ESGへの新たな視点:より良い投資判断のために

Read the English version published on September 21, 2022.

New Climate Economyの最近の報告によると、ネットゼロへの移行は2030年までに最大で26兆ドルの投資および雇用創出の機会をもたらす見込みです。しかし、投資家は信頼できるプラットホームを利用してさまざまな美辞麗句や企業の約束を精査しない限り、そうした機会を正しく評価するための全体像を把握できないままになってしまいます。

例として、もともと炭素排出量が多いセメント企業を考えてみましょう。排出量を削減するため、カーボンオフセットのプロジェクトを立ち上げ、資金調達の手段としてサステナビリティ・リンク・ボンドを発行するとします。結果として、同社は自社の目標と政府が定める法律の両方を達成する可能性が高くなり、このセメント企業の株式や債券を購入することは投資会社にとって突如として有利に見えてきます。

一見すると良い投資のようですが、「必ずしもそうとは限らない」とブルームバーグのサステナブルファイナンス・ソリューション部門グローバル統括責任者、Patricia Torresは指摘します。

「ブルームバーグは、投資家が同業他社との比較をしやすいように同セメント企業の炭素排出原単位スコアを算出する際、このカーボンオフセットは考慮しません」とTorresは述べます。さらに、「企業の実際の排出量に基づいてスコアを算出しているため、排出量の少ないセメント企業の方が評価は高くなります。また、欧州連合(EU)域内の投資企業もしくはEU域内でファンドを販売する投資企業は、自社のポートフォリオが各種サステナビリティ活動に関するEUタクソノミー(どの活動がサステナビリティに該当するのかが明確に定義されている規制)にどの程度整合しているかを顧客に報告する義務があります」と続けます。

「ブルームバーグは、投資家が企業のカーボンフットプリントを理解し、さまざまなESG基準に基づいて競業他社と比較できるよう支援しています」 

ブルームバーグのESG投資機能とデータプラットホームは、企業のサステナビリティ計画をより広範でグローバルな視点で捉えます。つまり、企業の活動がより幅広い政策にどの程度適合しているか、ここではセメント企業がEUタクソノミーにどの程度整合しているかを投資家に示します。Torresは、「この例では、前述のセメント企業が1トン当たり炭素排出量原単位のテストに合格するには、生産する製品は0.469トンCO2e未満である必要があります」と述べます。なお、EUタクソノミーは一定の条件下でオフセットをカウントすることもあります。こうした現状ゆえに、投資家は大局的な全体像を把握できるソリューションを求めているのです。

ブルームバーグは、投資家が予期せぬ発見や投資機会を見いだすだけでなく、不適切な投資を識別する支援もしています。最近では、政府の気候スコアを表示する画面をリリースし、投資家が各国の排出量見通しだけでなく、炭素移行、電力部門の移行、気候政策の面で他の国々と比べてどの程度の成果を上げているかを理解できるようにしました。

「興味深いことに、世界の二酸化炭素排出量の35%を占める中国は、米国などの高排出国と比べて相対的にスコアが低いのです」とTorresは説明し、「投資家は、各国の移行状況や、中国が太陽光発電や風力発電の開発でリードしている様子を素早く把握できます」と続けます。

ブルームバーグNEF(BNEF)アナリストのデータによると、2022年上半期には世界の再生可能エネルギー投資のうち、中国が53%を占めたということをTorresは加えて説明します。「上海深センCSI300指数構成銘柄のうち、再生可能エネルギーセクターに属する企業は昨年7社だったのに対し、現在は15社を占めることからもこの影響がうかがえます」とTorresは述べます。

気候変動が現実であることを示す証拠はある一方で、世界各国のESG投資家はそれに対処する高品質なデータが不足していることに悩まされています。例えば、各企業の温室効果ガス排出量から、異常気象による物理的リスクから受ける影響、グリーンエネルギー生産を支援する政府の制度といった移行リスクから受ける影響、クリーンテクノロジー分野のイノベーションから受ける影響に至るまで、あらゆる情報が十分ではありません。

「ブルームバーグでは、『測定できないものは管理できない』と言われています」とTorresは説明します。

ブルームバーグ・インテリジェンスの試算では、ESG運用資産残高は2025年までには世界で50兆ドルにまで成長する見通しです。背景には、特にパリ協定が2030年までに世界の排出量を半減し、今世紀末までには地球温暖化を1.5℃に抑制することを目標に掲げる中、各企業が海面上昇、熱波、干ばつなど気候変動に関連する深刻な影響に適応する方法、あるいは政府の規制を満たすために生産をシフトしてリスクを軽減する方法を模索しているということがあります。

しかし、Harvard Business Reviewによると、自社が開示するESGデータに自信すら持てない企業は7割に上ります。以上の課題を踏まえ、ブルームバーグは「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」と「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟(GFANZ)」を通じて、業界の連携を推進することで対策を講じています。これにより、比較可能な企業データを提供し、企業は物理的リスクと移行リスクからどのような影響を受けるか評価できるようになります。

Torresは、「当社のデータソリューションは、投資家が企業の炭素排出量を把握し、さまざまなESG基準に基づいて同業他社と比較し、さらに気候目標の達成に向けた進捗(しんちょく)状況や気候リスクへのエクスポージャーを評価するのに役立ちます」と述べます。ブルームバーグは、サステナブルファイナンスに関する各種規制に沿った投資と報告義務を評価するためのツールも提供しています。こうした評価は、もはや単純な確認作業ではなく、投資家に投資戦略や意思決定の転換を迫る根拠となっています」と加えます。

このESGデータは、ブルームバーグの編集基準に従って審査されるため、投資家には完全な透明性が提供されます。投資家はクリックするだけでデータの原資料にアクセス可能な上に、各企業のデータは極めて広範な対象を網羅するもので、企業の事業全体や従業員全体の8割の状況がデータに反映されています。ブルームバーグは、気候変動データ以外にも、企業が環境と社会に与える幅広い影響について投資家が把握できるよう取り組んでいます。例えば、水や生物多様性、多様性・公平性・包括性の実践、事業を展開する地域社会との交流などを分析対象としています。

「また、ファンド運用会社がポートフォリオのベンチマークやETFの組成に利用するESGインデックスも提供しています」とTorresは説明します。「欧州や英国を中心に、多くのファンド運用会社はパリ協定に整合し、EUベンチマーク規制に準拠したベンチマークに投資をシフトしています。ベンチマークを選ぶ際には、信頼できるデータに基づいているか、厳格な算出法が用いられているか、そして銘柄の組み入れ・除外基準が明確かつ適切に定義されたプロセスであるかを厳密に確認することが重要です」と続けます。

投資家は、急速に変動する気候とそれが企業やその長期的展望に与える影響を理解し、投資に関する十分な知識に基づいた判断を下すためには、信頼できるデータや分析のソースに目を向ける必要があるでしょう。

本稿はRaconteurの「Sustainable Investment」レポートからの転載です。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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