべての上場企業に対して自社の気候に関する戦略と移行について開示するとともに株主投票を実施することを義務付ける法案を採択しました。これにより、投資家は気候戦略に関する
3年ごとの勧告的決議、およびその実施状況に関する年次投票を実施する権利を有します。この法律には、欧州連合(EU)の慣行となっている、役員報酬方針に関する3年ごとの株主投票、および報酬報告書に関する年次投票が反映されています。

今回の改正は、今年初めのBPの事例のように、企業が投資家に発言機会を提供せずに気候戦略を修正することを防ぐものです。経営陣からのセイ・オン・クライメート提案があったフランス企業は、2023年にはわずか9社でした。

 

温室効果ガス排出削減法施行で座礁資産化が加速する見通し


オーストラリアは、国としてのコミットメントを達成する鍵となる温室効果ガス排出削減法案を採択しましたが、これにより世界中の企業は広範な影響を受け、座礁資産のリスクを高める恐れがあります。リオ・ティントはすでに減損費用として
12億ドル(上期税引き前利益の15%)を計上しています。さらに同社は、スコープ12の排出量を15%削減するという2025年の目標を達成する見込みがなく、そのためカーボンオフセットを購入せねばならないことも認めました。

必要とされる削減ペースが早まっているため、こうした課題は悪化の一途をたどると考えられます。リオ・ティントは、2030年までにスコープ12の排出量を50%削減するという中期目標を設定しました。気候変動に関する最初の目標期限とされている2025年が近づいている今、短期目標を達成できず、気候戦略を修正する企業が増えていくとブルームバーグでは予想しています。

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