圧力が強まるアジア太平洋地域の規制報告基準

本稿は、Wolters Kluwer社金融部門のアジア太平洋地域規制報告担当ディレクター、Wouter Delbaereにより執筆されたもので、ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。(Read the English version published on March 08, 2019.)

アジア太平洋地域における大規模な規制環境の変化に伴い、銀行はこれまで以上に粒度の細かいデータを規制当局より求められるようになって来ています。規制への対応のために注力すべき賢明な策は、データのシームレスな統合と言えるでしょう。

アジア太平洋地域の規制当局は、透明性と一貫性の向上を銀行に求める圧力をますます強めています。事の発端は、バーゼルIIIの流動性カバレッジ比率(LCR)、安定調達比率(NSFR)、国際財務報告基準第9号(IFRS 9)、共通報告基準(CRS)などの国際レジームがロールアウトされた結果、金融機関の報告基準が引き上げられたことでした。

現在もなおオーストラリアやシンガポールを筆頭に、現地規制当局は報告規制のオーバーホールを進めており、新たな義務の追加に余念がありません。オーストラリア健全性規制庁(APRA)とシンガポール金融管理局(MAS)は長年ぶりに、主な財務状況報告書を一新すると決定しました。これに伴い、関連資料すべての様式に影響が生じたほか、新たに多数の属性、計算値、合算値が必要になっています。オーストラリアやシンガポールの金融機関はそれぞれのロールアウト期限である2019年、2020年に向けてこれらに重点的に取り組むことになるでしょう。

さらに、対象とされる報告はそれぞれの市場において規制報告のいわゆる「アンカー」であるため、これに合わせてほかのほとんどすべての利益を最終的に調整する事態になるでしょう。2019年には、このように利益を事後に変更して補完する際の方法が、特にシンガポールでは明確に提示されることが期待されます。

アジア太平洋地域のほかの規制当局も大口エクスポージャー、銀行勘定の金利リスク(IRRBB)、カウンターパーティ信用リスクエクスポージャーの計測に係る標準的手法(SA-CCR)について報告要件を更新するなど、多くの変更を示唆しています。

アプローチの変化:自社のオーバーホール

セクターを一掃する勢いの変化に伴い、かつてないレベルの規制を遵守するには、金融機関は多種多様なシステムのデータを統合し、規制当局向け情報の粒度を一段と微細化しつつ作成頻度を高め、マシンリーダブルなファイルを(提出物からそれを裏付けるソースデータに遡り得る完全なトレーサビリティを確保した上で)提出しなければなりません。

従来、多くの機関は規制報告の大部分においてマニュアルなアプローチ(一般的には独自のスプレッドシートやマクロ機能)を取ってきました。このアプローチにおいては既存の手続を忠実に守ればよいという快適さがあり、ビジネスユーザーはデータを容易に視覚化、管理できます。しかし、こうした利便性はヒューマンエラーを招きやすく、統制上多数のリスクが付随します。規制当局の最近の変更状況を勘案すれば、もはやそうした代償は払いたくないという意見が多数でしょう。

一方、データ、計算式、書式設定を変更、調整するという自由度を認めるとエラー、不正確、不整合の発生リスクが高まり、明確な監査証跡を確保しにくくなります。このアプローチには、拡張性やスケールの観点においても本質的に限界があります。新たな規制要求は一般的に、スプレッドシートに当初設定された目的範囲を逸脱するため、新たな規則に応じて増したデータや複雑性を管理できない状態にすぐに陥るからです。

実際には、自動化や統制が相当な水準に達しない限り、アジア太平洋地域において企業コンプライアンスを維持できる銀行はほぼないと言っていいでしょう。従って、これらの難しい新規要件に対処する際に必要な戦略や能力を金融機関が備える手段が、新たな技術やビジネスモデルであるという現状にも驚きはありません。

新たなテクノロジーによるスチャンス

複雑性を増す規制要件に従うため、2019年にはこれまで以上に多くの銀行が戦略的な自動化技術、いわゆるレグテック(RegTech)に投資すると予想します。その目指すところは、警戒する当局の捕捉を回避することだけでなく、一貫したコンプライアンスに必要な自社の透明性基準を達成できるようにすることです。特に人工知能、ビッグデータ、ブロックチェーンについては、この業界でも一部の有望なアプリケーションの評価が進められています。

実際に、規制に係るオーバーホールを、これまでの方法を見直し、最近注目のマネージドサービスなど現在採用し得る代替的なビジネスモデルを評価する機会として利用する銀行も多いでしょう。このモデルについてはさまざまな規制当局がサポートする姿勢を明示していますが、金融機関の多くは主なメリットをやっと正確に理解し始めたところです。

本年にはシステム管理を一括して請け負うマネージドサービスというルートで企業コンプライアンスの現状に挑む勇敢な銀行がアジア太平洋地域にいくつか出現し、同業者や規制当局などの注目を絶えず浴びることになるでしょう。

2019年以降はマネージドサービスがゆっくりと、しかし着実に基準となり、最終的に次代を担っていくことが予想されます。

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