本稿はJacqueline PohおよびEmily Chasanが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。Read the English version published on September 19, 2019.
世界中でブームとなっている責任投資に関して、借り手、運用会社、インデックス作成者などが一様に直面する1つの課題があります。責任投資を正確に評価・比較するにはどうすればよいのでしょうか。その答えを金融業界全体が探し求めてきました。環境への優しさ、社会的影響、ガバナンス(ESG)基準により企業や投資をスコアリングすることは、財務諸表の世界を超えています。そうした中、投資対象や資本配分の決定にESG格付けが勘案されるようになってきました。しかし、ESG格付けが金融リスクの軽減、あるいは投資パフォーマンス向上のガイドとして本当に役立つのかという点については議論が続いています。
1. ESG格付けとは何ですか?
ESG格付けは、企業、投資家その他金融の専門家が、環境、社会、ガバナンス基準を意思決定に取り入れるために使うものです。企業がグローバル市民であるかどうか、あるいは大きな損害をもたらす恐れがあるリスクにどう対処しているかを判断するのに役立ちます。ESG格付けは、数多くの多種多様な評価項目(炭素排出量、水使用量、男女平等、公正な労働慣習、人権、犯罪防止管理、取締役会の構成、株主の権利など)をカバーしています。企業のスコアリングまたはランク付けについては、決まった方法はありません。アナリストの定性的判断を加味する格付け会社もあれば、定量的情報または企業から提供された情報のみを使用する格付け会社もあります。いずれにしても格付け会社は、上記評価項目に関する情報開示の透明性、競合他社比較、長期的なパフォーマンスなどを基に企業やファンドの分析を行います。
2. ESG格付けはどのように使われていますか?
ESG格付けは、運用会社や上場投資投信(ETF)の銘柄選択、企業向け融資の利率決定、納入業者の契約入札参加資格など、いろいろな場面において大きな役割を果たしています。また、グリーンボンドが本当にグリーンであるかどうかや、ある銘柄がベンチマーク構成銘柄として適格であるかどうかといった判断にも使われます。環境的または社会的責任投資として販売される商品が爆発的に増加していることから、ESG格付けに対する需要もこれまで以上に高まっています。既に1500社を超える運用会社が国連責任投資原則に署名しました。こうしたことからESGインデックスの数が急増し、市場で最も急速に成長している分野となっています。
3. 誰が格付けをしているのですか?
従来の信用格付けや投資信託格付けが一握りの格付け会社による寡占状態であるのに対し、ESG格付けについてはSustainalyticsやMSCIをはじめとして数多くの第三者企業が参入しています。広範な市場データを収集する格付け会社もあれば、環境関連やグリーンボンド格付けのみにフォーカスする格付け会社もあります。ローンや債券に対するESG格付けには少なくとも10社以上が参入しています。例えばSustainalyticsは、2017年以降に実行された100本以上のESGローンのうち約70本に格付けを付与しています。大手の金融サービス企業は、社内格付けの拡充、他企業との提携または買収などの方法によりこの分野への参入を図っています。MSCIのESG格付けは、BlackRockなどの大手機関投資家が主にETF組成の基礎資料として利用しています。Moody’s Investors Serviceなどの信用格付け会社も、信用力を判断する1つの材料としてESGリスクを分析対象にしています。(ブルームバーグ ニュースの親会社であるBloomberg LPは、ESGデータ、分析、インデックスを提供しています。)
4.ESG格付けはどのように決定されるのですか?
格付け会社は、格付け先企業から得られるあらゆる情報に加えて、ニュース記事や政府・民間のリポートなどの公開情報も利用します。その上で、国連の持続可能な開発目標に掲げられた優先課題などを参照しながら、多方面から企業を評価します。ESGデータの報告基準が国・地域によって大きく異なるため、データの収集・解釈が大きな課題です。最後に、各要素を慎重に検討して総合スコアを決定します。リソースが豊富な大手企業はデータの収集と報告に十分なリソースを充てることができ、透明性基準で高評価を得やすいことから、格付けの仕組み自体が大手企業有利に偏っているのではないかという議論があります。格付け対象の企業から報酬を受け取る信用格付けとは異なり、ESG格付けは運用会社など格付けの利用者から報酬を受け取るケースが多くなっています。しかし、ESGローンやグリーンボンドの格付けの場合には、企業側から報酬を受け取るケースが増えています。
5.ESG格付けの違いは何ですか?
ESG格付けの最大の違いは重み付けで、業界によって大きく異なることがあります。例えば環境汚染は電力会社にとっては大きなリスクですが、弁護士事務所の場合にはそうではありません。また、同じ企業に対するESG格付けが格付け会社によって異なる場合もあります。ある格付け会社は労働基準を重視するのに対し、別の格付け会社は環境要因を重視するようなケースです。さらに、重視する評価基準や評価方法の違いによって予想外の格付け結果が出るケースもあります。例えばたばこ会社や石油会社であっても、開示の透明性という観点から評価されれば高いESG格付けを取ることができる可能性があります。また、異なる格付け会社間の格付けを比較する際にも厄介な問題があります。例えば100というスコアはSustainalyticsでは最低評価ですが、EcoVadisでは最高評価です。さらにISS-oekomは数字ではなく符号を使用しています。
6.ESG市場の規模は?
ESG市場の規模はまだ比較的小さめですが、急速に成長しつつあります。ブルームバーグNEFによると、ESGにリンクした債券の残存額は1500億ドルを超えています。また、金利がESGにリンクしたローンの実行額は、2019年上半期に63%増の440億ドルに上りました。ブルームバーグ インテリジェンスによると、ESG基準を取り入れた米国ETFへの資金流入は2019年上半期に41億ドルに上り、過去最高を記録しました。さらにある調査によると、ESG基準を取り入れた、あるいは取り入れる予定の運用会社の運用総額は21兆ドルを超えています。資本市場コンサルティング会社Opimasの予測によれば、ESGデータおよびESG格付けの市場規模は2020年に7億4500万ドルとなり、これは2018年対比でほぼ50%増、2014年対比ではほぼ300%増となっています。
7.課題は何ですか?
一部の投資家は、ESG格付けの格付け方法が曖昧あるいは不透明であるとして疑問を呈しています。また、高い格付けを取得したからといって、大きな損害をもたらす恐れがあるリスクを常に排除できるとは限りません。さらに、ESG格付け業界は信用格付け業界よりも規制がはるかに緩く、公的な基準あるいは資格が存在しません。しかし、規制当局も対応を進めています。EUは、公認グリーンボンド基準などを含む責任投資の自主的フレームワークを公表しました。これがグローバルスタンダードとなる可能性があります。また、米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)も、企業や投資家に経済的影響を及ぼす可能性がある項目を業界ごとに特定した基準を作成しました。(ブルームバーグ LPの創業者で過半を所有するMichael R. Bloombergは、SASB理事会の名誉議長です。また、同じくブルームバーグの経営幹部であるMary Schapiroが副議長を務めています。)