Read the English version published on April 25, 2022.
本稿は、ブルームバーグのデータ・マネジメント・スペシャリスト、Saba Mirsattariが執筆しました。
ESGデータは今や検討課題のひとつとして広く普及していますが、今日ほど重要視されたことはかつてありませんでした。ESG関連の課題はあらゆるところに存在しています。社会的不平等、パンデミックの影響、気候変動と無縁の地など世界中のどこにもありません。
ESGがビジネスや政治のリーダーにとって最優先事項となった今、各金融機関は自らが重要な局面に立っていることに気付かされています。先頃スイスのチューリッヒで開催されたブルームバーグのデータ・マネジメントをテーマとするイベントでは、トップクラスの専門家をゲストに、ESGデータがいかに主流になりつつあるか、2022年以降のESGデータの進化とテクノロジーの必要性について活発な議論がなされました。スイス最大の銀行UBSグループのESGデータ責任者、Christophe Tummers氏をはじめとするパネリストらが、データガバナンスの重要性について、各社で取得するESGデータの信頼性と理解を深めることや、経営陣がデータガバナンスを保証することがカギとなるなどと述べました。
この点で同業他社を上回る企業は、イノベーションとデータ主導のアプローチを採用してESGに取り組んでいる可能性が高いといえます。
ESGデータの質と背景
サステナブル投資への関心は飛躍的に高まっています。世界の資産運用会社によりESGデータが投資判断に用いられた運用資産残高は、2020年には約38兆ドルと、8年間で3倍以上に増えています。しかし、それを支えるデータの信頼性はどの程度高いのでしょうか。
「ポートフォリオを構成するそれぞれの資産に対しては、ESG情報がまだ不足しています。 株式と債券についてはESG情報が十分に開示されていますが、その他の資産クラスに関する開示は遅れています。そのため、企業は複数のベンダーからデータを取得し、独自の分析を行っています」と、グローバルに展開するプライベートバンキングであるLGT Private Bankingのサステナブル・インベスティング・スペシャリスト、Tobias Hurst氏は述べます。ESGデータの情報開示が一層求められているにもかかわらず、その品質とカバレッジは依然として課題となっています。その結果、企業のESGパフォーマンスを評価するためには、多くのさまざまな指標から全体像を把握せねばなりません。
このようなデータの統合は、多大なリソースが必要となる上に極めて複雑な作業となります。「企業は、複数のESGベンダーからデータを取得して、最も適切で有用なデータを使用できるようにしておく必要があります。ESGデータを社内データにひも付けるのも厄介です。複数のベンダーからESGデータを入手し、社内システムにマッピングする必要があります」とチューリッヒ州立銀行のビジネス・エンジニア、Steinar Vinne氏は説明します。
ESGと社内エコシステムの統合
ESGデータは独立して存在するものではありません。「ESGデータは、企業や金融商品、国のデータと統合させる必要があります。大手銀行にとってはESGデータが社内の各所でどのように機能しているかを一元管理することは極めて困難です。それよりも望ましいアプローチとしては、銀行全体で同じESGデータを一貫して使用する上で重要で妥協できない属性群を決定することです」とUBSのESGデータ部門責任者、Christophe Tummers氏は述べます。
データをひも付けることで、より大きな価値を生み出し、さまざまな種類のシステムから得る情報に関連付けることができます。例えば、ESGデータとサプライヤーデータや、ESGデータと顧客データのひも付けが挙げられます。システムとデータが完全に異なる場合、それらを容易かつ拡張可能な方法で結びつけるのには苦労することがよくあります。しかし、このような課題があるにもかかわらず、統合の重要性についてはあらゆる講演者が指摘していました。「当社のアプローチは、すべてのESGデータを一元管理型のポートフォリオ管理システムに統合するという方法で、ESGのノウハウを(日常業務からは切り離された)『象牙の塔』としておくものではありません」と、スイス・ライフ・ホールディングスのレスポンシブル・インベストメント・マネジャー、Rico Keller氏と述べています。
また、Tobias Hurst氏はESG統合に関する課題にも言及しました。「ESGデータだけのための新しいシステムを構築するよりも、可能な限り既存のシステムにESGデータを取り込み、リレーションシップ・マネジャーや全社で情報を利用できるようにした方がより適切な判断といえます」
ESGデータの管理
データ管理は、ESGにおいて重要な役割を担います。「データ管理を行うことで、正しいデータポイントを正しい目的で使用して顧客や規制当局に提供できます。例えば炭素排出量やジェンダーの多様性を評価するのにどのデータポイントが優れているかを検証するための柔軟性の拡張においては、今でも改善の余地が多く残されています。正しいデータを選択できるようにするためには、データハブのようなものが非常に重要となります」とKeller氏は述べています。
ESGデータを背後で支えるモデルのガバナンスも同じく重要です。「基盤となるモデルは理解しやすく信頼性が高いものか、モデルのガバナンスが整備されており、顧客や規制当局の前で自信を持ってモデルの正当性を主張できるか、という点が大切です」とTummers氏は述べました。
ブルームバーグのデータ管理ソリューションは、企業データと金融商品データなどのさまざまなデータセットをESGと統合し一元管理するデータモデルを提供します。これは、社内全体にわたって同じデータを取得できるようにするための第一歩となります。しかし、そのような社内での一貫性を実現できるのは、このソリューションをご利用のお客さまがデータに簡単にアクセスしたり、社内のアプリケーションやワークフローにデータを埋め込んだりできる場合に限られます。お客さまがこれに対応する体制を整備するのを支援すべく、ブルームバーグのデータ管理ソリューションでは、モデル化されたデータやひも付けされたデータの収集に関して、さまざまな選択肢を備えています。
例えば以下などが挙げられます:
- SFTP上でのブルームバーグ・パーセキュリティ・データの配信。社内で広く認識されている形式を適用することで、サービスを迅速に導入できます。
- RESTful API。
- 最近ではモデル化データを表対応形式で作成し、お客さまのクラウド環境での利用に対応。
新しいテクノロジー
新たに利用できるようになった最新のテクノロジーを用いることで、企業はデータの取り扱い方の見直しを進めています。「今日でもデータはファイルやバッチ方式で配信されています。シンプルな認証システムでクラウドからデータを収集できるようにすることについて、データベンダーと話を進めることを考えています」とTummers氏は述べています。
企業が研究や分析のためにビッグデータツールの利点を活用する方法として、拡張可能でクラウドベースによるインフラの導入が業界全体に広がっています。
企業はクラウドにデータレイクを構築して、ビジネス・インテリジェンス・ツールとAPIを介したデータへのアクセスを強化していますが、これを既存の社内インフラ全体と置き換える動きも多く見られます。ブルームバーグは、クラウド技術を活用したビッグデータの保管・分析サービスを提供する米スノーフレイク社との提携を開始しています。今後は、多くのクラウドベースのデータ・ウェアハウスへこのソリューションを提供できるようになるでしょう。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。