やはり「爆買い」=中国人は本当だった、インバウンド再検証:BI株式

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のシニア・アナリスト田村晋一およびアソシエイト・アナリスト本間靖健が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。

政府による新型コロナの水際対策が10月11日より大幅に緩和され、旅行関連やインバウンド関連銘柄への関心が高まっています。ただし、一定の制限緩和後の8月の訪日外客数は17万人とピークの5%強にとどまっており、以前のペースに戻るまでにはかなりの時間を要すると思われます。過去最高を記録した2019年の旅行消費推計額は4.8兆円あり、内訳は宿泊30%、飲食21%、買物代35%ですが、中国人に限ると買物代は53%に達し、香港・台湾を合わせると買物代総額の75%を占めています。関連銘柄を考えた場合、過去の需要貢献を考えれば、宿泊・観光業、百貨店、一部のドラッグストア・家電量販店、商品別では化粧品が挙げられますが、意外なところでは中古車販売も、日本車人気が高い地域の輸入業者入国が増えれば、業績が回復する可能性があります。

前回は2015年から急増、ピーク19年は3188万人、消費額4.8兆円

訪日外客数/旅行消費額の推移

Source: 観光庁、観光局

訪日外客数は1990年代前半には年間300万人台でしたが、2013年に1000万人の大台に乗せた後、15年に一気に1973万人に増えて、19年は3188万人に到達しました。旅行消費総額は13年の1.3兆円から19年には4.8兆円にまで大幅に増加し、「爆買い」というワードが有名になるなどインバウンド需要が業績を押し上げる業界・企業も多数ありました。その後、コロナ渦中の訪日外国人客数は月間数千人から2万人程度にとどまっていましたが、入国制限者数などの水際対策が緩和された4月以降は10万人台半ばの推移が続いています。今後さらに水際対策が緩和される可能性や新型コロナウイルス感染症の重症者・死者数の減少、治療薬の登場などにより訪日外客数は徐々に回復する可能性があります。訪日客にとっては円安も大きな追い風とまるでしょう。

入国者数の激減により、旅行消費額は大きく減少しており、少しだけ観光客が戻った4-6月の推計値も3カ月間で1047億円にとどまります。これが1兆円に戻るまでにはかなり時間を要すると思われますが、一旦、1兆円程度まで回復すると、その後は加速する可能性があるでしょう。

 

インバウンド需要は国内消費を最大0.9%押し上げる効果

費目別旅行消費額/インバウンドの消費押し上げ効果

Source: 観光局、日銀

訪日外国人消費動向調査によると、一般客の旅行支出額は、為替レートの影響を受けて変動はあるものの、15年から19年の間は1人当たり14万-16万円程度でした。内訳は、宿泊費が約30%、交通費が10%、飲食費が21%、娯楽・サービス費が4%と少なく、買物代が約35%を占めています。

旅行消費額(19年4.8兆円)は、当時の持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出250兆円に対して約2%という計算になります。一方、モノ消費にコト消費も合わせた日銀の消費活動指数はインバウンド消費を含むベース・除くベースの2種類の指数があり、両指数の差は17年頃から開き始め、インバウンド需要の押し上げ効果は18年で0.5%、19年で最大0.9%あったと試算されます。この指数は旅行収支などに外国人の消費額を足し、日本人の海外での消費額を差し引いて計算するため、15年以前や20年以降はマイナス貢献となっています。コロナ渦でも日本人による海外サイトでのインターネット購買が一定程度はあることが背景でしょう。

 

中国・台湾・香港は、来客数は半分強も、買い物代では75%を占める

国籍・地域別の訪日外客数/旅行消費額(2019年)

Source: 観光局

「インバウンドの爆買い」というと中国人をイメージする人は多いですが、訪日外客数に占める中国本土からの割合は30%(2019年、以下同じ)だ。これに台湾と香港を足すと53%となり過半数が中国系ということになります。ただし、シンガポールや東南アジア在住の華僑もいるので、実際の中国系は60-70%でしょう。

旅行消費の内訳は国籍・地域によりかなり異なっています。欧米人は宿泊・交通が60%近くを占め、飲食が25%程度、買物代は12%にとどまります。中国本土以外のアジアの場合は、宿泊・交通が40%程度、飲食が22-24%、買物代は27-35%に高まります。韓国は買物代が23%と少な目で飲食が28%と各地域の中で一番高くなっています。これが中国の場合、宿泊・交通が27%、飲食も17%と少なく、買物代が53%を占めています。これに人数を掛け合わせると、買物代金総額に占める中国の割合は56%、台湾・香港を足すと75%に達します。他のアジア圏の中国系も合わせると同割合は80%を超えるでしょう。「中国人の爆買い」は統計上も正しいようです。

 

関連銘柄の本命は宿泊・百貨店・ドラッグ・化粧品、中古車販売も

インバウンド需要が期待される業種・商品分野

Source: Bloomberg Intelligence

19年旅行消費で金額の大きい項目は買物1.67兆円、宿泊1.4兆円、飲食1.0兆円です。インバウンド関連銘柄を考える場合、交通費0.5兆円は観光バス、新幹線、飛行機などに分散し、1社当たりの貢献割合は小さいでしょう。娯楽サービスも合計が1900億円しかなく、貢献の大きい業種・企業は限られるでしょう。飲食も多くの店舗に分散する上に非上場の個別店舗も多く含まれます。

関連銘柄の筆頭は宿泊業と百貨店でしょう。19年12月の全国百貨店売上高6404億円に対し、インバウンド関連売上高は598億円でした。また、訪日観光客に人気のある秋葉原の家電量販店や繁華街のドラッグストアも候補となります。銀座や大阪心斎橋の店舗では19年の免税販売が売上高の30-60%を占める例もあったようです。また、買物の商品分野で目立つのは化粧品とブランド品でしょう。ブランド品は海外メーカーとなるが化粧品は国内メーカーが主体であり、恩恵も大きかったと考えられます。意外なところでは中古車販売も挙げられます。パキスタンなど日本車人気の高い国の輸入業者の入国が期待されます。

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