トランジションボンドでブラウン企業がグリーンに変わるかも?

Bloomberg QuickTake

本稿はEmily Chasan の協力を得てTom Frekeが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。Read the English version published on August 08, 2019.

トランジションボンドと呼ばれる新しいコンセプトに注目が集まっています。調達資金は、発行体が自社のビジネスをより環境にやさしい方向に転換するために使われます。「グリーン」の解釈が大幅に拡大されるため、削減されるべき汚染への対応が進むことが期待される一方で、投資家は透明性を要求しています。

グリーン企業がグリーンボンドを発行するのは理にかなっています。しかし現状ではグリーン企業の数はそれほど多くないため、環境にプラスの影響を与える投資を望む投資家からの需要の高まりを十分に満たすことができません。では、その投資資金の一部が石油会社、石炭採掘会社、農業ビジネスなどグリーンに届かない企業のグリーン活動に充当されるとしたらどうでしょう。トランジションボンドと呼ばれる新しいコンセプトに今注目が集まっています。これにより「グリーン」の解釈が広い意味で大幅に拡大されるため、削減されるべき汚染への対応が進みます。ただし、二酸化炭素排出の削減をスピード感を持って行うことにコミットしていない企業を容認することになるというリスクもあります。

発行体のコミットメントの内容は?

トランジションボンドは、新しいカテゴリーの債券です。その調達資金は、発行体が自社のビジネスをよりクリーンな方向、特に環境にやさしい方向に転換するために使われます。例えば電力会社であれば、排出二酸化炭素の回収と貯留、あるいは石炭火力発電から天然ガス発電への切り替えなどに資金が充当されます。発行体がどのようなコミットメントをするべきかについてまだコンセンサスはありませんが、具体的な資金使途およびより広範なサステナビリティに関する目標を公表することが期待されます。一方投資家は透明性を要求し、気候変動に関するパリ協定の目標に発行体が自社ビジネスをどう適合させるのか、詳細かつ具体的な計画とその環境への影響を公表するよう発行体に求めるでしょう。

グリーンボンドとの違いは?

グリーンボンドが資金使途や発行体のプロフィールのみに注目し、特に資金使途は環境にやさしいプロジェクトに限定されているのに対し、トランジションボンドは発行体が今よりグリーンになるための行動にコミットしているかどうかに注目する点が異なっています。この行動に注目するというアプローチは、ローン市場では既に広がりを見せています。サステナビリティリンクローンと呼ばれ、ローン市場の新商品です。これは、例えば汚染物質の排出削減や食品廃棄物の削減など、借り手が具体的な目標を達成することにより金利優遇措置を受けることができるもので、今年最も成長している調達手段の1つです。

石油会社のグリーンボンドに根強い不信感

グリーンボンド原則は石油会社、石炭会社がグリーンボンドを発行することを禁止してはいません。しかし、石油会社や石炭会社によるグリーンボンドが本当にグリーンなのか一部の投資家は疑問を抱いているため、発行は多くはありません。投資家や銀行は再生不可能なエネルギーへの投資を控える方向にありますので、グリーンと名が付く商品に関しては、発行体のプロフィールや二酸化炭素排出削減へのコミットメントをより慎重に検討するようになっています。石油会社による初のグリーンボンドを2017年にスペインの大手石油会社Repsol SAが発行して以降グリーンボンド市場は分断されていて、Repsol債は主要なグリーンボンドインデックスに採用されていません。こうした発行体はグリーンボンドとは別種の債券を発行した方がよいとトランジションボンド支持派は言います。

次のステップ

銀行、投資家、監督官庁、企業の間で、トランジションボンドの有用性と今後の進め方について幅広い議論が必要と考えられます。議論の加速化を図るため、アクサ・インベストメント・マネージャーズは2019年6月にトランジションボンド・ガイドライン案を公表し、トランジションボンドはグリーンボンドの枠組みに従うこと、発行体に対しては高い水準の透明性を求めることなどを提唱しました。仏パリバは、アクサ案に対する支持を表明しました。また、複数のカナダ企業が昨年共同でトランジションボンド案を公表しています。

課題は明確な基準とレポーティングの透明性

グリーンボンドについて統一された基準はまだ存在せず、グリーンボンドの定義に関する議論が依然として継続しているさなかに、トランジションボンドに関する提案が公表されました。一方EUは、2019年6月にEUグリーンボンド基準案を公表しました。これは世界的に最も浸透している国際資本市場協会(ICMA) のグリーンボンド原則にいずれは取って代わる可能性がある基準案です。このようにグリーンボンドについては意見の集約が進まず懐疑的な見方も根強くあります。しかし、だからといってトランジションボンドこそがソリューションであり単なるマーケティング上のごまかしではないとして市場の信認を得るのは難しいと考えられます。グリーンウォッシング(プロジェクトがあたかも気候変動緩和に高い効果があるように装いごまかすこと)とのそしりを免れるためには、適格プロジェクトに関して明確に定義された基準とレポーティングの透明性が求められます。

問題点

地球温暖化の抑制に必要なクリーンエネルギーインフラストラクチャー構築には、2050年まで毎年平均3兆5000億ドルもの投資が必要です。そう考えるとグリーンボンドは本来、資金調達の主流となっていなくてはなりません。しかしブルームバーグNEFの調査によれば、グリーンボンドの累計発行額は6,985億ドルで市場のほんの一部を占めるに過ぎません。より多くの企業が環境目標を設定してトランジションボンドによる資金調達を検討し、より多くの大手機関投資家がその動きを支持するようになれば、トランジションボンドはサステナビリティリンクローンと同様の成長を遂げることができる可能性があります。