Read the English version published on March 13, 2025.
本稿は、ブルームバーグの債券インデックス・プロダクトマネジャーのScott Athaとクオンツリサーチ担当のVikas Jainが執筆しました。
TIPS(米国インフレ連動国債、Treasury Inflation-Protected Securities)とは、消費者物価指数(CPI)の変動に応じて元本が調整される米国債です。一般的にTIPSはインフレリスクのヘッジ手段とされていますが、短期TIPSと長期TIPSでは性質に違いがあるという点は見落とされがちです。特にTIPS特有のデュレーションエクスポージャーとして、長期になるほど金利変動に対する感応度が高まり、これによりインフレヘッジの効果が金利リスクによって打ち消される可能性があります。突発的なインフレショックへの備えとしてはデュレーションの短い短期TIPSが有効です。一方で、長期的なインフレ期待のヘッジにはブレークイーブン・インフレ率を基にしたインフレーション・スワップの活用が考えられます。

普通の国債とTIPSとの違い
TIPSを満期まで保有した場合、インフレを効率的にヘッジした上で、購入時に提示された「実質利回り」を受け取ることができます。一方、固定金利の米国債(「名目債」)を満期まで保有すると、額面通りの元本と固定された表面利率を受け取ります。この両者の利回りの差、すなわち「ブレークイーブン・インフレ率」は、市場が織り込むインフレ期待と密接に関連しています。インフレ期待が上昇すると、TIPSの方が名目債よりも高いパフォーマンスを示し、名目債の方がアンダーパフォームする傾向があります。
- TIPS利回り=実質金利
- 名目債利回り=実質金利+インフレ期待(ブレークイーブン・インフレ率)
TIPSにもデュレーションリスク
名目債が名目金利の変動リスクにさらされるのと同様に、TIPSも実質金利の変動リスクの影響を受けます。実際に、償還日が同程度の名目債に比べて、TIPSの方が通常はデュレーションが長くなる傾向にあります。これは、TIPSの表面利率が名目債より低く設定されており、元本がインフレ率に連動して増える仕組みとなっているためです。当然ながら、短期TIPSは長期TIPSよりものデュレーションが短くなります。
本稿では、短期TIPSはブルームバーグのウルトラショートTIPSインデックス(ティッカー: TIPS13M、下図の「Ultra Short Tips」)を、長期TIPSはブルームバーグTIPSインデックス(ティッカー: LBUTTRUU、下図の「TIPS」)を用いて検証します。前者は満期が1~13カ月以内の債券、後者は満期が1年を超える債券で構成されています。また、下図の「TIPS 1-5」は、ブルームバーグの米国TIPS 1-5年インデックス(ティッカー: BUT5TRUU)です。

デュレーションがTIPSに与える影響
インフレショックが顕著となった2022年などは、デュレーションの長さが長期TIPSに与える影響が特に際立ちました。2022年当時、米国の消費者物価指数(CPI)は前年比で6.5%を記録したにもかかわらず、TIPSインデックスはデュレーションエクスポージャーの影響で11.8%下落しました(同様に米国債インデックスも12.5%下落しました)。一方、コロナ禍後のインフレショック時には、デュレーションが短い短期TIPSは、償還期間が近い名目債を大幅にアウトパフォームしました。

一方で、短期TIPSは長期TIPSに比べてインフレ率との相関が62%と高く、消費者物価指数の変化に対してより敏感に推移する傾向がある特性があります。TIPSと名目債との相関関係も償還期限によって異なり、短期TIPSは長期TIPSよりも名目債との相関が低くなります。

インフレショックへの備えとしてのウルトラショートTIPSの活用
ウルトラショートTIPSのパフォーマンスは、予想外のインフレ変動(インフレショック)と密接に関連しています。本稿ではインフレショックを、「1年物のブレークイーブン・インフレ・スワップ(USGGBE01)」と「その後1年間の実現CPI」との差として定義します。この指標は、期待インフレと実際のインフレとの乖離を測定し、インフレの予想外の変動を明らかにします。以下の散布図からは、消費者物価指数がインプライド・ブレークイーブン・インフレ率を上回ると、ウルトラショートTIPSのリターンが高くなる傾向が見て取れます。

まとめ
単にインフレ対策を講じつつ金利リスクへのエクスポージャーを最小限に抑えるには、短期TIPSの活用が適しています。デュレーションリスクを最短に抑えることで、より安定的かつ予測可能な実質リターンを短期間で確保しやすくなります。対照的に、長期的なインフレへのヘッジ手段として、金利リスクやデュレーションリスクといった付随するリスクを許容する場合には、長期TIPSを検討するのもよいでしょう。
- 米投資会社のF/m Investmentsは、ブルームバーグ米国ウルトラショートTIPS 1-13カ月インデックス(TIPS13M)に連動する新たなETF「F/m Ultrashort Treasury Inflation-Protected Securities(TIPS)ETF」(ティッカー:RBIL)を設定しました。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。