環境ファイナンスにおけるテクノロジー、透明性、および移行

Read the English version published on July 12, 2022.

本稿は英Environmental Financeからの転載です。

Environmental Scienceは最近、金融機関がESG(環境・社会・ガバナンス)統合において直面する課題について、ブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューション部門のグローバルヘッドであるPatricia Torresと、同じくブルームバーグのエンタープライズ・データ・コンテンツ部門のグローバルヘッドであるBrad Fosterへのインタビューを行いました。

Environmental Finance(以下、EF):投資運用会社では、サステナブルファイナンス開示規制(SFDR)やEU(欧州連合)タクソノミー規則への準拠の必要性など、規制上の負担が増大しています。ここで必要となるデータを巡る課題に対し、企業はどのように対処するのが最善でしょうか。

Patricia Torres(以下、PT):投資運用会社には、優れたデータ、分析力、および統合力が必要です。また、サステナビリティー目標を明確にすることも求められます。投資運用会社はESGリスクに対処することを目指しているのでしょうか、それともインパクトを追求しているのでしょうか。それらの目標との整合性は示すことができるでしょうか。そのためには、取り扱うデータを理解し、目的にかなっているかを確認するなど、解決すべき課題があります。

また投資運用会社は、変化し続ける世界の規制要件について最新情報を常に把握している必要があり、要件ごとに特定のデータセットと情報が必要になることを認識する必要があります。 そうすることで、規則への順守と適切なファンド販売が可能になります。ブルームバーグが大きく力を注いでいるのも、この点です。つまり、EUタクソノミー規則要件といったESG規制の変化に合わせたコンプライアンスを可能にするデータセットの構築です。

また、二酸化炭素(CO2)排出量データであれ、EUタクソノミー適格性データであれ、企業報告データが不完全な場合、そのギャップを埋めるための推定値を提供できるようにすることにもブルームバーグは力を入れています。例えば、ブルームバーグがレビューした4360社の中で、2022年6月時点でEUタクソノミー適格性データを報告しているのは315社だけです。投資家が重要視するのは、彼らに情報を提供するデータベンダーがこのようなギャップに対処できることです。

Brad Foster(以下、BF):規制当局による監視は、ブルームバーグにとって目新しい課題ではありません。バイサイドおよびセルサイドのお客さま向けに、60種類を超える規制ソリューションを備えています。課題は常に変わりません。お客さまはデータ元を確認したいと考え、データの完全な透明性、一貫性、整合性を求めます。お客さまにとっては、ESGデータを他のデータセットと関連付けできることが必要で、これは規制上の目的もしくはリスク管理上の目的での使用にかかわらず、変わりません。この点で、ブルームバーグには数多くの実績があります。

EF:投資家にとって、ESGデータの究極の価値は、それが投資判断に役立つかどうかです。ブルームバーグの利用者は投資プロセスにESGデータをどのように組み込んでいるのでしょうか。

PT:ブルームバーグのお客さまからの声でよく耳にするあるのは、効果的なESGデータの統合は組織のあらゆるレベルで実施する必要があるということです。そのためには、企業のビジョン、組織構造、プロセス、そしてデータやテクノロジーなどの分野にまたがる新たな目標運用モデルが必要となります。これに応えるため、弊社では5つの柱にわたるソリューションを提供しています。5つの柱とは、「リサーチとアイデアの生成」(ブルームバーグの各種インデックス、ブルームバーグ・インテリジェンスとブルームバーグNEFのリサーチ部門を含みます)、「ESGのインサイトと統合」(ブルームバーグ独自および第三者のデータとスコアを含みます)、「ポートフォリオ&リスクマネジメント」、「コンプライアンスとリスク監視」、および「テクノロジーとデータ管理ソリューション」です。

BF:お客さまが抱えるもう1つの大きな問題は、ネットゼロへの移行が、自社のファンダメンタルズとその根底にあるビジネスモデルにどのように影響するかということです。例えば、ESG要因が会社の売上高を生み出す能力にどのように影響するか、そしてその結果、信用スプレッドとバイサイドの流動性にどのように影響するかという疑問です。また、各種ファンドで特定のESG基準を満たさない企業が投資先から除外されている場合、除外企業はどのように資金調達できるかといった問題もあります。

EF:ESGスコアが実際には何を測定しているのかという点で多くの混乱が見られます。ユーザーはESGスコアをどのように理解する必要があるでしょうか。

PT:市場は不透明です。どのような入力データがESGスコアリングモデルに反映されているのかを把握してない人は多く、その目的さえ知らないこともあります。ESGスコアリングモデルは、そもそもESG上のリスクと機会を測定するためのものなのか、それともインパクトを測定するためのものなのでしょうか。総合ESGスコアが依然として有用なのか疑問視する向きもあります。なぜなら、総合ESGスコアは、異なる指標がばらばらに詰め込まれた袋のようなもので、どの入力データがどのようなウエートで各要素を計算するために用いられたのか、ほとんどの場合明確ではないからです。

市場が求める最も重要なことは、データがどこから来るのか、そしてスコアがどのように集計され、加重されるのかという点での完全な透明性です。スコアが何を指すのかを理解することで、ユーザーは自らの戦略を支えるためにスコアをどのように使うか判断できるようになります。これが、ブルームバーグがデータドリブン型で完全な透明性を持つスコアを提供する理由です。ユーザーはその算出法や、基になる会社報告データの検証ができるのです。

EF:気候変動リスクを巡り、銀行に対する規制当局と投資家の監視の目は一層厳しくなっています。気候変動リスクデータにはどのような選択肢があるでしょうか。

PT:「移行」において銀行が果たす役割の重要性は絶対的なものです。銀行は気候変動リスクは金融リスクであることを認識しています。その点を解析するために必要となるデータ量は膨大です。銀行はポートフォリオの排出量とその物理的リスクおよび移行リスクを資産レベルにまで落とし込んで計測できるようにする必要があります。そのためには、企業の移行計画、エネルギー原単位、水原単位、特定の資産の所在地、およびサプライチェーンのエクスポージャーを把握する必要があります。そして、少なくとも3通りの気候変動シナリオをモデル化し、自行の投資先がそれぞれのシナリオ下でどのようなパフォーマンスとなるかを把握する必要があります。

規制当局はこういった気候変動ストレステストを実施するよう銀行に求めています。ブルームバーグはストレステストについて多くの銀行と連携し、必要とされる情報開示の一部、例えば欧州銀行監督機構のピラー3のESG報告などで支援を提供しています。

リスクを巡るこれらの試算の有効性は、モデルに入力するデータの質に左右されます。これは、弊社創業者のマイケル・ブルームバーグが非常に関心を持っている分野です。同氏は最近、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、国連、およびその他のパートナーと共同で、気候変動リスクの適切なプライシングに必要となる高品質かつ一貫性のあるデータへ市場がアクセスできるようにするオープンなデータプラットフォームの創設を発表しました。これは非常に重要なものとなるでしょう。私たちに残された時間的余裕はないのですから。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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