中国のシルクロード

本記事はDavid Tweedが執筆し、ブルームバーグブリーフ・Quick Take の「中国のシルクロード」に初出掲載されたものです。

現状

習主席はこの数十年間にわたって温めてきた、インフラ開発を通じて貿易促進を狙うという数百億ドル、あるいは数千億ドルにも達する規模の計画の概要を示している。計画の代表的なものはマレーシアとタンザニアでの港湾開発、パキスタン、タジキスタンでのハイウェイ整備などだ。その過程において、中国は公益事業といった産業プロジェクトに投資するよう自国企業に働きかけてもいる。これらの野心的プロジェクトに資金を融資するため、中国政府は2014年に400億ドルを拠出して「シルクロード基金」を設立しており、すでにパキスタンでの水力発電事業、ロシアでの液化天然ガス事業に同基金から投資を行っている。その他、(BRICSの5カ国が主体となる)新開発銀行や中国が主導する資本金1,000億ドルのアジアインフラ投資銀行などが資金面の支援を行う。アジアインフラ投資銀行は世界銀行の代替・補完を目指す機関だが、米国と日本は当初そのガバナンス基準を批判していた(世界銀行の規定に比べ社会・環境に対する影響への配慮が不十分など)。このシルクロード構想を通じて、中国は十分に活用されていない自国の生産能力や過剰生産された鉄鋼や他の素材を有効利用することのみならず、人民元を世界に浸透させるというゴールを目指すことでも利益を得る見通しだ。これに参加する国はその経済的メリットと支配力を強めるスーパーパワーの要求を天秤にかけている。例えば、タイでの鉄道プロジェクトは、商業財産権の付与を求める中国の要求を現地の公務員が拒んだことで頓挫した。習主席は2016年8月に30超の国が中国との間に正式な協定を締結しており、20数カ国が鉄道や原子力発電などの計画に協力していると述べていた。

背景

習主席が最初にシルクロードの復興を提案したのは2013年であり、続けてその構想を陸上の「経済帯」と海上の「路」を合わせた『一帯一路』と呼んだ。交易路の原型は2千年以上前に確立したが、古代ローマのエリート階層に珍重された繊細な生地に由来するシルクロードという名称は、ようやく19世紀になってからドイツ人地理学者が命名したものだ。その全盛期には紙や火薬、陶磁器、香辛料が西へと運ばれ、往路では馬や絨毯、毛布、金、銀、ガラスがもたらされた。修道僧も仏教の布教のためにこの路を利用したように、現代版シルクロードは貿易のためだけのものではない。中国は、東南アジアおよびアフリカを通る海路をクルーズ船に定期運航させる計画のほか、シルクロード沿いの国々の文化交流を狙った映画祭やブックフェア、奨学金制度、共同運営の学校の設立といった構想も提案している。

論点

中国は、東と西に挟まれた地域の発展を目指した工業化を促進するものと現代版シルクロードを位置付けている。エコノミストもこのイニシアチブがアジアおよび世界の経済成長を刺激する可能性を持っている点を認めている。リスクとしては、腐敗に脆弱な地域(2016年にはキルギスの首相が中国企業への道路工事請負契約割り当てに関する不祥事で辞任に追い込まれた)で汚職が横行することや、大掛かりな開発が維持費のかさむ無用の長物となってしまう可能性(一例として、一日にわずか2便が利用するだけのスリランカ南部の国際空港)などがある。特定のプロジェクト、特に多額のコストを要する陸上のルートは単に採算が合わないものとなるリスクもある。また、中国がアジアの海域を中心に地域での軍事活動を積極化している点を指摘する向きもある。港湾開発は軍事基地の設置に向けた布石かとの疑念が生じているほか、南シナ海の領有権を争う問題で常設仲裁裁判所が下した判決を中国が拒否していることも、国際法の原則を尊重しないとの懸念を招いている。その他、国内景気が減速局面にあるなか、中国がコストのかさむ海外投資をどの程度の期間続ける用意があるのかも疑問視されている。