モビリティデータで景気回復を予測する

Read the English version published on May 20, 2020.

本稿はKsenia Galouchkoが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

世界中が未曾有(みぞう)の事態に直面するなか、市場参加者はクリエーティブな方法で経済活動をモニターするようになっています。

ロックダウン(都市封鎖)を解除する国も出てきたことから、投資家やストラテジストはアップルやアルファベット傘下のグーグルが提供する人々の移動状況(モビリティ)を示すデータに着目、経済の回復ペースを追跡し、さまざまな地域における消費支出を推定しようとしています。こうした情報は、この数十年間で最悪のリセッション(景気後退)をいち早く抜け出るのはどの国か、出遅れるのはどの国かを示す先行指標となりうるかからです。

失業率や小売売上高など大幅な遅効性のあるデータについて、「新型コロナウイルスは他のショックとは全く異なるため、大半の投資家は伝統的な経済指標の結果を割り引いて考える」とするのは、Legal & General Investment Management(LGIM)でマルチアセット・ファンドを統括するJohn Roe氏です。「その代わりに最も注目されるのが景気回復の形状であり、よりリアルタイムで情報を提供すると思われる多くの革新的なデータソースを追跡しています」とRoe氏はメールでの取材で述べています。

LGIMの資産配分チームは、アップルのユーザーによる経路案内リクエスト情報を収集し、週間ベースで季節要因を調整した後、それを基に国内総生産(GDP)を予想しています。これまでの同社の分析によれば、米国経済は他地域よりも持ちこたえており、徐々に経済活動が再開されているようです。また、移動制限を緩和し始めたイタリアなど、南欧でも改善の兆しが見られるとしています。

低迷する経済活動

アップルとグーグルの両社は先月、人々の移動状況に基づいたオンラインツールを発表しました。アップルのツールは同社の「Appleマップ」アプリからの匿名データを利用し、自動車、徒歩、公共交通機関による人々の移動量を示すもので、主要都市と63の国・地域をカバーしています。グーグルのリポートも匿名データを地域別に集計し、食料品店や公園など、行き先の変化を示すものです。ただし、いずれのツールも中国本土からのデータはありません。

LGIM以外にソシエテ・ジェネラルとドイツ銀行もモビリティデータを追跡しています。アンドリュー・ラプソーン氏率いるソシエテ・ジェネラルのクオンツ・ストラテジー・チームは11日に発表したリポートで、主要経済国でロックダウンが緩和され始めているにもかかわらず、モビリティデータは経済活動が依然として低迷していることを示しているとの見解を示しました。

ストラテジストらは、「地域差がはっきりと現れており、ロックダウンの程度は明らかで、少なくともḠ7諸国では人々の運転量が増えている非常に初期の兆しは見られるものの、経済活動は依然として低迷している。当社ではこうした経済活動が今後数週間でどのような展開となるかを見極めたい」と述べています。

グーグルのデータ

ドイツ銀行では、ストラテジストらがグーグルのデータを使ってさまざまなニューヨークのコミュニティーにおける経済活動の回復状況をモニターしています。ニューヨーク市のロックダウンは6月まで続く可能性が高いものの、ニューヨーク州では15日から一部地域で経済活動を再開するとしています。

ドイツ銀行投資銀行部門の主任エコノミスト、Torsten Slok,氏は、アナリストらはニューヨーク市の地下鉄利用について週次ベースでも日次ベースでも回復の早期兆しを認められ始めているものの、公園や食料品店、薬局などにおける活動状況ほどは回復していない、と述べています。

TD証券のストラテジストらはこの傾向を警戒視しています。交通機関の利用や通勤のための移動が公園への移動ほど回復していないという事実は、移動の増加が経済活動の回復よりも人々の「隔離疲れ」によるものであることを示している可能性があるためです。

LGIMのRoe氏によると、資産運用会社やアナリストらは、現在の切迫した市場環境では、入手可能な限り最新の情報が必要なため、モビリティデータの利用を余儀なくされていとしています。

「今は非常に異なるさまざまなシナリオの間で道筋をみつけようとしているところで、各シナリオの相対的な確率を再評価するためにこうした早期指標は不可欠」であると同氏は述べています。

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