Read the English version published on June 3, 2019.
国際スワップデリバティブ協会(ISDA)が最近公表したデータによると、LIBORの最終的廃止まで3年を切った2019年第1四半期に取引された金利デリバティブのうち、銀行間取引金利(IBOR)を参照した取引の想定元本総額は46兆7,000億ドルに上り、全体の67%を占めました。
LIBORの代替指標を確立しようとする動きが進んでいますが、ベンチマークの移行は決して容易ではありません。ブルームバーグが最近ロンドンで主催した「LIBOR移行:課題とソリューション案」と題されたイベントでは、LIBORを参照するビジネスにおいて、ひとつの案件について600から700のユースケースの存在がパネリストから指摘され、他のベンチマークへの移行が極めて複雑な作業であることが示唆されました。想定される課題には、契約の再交渉、システムとインフラの更新、不確実性リスクの管理などにかかる費用が含まれます。そして、時は刻一刻と過ぎています。
このイベントでは、ステークホルダーが一堂に会して、問題点やその背後にある要因について意見を交わしました。そこから浮かび上がった移行問題に共通する2つのテーマは、LIBORから離れるリスクとLIBORを使い続けるリスクでした。
契約再交渉の規模と範囲
LIBORは幅広く使用されています。変動利付債から債務担保証券(CDO)に至るまで数多くの証券にリンクされているほか、ヘッジ戦略、証券化商品の発行、イールドカーブ構築などにも影響を及ぼします。
結果として生じる構造的および組織的な課題の解決には、ベンチマークの用途および業務プロセスの変更に対処するための周到な計画が必要となります。しかしながら、インフラストラクチャーのニーズは市場規模、地域、業務内容によって異なります。市場では既に代替参照金利がある程度使用されていますが、過去のLIBORのように幅広く使用されているものはまだありません。
LIBORを参照する内部モデルを数多く使用する組織では、代替指標の導入についてモデルごとに異なるアプローチが必要になるかもしれません。あるいは、スワップの担保契約の変更により証拠金要件の変更が必要になるかもしれません。また、契約の改定にはコストがかかります。特に、多数の契約を管理している場合や、契約の一方の当事者が偶発的利益に対する権利を有している(従って、契約再交渉に乗り気でない)場合には多額のコストがかかる恐れがあります。
代替指標
IBORの参照金利としての機能は業界全体で幅広く使用され、複雑性の軽減および流動性の向上に貢献してきました。これに代わる新たな代替指標は、これらのニーズを満たした上で、各国・地域のマーケットや各種取引形態の構造的ニーズを充足するものでなければなりません。
幾つかの国や市場では代替指標としてリスクフリーレートの使用が検討されていますが、これも容易ではありません。例えば、ターム物のLIBORに内包される信用リスクの側面がリスクフリーレートには欠けています。
英国では、リスクフリーレートとしてポンド翌日物平均金利(SONIA)が選択されました。米国では、ニューヨーク連邦準備銀行が2018年4月に担保付翌日物調達金利(SOFR)の公表を開始し、欧州ではユーロ短期金利(€STR)がLIBORの代替として選択されました。その他の国の規制当局もそれぞれ独自のソリューションを開発中ですが、これは市場の細分化につながる恐れがあります。
将来に向けた動き
LIBOR代替指標の開発は確かに進んではいますが、その進捗状況は地域的あるいは構造的な理由からさまざまです。
例えば、現物債市場は通常ターム物金利を使用しますが、デリバティブ市場では既に翌日物金利を参照する商品の取引が盛んです。
デリバティブ市場については、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)が、2021年末に予定されるLIBOR廃止に備えて、市場関係者を集めてフォールバックレートの検討を開始しています。しかし、市場細分化の恐れや各国・地域の対応の違いなどにより、クロスカレンシースワップなどのデリバティブ商品の業界スタンダードが確立できるかどうかは不透明な状況です。
LIBORは市場で使われなくなるのか?
ISDAによれば、現存するLIBORへのデリバティブエクスポージャーの8割は2021年末までに消滅しますが、LIBORを参照する契約で満期が2021年末以降に到来するものも存在します。ブルームバーグが主催したイベントでの調査によれば、2021年末以降もLIBORが使用可能である場合には、新規取引にLIBORの使用を検討すると回答した市場関係者がかなりの数に上りました。
代替ベンチマークの流動性への懸念も採用の障害となっています。多くの企業にとって、エクスポージャーレベルを確定し軽減することは依然として重要な目標です。
一方で英国の金融行為規制機構(FCA)は、LIBOR廃止へ向けたスケジュールが順調に進んでいるとして業界に警告を発しました。LIBORのベースとなる銀行間取引が縮小する中で、LIBORの持続可能性と信頼性への懸念が高まっています。
規制当局、業界団体、市場参加者などが、それぞれのニーズと目標に合致する代替指標を模索する中で、2021年に向けて協力して準備を進めるべきとの声がコンセンサスとなりつつあります。