新型コロナ感染の世界的拡⼤で遅れる景気回復と五輪

本稿はブルームバーグエコノミストの増島雄樹が執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。(2020年3月23日)

新型コロナウイルス感染の世界的拡⼤により、⽇本経済が1−3⽉期にテクニカルリセッション(2四半期連続マイナス成⻑)を迎えるのはほぼ確実となり、今後もさらに痛みを伴うことになりそうだ。われわれの最も楽観的なシナリオでさえ、経済は2020年に縮⼩する⾒通し。これまでのところ⽇本国内での感染拡⼤は相対的に抑えられているが、欧州と⽶国を襲う新型コロナウイルスの波は、⽇本経済の回復のタイミングを7−9⽉期以降に遅らせつつある。原油価格の急落は製造業と消費者の痛みを和らげる可能性があるものの、娯楽施設の休業や⼤規模イベント⾃粛の政府要請は、外需の弱さと相まって、そのメリットを抑制する。

⽇本銀⾏による指数連動型上場投資信託(ETF)と⽇本国債の追加購⼊は、⾦融システム・市場の安定化において、現在ある程度機能している。安倍晋三⾸相は国内のウイルス感染の拡⼤がより明確に抑えられたタイミングで、追加的な経済対策を講じることを検討しているが、海外での感染拡⼤が広まる中、東京五輪・パラリンピック延期の可能性も現実味を帯びてきている。

  • 3つのシナリオを検討する。メインシナリオでは、中国での感染拡⼤は4−6⽉期まで続き、ウイルスのまん延が⽇本や他の主要経済国に影響を及ぼす。楽観的なケースでは、⽇本経済への打撃は1−3⽉期に限定され、中国が回復するにつれて4−6⽉期からV字回復する。⻑期にわたる⼤規模感染の最悪シナリオは、⽇本と他の主要経済国では、中国と同様の規模でウイルスが広がるとの前提を置く
  • ドルキャッシュに対する強い需要が⼀段落すれば、円の避難需要が再認識され、円⾼による成⻑への逆⾵をもたらす可能性がある。円⾼は経済成⻑とインフレの下⽅リスクを増⼤させ、⽇銀に追加対策の検討を促すだろう
  • 政府は今年に⼊り予定されている財政刺激策を開始している。ウイルスの感染拡⼤に対応する新たなパッケージは、既に発表されている2つの緊急措置に加えて、現在検討中だ。真⽔の⽀出は抑制されるとみているが、新経済対策の全体の数字は⼤きくなる可能性が⾼い
  • 五輪が仮に来年以降に延期されれば、20年の国内総⽣産(GDP)成⻑率に少なくとも0.2ポイント程度の下振れ、新たな開催年に同程度の成⻑率上振れ要因となるが、延期が⻑期にわたるほど、回復の遅れや新たな財政負担など下振れリスクは⾼まる
  • 中国−ウイルスの影響で20年のGDP成⻑率⾒通しは1.4%に引き下げ
  • ⽶国−GDP9%縮⼩に直⾯、過去最悪に匹敵
  • ユーロ圏−ウイルスショックとの闘いで危機に瀕する

世界的ウイルスショック⽇本経済の3つの厳しいシナリオ

いずれのシナリオでも、20年にプラスの経済成⻑は望めない。ベースラインシナリオでは、⽇本の経済成⻑率は19年のプラス0.7%から⼀転して20年にマイナス1.4%に落ち込むと予測する。楽観的なケースではマイナス0.8%、⻑期にわたる感染拡⼤シナリオでは、マイナス2.3%成⻑と⾒込む。感染拡⼤が本格化する前、今年の成⻑率は0.3%と予測していた

新型コロナの感染拡⼤前でも、消費税増税と台⾵は消費者の財布や街⾓景気に重くのしかかっていた。ブルームバーグ・エコノミクスの景気後退確率指数は、18年末以降、景気後退のリスクが⾼まっている

新型コロナの確定感染者、死亡者数

出所)WHO、NHC、ブルームバーグ・エコノミクス

確認されたの感染者数と死亡者の数は⽇本でまだ増加しているが、その増加ペースは⽶国と欧州で⾒られる顕著な加速と⽐較して⽐較的安定している。それでも、中国、⽇本に続く世界的な感染の広まりは⽇本の成⻑に影響を与え、おそらく景気後退からの経済の回復を遅らせるだろう。

2020年の経済的苦痛を緩和するための財政⽀出

(出所)ブルームバーグ・エコノミクス、内閣府

政府の財政刺激策は19年の主な成⻑ドライバーであり、今年も引き続き維持されると予想され、メインシナリオで 20年のGDP成⻑率を0.7ポイント⽀えている。ウイルス流⾏とそれに伴う⾦融市場の不安定さは、政府にさらに⽀出を増やすよう圧⼒をかけている。⼤規模に実施された場合、20年の⼤幅な経済収縮の規模を制限する可能性がある。同時に、21年も財政⽀出がかなりの⽔準にとどまらない限り、その反動で同年の成⻑を低下させる。

⼀部の政治家は、経済を後押しするために消費税引き下げを提⾔した。代わりに、政府は今年6⽉末で終了するキャッシュレス購⼊に対する助成⾦の終了延⻑や今回の社会的活動の⾃粛により失われた給与の補てんなど世帯を直接⽀援する追加の⽀出を選択するとみている。

⽇銀政策環境指数は追加緩和シグナルを出していた

(出所)ブルームバーグ・エコノミクス、⽇本銀⾏

メインシナリオでは、⽇銀は現在の政策枠組みの中で市場のボラティリティーに対応し、前回会合で合意したETFなどのリスク資産購⼊ペースの拡⼤や柔軟な買い⼊れを活⽤する。それでも、テールリスクのシナリオだが、円が1ドル100円を超えて上昇した場合、⽇銀はマイナスの政策⾦利を引き下げると予想する。

外国⼈労働者は⽇本の労働⼒の主要な供給源

(出所)厚⽣労働省、⽇本政府観光局(JNTO)

ウイルス感染拡⼤は、今のところ⽇本の観光ブームを中断している。東京五輪の延期または中⽌は、インバウンドの観光をさらに縮⼩させる可能性がある。これは、訪問者数の増加傾向を加速させることが期待される五輪開催年の観光収⼊に激しい打撃となる。それでも、世界的なウイルスの混乱が収まれば、訪⽇外国⼈観光客は回復は⽐較的早いだろう。

中期的に⽇本にとっての⼤きな懸念は、海外からの労働者の潜在的な損失だ。⾼齢化する⽇本社会で、外国⼈労働者は過去5年間で年間2桁の増加を遂げ、昨年約170万⼈に達している。感染拡⼤のシナリオが⻑引くと、外国⼈労働者拡⼤のペースが遅くなったり反転したりするなど、経済成⻑のボトルネックになる可能性がある。感染拡⼤が⻑く続くほど、より多くの外国⼈労働者が仕事や⽇本の滞在資格を失う可能性がある。こうした状況下で出国する外国⼈労働者が戻ってくる可能性は⾼くない。

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