ESGの変革:グローバル標準に向けたロードマップ

Read the English version published on October 27, 2020.

世界市場では今、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資が拡大し続けています。2020年半ばには、ESGデータを考慮に入れた戦略による投資の資産価値が世界で40兆ドルを超えました。米国だけでも、こうしたいわゆるESGマンデート資産は向こう5年以内に専門的に管理運用される投資資産全体の50%を占めるようになるとみられています。

しかし、ESG投資の拡大とともに、サステナブル・ファイナンスのグルーバル標準を確立する必要性が高まっています。市場をより持続可能な長期目標に導きつつ、投資家のためにリスクを減らし透明性を高めるという取り組みにおいて、規制当局が重要な役割を果たしています。

証券監督者国際機構(IOSCO)のサステナブル・ファイナンス作業部会議長を務めるスウェーデン金融監督庁(Finansinspektionen)のErik Thedéen長官は、最近開催されたブルームバーグ・サステナブル投資サミット「Driving Global Standards on Sustainable Finance」初のバーチャルイベントで、金融市場の中でESGの透明性を高めるために規制当局が果たす役割について見解を表明しました。

Thedéen氏は、気候変動やその他の異常気象は今後、その規模も範囲も悪化する一方だろうと述べています。つまり、資本市場のグローバルな規制組織であるIOSCOのような規制当局は、市場においてサステナビリティへの影響のよりよい評価が可能になるような、正確で比較可能なデータを作成する取り組みを支援しなくてはならないということです。

Thedéen氏は、「さまざまな投資におけるリスクと機会を投資家が正しく評価できるようにするためには、質の高い比較検証可能な情報開示がまず前提条件だ」と述べています。

しかし現在は、グリーンウォッシングや、多様で時には矛盾するサステナビリティの枠組み・標準のエコシステムの分断、さらにはESG関連の重大リスクの管理をめぐる問題など、さまざまな障壁がサステナブル・ファイナンスの開示に関する課題解決を阻んでいます。Thedéen氏は、ESG投資の機会を余すところなく発掘するため、IOSCOとその他組織がいかにこれらの障壁を打ち破るために取り組んでいるかを説明しました。

ESGデータの透明性を高める

Thedéen氏は、IOSCOがESG基準と規制の確立を支援するためにいくつかの重要なイニシアチブを開始したと述べています。

2年前、同組織はさまざまな規制当局が経験を共有し、サステナビリティに関連する課題や機会を議論するためのプラットフォームとして「サステナブル・ファイナンス・ネットワーク」を設立しました。IOSCOは、企業が報告書で使用している幅広いサステナビリティ基準に対処するための作業部会も設立しました。さらに、2020年4月には証券取引の規制当局がいかにサステナブル・ファイナンスの改善に寄与できるかを説明する報告書を発行し、ESGデータの信頼性と開示状況改善に向けた差し迫ったニーズを明確に示しました。

Thedéen氏は、「今日では数多くのESG報告書や枠組み、基準があるが、水準が高いものもあれば、実際には自由意志に任せるようなものもある。こうした分断によって、一貫性と比較可能性が欠けていることは明らか」と述べています。

複数の報告基準があることで問題が発生する可能性はありますが、これら枠組みに価値があることは確かです。特に、金融安定理事会(FSB)が設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による取り組みは、今まで以上に一貫性のある専門的な会計基準の設定において「極めて重要な1つの要素になる」とThedéen氏はみています。TCFDの提言は世界的に重要な報告の枠組みとなり、世界各国でTCFD提言が気候リスク低減のためのポリシー構築に取り入れてられています。

国連による持続可能な開発目標(SDG)から欧州連合の提案によるグリーンボンド基準、サステナビリティ会計基準委員会(SASB)のESG基準、その他の市場固有のものまで、サステナビリティ報告の枠組みやベンチマークはさまざまな基準に準拠しており、この統一性の欠如ゆえに、企業がESG資産の正確な財務分析を行ったり、リスクの理解を深められるよう正しい情報を投資家に提供することはほぼ不可能となっています。

IOSCOは、サステナブル・ファイナンス分野における他の主要な標準設定機関とアライアンスを設立しています。このアライアンスの目的は、1つの総合的な企業報告システムを構築し、企業それぞれの枠組みや基準をどう適用できるか、そしてそれぞれの基準が一般に認められた会計原則をどう補完できるかを判断することです。

グリーンウォッシング対策とESGリスクの理解

これらの取り組みは金融セクターがグローバル基準に向けて前進するため役立つでしょうが、それ以外にも規制当局はグリーンウォッシングの問題にも対処する必要があります。グリーンウォッシングは、誤解を招くようなESG開示や不正確な製品のラベル付け、そしてレーティングの信頼性をめぐる懸念につながる問題です。

Thedéen氏は、「これはサステナビリティ問題全体にとって大きなリスクだ。サステナビリティを盾に、ただ単に利益を上げることを目的として実際はサステナビリティを達成していない場合がある。金融商品の実際の内容とは合致しないラベルが貼られているというリスクが明らかにある」と述べています。

IOSCOの作業部会は現在、円卓会議での議論やアンケート配布による調査を進めて、グリーンウォッシングをめぐるリスクの理解を深め、ミューチュアルファンドや他の金融商品の開示情報のうち何が投資家の誤解を招いているかをよりよく把握しようと取り組んでいます。

IOSCOとその他の規制当局はまた、発行体や金融機関のESG関連リスクの開示をめぐる透明性を高めるため重要な役割を果たす可能性もあります。これら金融機関のサステナビリティ関連リスクと機会に関する情報は投資家の意思決定に役立つ一方で、サステナビリティ活動に関する共通の定義や、比較・検証可能なデータがなければ、企業にとって効率的なリスク管理をすることが困難になります。それが金融機関の信頼性を損ない、ESG資産の全体的な安定性に対する投資家の信認を失う結果につながりかねません。

現在は、企業が準拠できるサステナビリティ報告の枠組みと自主基準が複数存在し、その多くは管轄法域や地域、時には金融機関ごとに異なります。リスク管理と資本割当を改善するには、ベースラインとなる重要なESG関連リスクの報告基準を作成することが不可欠です。IOSCOのような規制当局は、官僚主義的なアプローチではなく、より協働的なアプローチを使ってそれを推進できるでしょう。

「開示情報の比較可能性と信頼性・検証可能性を高めたいというニーズは通常、規制当局や立法者ではなく、実際は投資家や消費者から来る」とThedéen氏は述べており、サステナブル・ファイナンスにおける既存の課題に対応することは、個人投資家や資産運用会社、投資銀行にとって重要なだけでなく、資本市場全体の健全性と安定性を維持するために必要不可欠との見解を示しています。

「資産を正しく評価するには正しいプライシングが必要で、正しい情報がなければ間違ったプライシングとなる。例えば、ある会社または投資にとって本質的な気候リスクがあれば、それに関する正しい情報をより多く手に入れることで、よりよい投資と資本割当、そして経済成長が可能となる」と同氏は述べています。