リモートワークで金融市場のクラウド導入が加速

Read the English version published on November 11, 2020.

金融市場において、クラウドテクノロジーの利用が増えています。企業がクラウドという概念に慣れるにつれ、パブリッククラウドを介したマーケットデータへのアクセスが、さまざまなユースケースで利用しやすくなってきました。

ブルームバーグのエンタープライズデータでクラウドのヘッドを務めるCory Albertが、The TRADE Talksと題されたポッドキャストの最近のエピソードで主なユースケースについて解説しました。

「資本市場においては、企業が大量のデータを取得・保存して独自のデータレイクを構築し、従来からのバックテストを実行したり、リポジトリーに注文を保管したりしています。またフロントオフィスでは、より高い計算能力を必要とするリスク管理やボラティリティ算出などが行われています」とAlbertは述べています。

クラウド導入加速化の要因

クラウドテクノロジー導入を後押ししている要因の1つに、資本市場関連ソフトウエアを提供する従来の独立系ベンダーが、SaaS(software as a service)型モデルの導入を進めていることがあります。これにより、例えばブルームバーグが提供するリアルタイムデータを利用するためには、AWSなどのパブリッククラウドプロバイダーが必要となりました。

クラウド上で利用可能な資本市場関連ソフトウエアが増え、エンドユーザーである企業もクラウドへの移行に抵抗を感じなくなってきました。「より多くの独立系ソフトウエアベンダーがクラウドに移行しSaaSやマイクロサービスアーキテクチャーを提供するようになれば、資本市場におけるクラウド導入はますます加速すると思われます。また、弊社のリアルタイムデータセットをクラウドに取り込むお客さまが増えています。データサイエンティストの業務フローだけではなく、通常のトレーディングの業務フローをクラウドに移行させる動きが始まっています」とAlbertは述べています。

新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの企業に前例がないリモートワークの導入や業務継続計画の発動を促しましたが、同時にクラウドの導入も促進しました。

「感染拡大のごく初期の段階で、あるニューヨークのスタートアップ企業が私に連絡してきました。その企業の開発環境は、ニューヨークのオフィスに設置されたサーバー内にあったのです。彼らはオフィスに入ることもできず、新たにどのような設備を導入すればいいのかも分からず、途方に暮れていました。このようなことがあってクラウドへの移行が促進され、大企業の間にも導入の動きが広がりました」

もう1つの重要なポイントはエンドユーザーがアプリケーションにアクセスする方法の変化です。例えば、これまでは社内のサーバー上で利用していたアプリケーションをモバイル版に移行するだけでも、社外からのアクセスが増加するためウェブサーバーの拡張が必要となります。「コロナウイルス感染拡大に対応するため必要となった大規模なシステム拡張のおかげで、こうしたタイプのアプリケーションをクラウド上で利用することができるようになりました」とAlbertは述べています。

ハイブリッククラウドを最大限に活用する

また、パブリッククラウドのサービスを活用しつつ、コンピューティングやストレージの拡張性確保のために独自のプライベートクラウド(多くの場合はオンプレミス)も整備するハイブリッドクラウド・アプローチを採用する企業も出てきています。

「クラウドの活用とはすべてをクラウドに移行することだと誤解している人がよくいます。もちろん総保有コストに対する配慮は重要ですが、効果的なイノベーションの活用も同様に重要です。多くのお客さまがどの業務をクラウドに移行すべきか慎重に検討された結果として、こうしたハイブリッドクラウドという考え方が生まれてきました」とAlbertは述べています。

データのリスク管理

クラウドに保管したデータのリスク管理の重要性については、ここ数年で急速に理解が進みました。クラウドに対する企業の理解が進み、米金融取引業規制機構(FINRA)や英国の中央銀行であるバンク・オブ・イングランドなどもクラウドをサポートしています。

もちろん、データをクラウド内で安全に保管する手順の確立やそのリスク管理が重要であることは言うまでもありません。それに加えて、顧客データおよび企業のIPを保護することの重要性を従業員に対して企業文化として浸透させる必要があります。

「ブルームバーグでは、データのリスク管理が確立されています。また、従業員教育により成果を上げているお客さまの話もよく聞きます。日頃から従業員が異常に注意し、何かあったときにはしかるべき人にすぐ連絡することが重要です」とAlbertは述べています。

実務面では、多くの企業がクラウドガバナンスチームを組織し、必要な手順を確立しています。クラウドガバナンスチームは社内各部署の実務家から構成され、セキュリティやプロビジョニングについて検討を行います。このチームが社内のクラウドプロジェクトをチェックすることにより、ごく早い段階からデータセキュリティについて確認することができます。また、さまざまな侵入テストを併用することも重要です。例えば、インターネット経由で何かを利用可能またはアクセス可能にする場合には、侵入テストを行ってプロセスのセキュリティを確認することができます。

利用可能なツールの把握も欠かせません。さまざまなオープンソースのツールや有料のツールが存在します。自社のプロジェクトに最適なツールを把握し、設計や要件定義の際に明確に規定することが重要です。

「弊社が、リアルタイム統合マーケット・データフィードのB-PIPEをクラウドに移行する際に最も注意を払ったのは、ネットワークセキュリティでした。データをどこかに保管するのではなく、お客さまへのリアルタイムフィードであったためです。何らかのテクノロジーをクラウドに移行する際には、目標に最も合致するツールを特定することが重要です」

技術者をフルに活用する

クラウドテクノロジーの導入がますます容易になり、金融関連でクラウドのユースケースが増えつつあります。金融業界全体におけるクラウド導入の流れは今後も続くでしょう。

「クラウド導入においては技術者の活用が大変重要です。技術者の支援を得て、データを移動させることも分析することもできるようになります。一方で、映画スパイダーマンの有名な台詞『大いなる力には大きな責任が伴う』も忘れてはいけません。従業員に対して適切な教育を行い、何か起きた際にはすぐに専用連絡先に連絡が行く体制を整えておけば、クラウドの用途は大きく広がります」