パフォーマンスの最適化のために「壁」を取り除く:一貫性がアセット・マネジメントで最も重要な理由

本稿はブルームバーグアセット&インベストメント・マネジャー(AIM) およびバイサイド・リスクヘッドであるSteve Ioannouが執筆しました。Read the English version published on March 05, 2019.

米国を拠点とする資産運用会社Westwood Holdings Groupと仕事を始めた時、どの資産運用会社もいつかそんなことを悩んでみたいと願うような相談を受けました。その贅沢な相談とは「急激な成長」でした。Westwood社は、ここ数年の間にトロントの新興市場チーム、ボストンのグローバル転換社債チーム、ヒューストンのプライベート・ウェルス用プラットフォームを買収し、管理資産額はおよそ130億ドルから220億ドルへと拡大していました。

問題とは、成長に伴ってオペレーション構造が複雑になってしまったことでした。同社は、地域ごとにさまざまなソフトウェアと会計システムを使っていたため、会社全体のポートフォリオを一元管理するのが難しくなっていました。システムが地域や会社によって異なることに加え、今や新興市場と多数の通貨、さらには通貨先物トレーディングも手がけるようになったため、「ターゲット・オペレーティング・モデル(TOM)」構築の必要性に迫られていました。(TOM: 変化の速い事業環境において、戦略実行能力、透明性、正確性、速度の向上を狙ったオペレーティング・モデルのこと)

Westwood社が遭遇していたのは、私が日々一緒に働く資産運用会社がどこでも経験するようになる課題でした。企業規模が大きくなり、さまざまな地域で業務展開するようになると、既存事業の成長か買収による拡大かによらず、各地や各社まちまちの古いシステムや多種多様なオペレーティング・モデルが蓄積していきます。

事業の拡大に伴い、パフォーマンス、リアルタイムとヒストリカル・データをグローバルに俯瞰する中心的な視点を失い、各国/地域の規制要件にタイムリーに適合することが難しくなる場合があります。そしてこのような断片的なアプローチでは、投資グループ全体でシームレスな意思疎通を図ることが困難となり、地域ごとのエクスポージャーや損益を把握するために追加のリソースが必要になって、テクノロジー費用や人件費が跳ね上がる事態も頻繁に生じます。

データをめぐる新しい現実

今日、資産運用会社が入手できる莫大なデータ量は、競争を優位にすると同時に、負担にもなり得ます。資産運用業界では、タイミングよくデータを入手することが今では何にも増して重要なことになりましたが、入手可能なデータ量は膨大であり、そこから必要なものを選び出すことは容易ではありません。以前は1日の終わりに1度のダウンロードで済んでいたところが、1000分の1秒ごとに数百万件のデータを処理できる高速クラスタリング・アルゴリズムのおかげで、世界中の市場の動きやニュース、イベントはリアルタイムのストリームとして入ってくるようになりました。さらに、トレーディング業務のあらゆる側面、つまり意思疎通から価格の提示、ポジション、取引に関するメタデータ(データに関連づけて作成された補助的な情報)なども、デジタル的に捕捉できるようになっています。

テクノロジーが分断化されてしまった企業にとって、互換性のないアプリケーションや異なるデータビューは、いくら持っていたとしても、宝の持ち腐れになってしまいます。ところが、データの集中化に成功し、自由に閲覧や利用ができる効率的なオペレーティング・モデルを構築した企業にとってみると、データは無限の機会を提供してくれるのです。

一口に「データの一貫性」と言っても、一か八かのような性質があります。資産運用会社がこの点を理解した上で、TOMで戦略的なデータ管理を最優先として取り組めば、新興国市場、発生したばかりのデータセット、新たな資産クラスで得られるビジネス機会を他社よりも有利に利用できるようになります。

オペレーション効率の向上に向けて

データの一貫性を認識することは、バイサイド企業がオペレーション効率を高めるための第一歩にすぎません。次のステップは、データ・アーキテクチャーとシステム・アーキテクチャー、インフラストラクチャーの評価です。弱点が確認できれば、ワークフローを統一し、強力で収益性の高いプロセスをつくり出す適切なTOMの開発に着手できます。

Westwood社は、自社の弱点評価によって、フロント・オフィスのテクノロジーが最大のリスクであることを確認し、その解決を当初の優先事項に置くべきだと判断しました。同社の投資プロフェッショナルは、なるべく高品質のデータを、なるべく早く入手したがっており、さらに外国証券に対応できる頑強なトレードコンプライアンス・プラットフォームを探していました。TOMによる全面見直しを終え、Westwood社は、今やアプリケーション全体のインフラ管理をわずか2人でできるようになりました。

「我々は、会社全体での一貫性を確立しました」と語るのは、Westwood社COO、Fabian Gomez氏です。「フロント・オフィスからストレスとリスクを取り除いた結果、オペレーションとデータ管理は改善しました。当社の最も複雑な商品は、退屈でいらいらするマニュアル作業から、それらの優先順位を考慮し、ポートフォリオを管理する時間のあるポートフォリオ・マネジャーたちに移りました。我々からすると、今回の取り組みは大成功だったのです」


明日のバイサイドのオペレーティング・モデル

フロントからミドルオフィス業務の一貫性の確立により、各部門が同一プラットフォームの上で迅速に業務を行うことができるようになります。逆に中央オペレーティングシステムをすべて入れ替えるやり方では、グローバルな中間層をつくる必要性を生じさせ、新たに管理職向けにインベストメント・ブック・オブ・レコード(フロント・ミドル業務のための投資判断用ポートフォリオ情報)の作成につながる場合も少なくありません。

運用会社は、投資プロフェッショナル、コンプアライアンス、ミドルオフィスのシステムを一元化することにより投資ライフサイクル全体でデータのスリム化を実現でき、必要に応じてリアルタイムにデータにアクセスして新たなアセット・クラスを取り込みやすくなるわけです。より効率性を高めたTOMを構築することは簡単ではないかもしれませんが、その困難を克服すれば、ポートフォリオ・マネジャーも投資プロフェッショナルも自分の本来の仕事に集中でき、顧客によりよいサービスを提供できるようになるはずです。

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