LIBOR:不正に染まらない後継を探す長い道のり

本稿はJohn Gloverが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。(Read the English version published on October 17, 2018.)

ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は、学生ローンや住宅ローンからデリバティブ、クレジットカードに至るまであらゆる金利の決定に使われるベンチマークで、銀行が毎日設定し、長年にわたって信頼されてきました。しかし、欧州および米国の銀行が自行のポートフォリオに利益をもたらすため不正に操作していたことが判明して以来、汚れたベンチマークと見なされてきました。今から数年後には、同じファミリーに属するユーロ金利のEuriborや円金利のTiborと共に、歴史の遺物となってしまうことでしょう。しかし、370兆ドルを超える金融契約がLIBORを参照しているためすぐに廃止してしまうわけにはいかず、これが金融界の大きな頭痛の種となりました。どうすれば市場の混乱を最小限に抑えつつ信頼性と透明性に勝る代替ベンチマークに移行できるのでしょう。

1. LIBORの代わりは何になるのでしょう?

世界各国の規制当局や銀行、弁護士事務所、投資家が代替ベンチマークについて検討を重ねていますが、ほぼリスクフリーで多種多様なローンや契約に使用可能な汎用性を有するベンチマークを探し出すのは困難な作業です。テナーについても翌日物から数年先までをカバーし、かつ5つの通貨に対応する必要があります。このことは、代替ベンチマークが実取引に基づいていなければならないことを意味しています。現在のシステムは、銀行が複数の取引や市場データから推測した自行の短期借入コストに基づいています。新しいシステムが有担保ローンの実取引や非常に流動性が高いデリバティブなどの市場をベースとする場合には、その金利はよりリスクが高い無担保ローンの金利よりも低くなるケースがほとんどとなるでしょう。これにより勝ち組と負け組が生まれると考えられます。

2. 現在の状況は?

既にほとんどの国で、LIBORの代替案が特定されています。米国では、ウォールストリートの大手銀行と規制当局から構成される委員会が、現先取引(レポ)と呼ばれる米国債を担保とした翌日物貸し付けの金利を代替金利のベースとすることを決定しました。担保付翌日物調達金利(SOFR)と呼ばれます。スイスは、やはりレポレートであるスイス翌日物平均金利(SARON)を選定しました。英国は、ポンド翌日物平均金利(SONIA)を選定しましたがこれはレポ金利ではなく、銀行やビルディングソサイエティの無担保翌日物調達金利を反映しています。日本では、短期金融市場のレートをベースとして日本銀行が運営する無担保の東京翌日物平均金利(TONA)が選定されました。欧州中央銀行は、2020年までに無担保翌日物金利を開発することを決定しましたが、これは加盟国の中央銀行において既に利用可能な実取引データに基づくものです。

3. そうすると、1つではなく多くの代替金利が使われるのですね?

その通りです。実はLIBORにもいろいろな種類があります。LIBORは2014年からインターコンチネンタル取引所(ICE)傘下のICEベンチマーク・アドミニストレーションが運営していて、5つの通貨、7つの満期について毎日レートを公表しています。新しいベンチマークは、すべて翌日物金利をベースとし、1つの例外を除いてすべて中央銀行が運営する予定(現時点において)ですのでより公式なものになるでしょう。スイスフラン建の契約にLIBORの代替として使われるSARONだけは、スイスのSIXスイス取引所が運営する予定です。

4. 誰が必要としているのですか?

年金基金、ミューチュアルファンドなどの運用機関、保険会社、大手および中小の銀行、ローンを束ねて証券化するウォールストリートの投資銀行など多くの人々です。国際スワップデリバティブ協会によるとLIBORを参照する金融商品の総額は370兆ドルに上ります。一例を挙げると、設備リース、コマーシャルペーパー、国債、学生ローンや自動車ローン、銀行預金、住宅ローンなどです。しかし最も多くLIBORが使われているのは金利スワップなどのデリバティブ取引で、事業会社や銀行、投資家などがリスクヘッジや投機目的で使用しています。

5. LIBORはどのようにしてここまで広く使われるようになったのですか?

1960年代半ばのユーロ通貨市場において、欧州の銀行は、時には課税回避を目的とするオフショア預金(主に米ドル)を互いに融通していました。やがて、複数の銀行がシ団を組むシンジケートローンや金利スワップのプライシングに使用するために、1986年、ロンドンにある英国銀行協会によってLIBORが創設されました。LIBORは無担保のリスクフリーレートとして利用が拡大しましたが、実際には借り入れを行った銀行がその満期前にデフォルトしてしまう信用リスクを若干内包しています。その後、他の市場においても便利なベンチマークとして利用されるようになりました。

6. なぜずっとLIBORを使い続けてはいけないのですか?

昨年、英国の金融機関や金融市場を監督する金融行為規制機構(FCA)のAndrew Bailey長官が、2021年末以降、各種LIBOR算出に使われている金利の提出を銀行に求めないと表明しました。提出する銀行側はそのためのコストやリーガルリスクを気にする一方で、規制当局はベンチマークの不正操作に対する脆弱性を懸念しました。LIBORのベースとなる銀行間取引も縮小しているため提出される金利のベースとなる実取引が減り、より一層リスクが増大しています。

7. つまり、LIBORは廃止されるということですか?

完全に廃止というわけではありません。ICEは、銀行が自主的にレートを提出することを前提にLIBORの公表を継続すると表明しています。LIBORを参照する契約が新ベンチマークに移行していない場合これは助けになりますが、Bailey長官はLIBORに依存し続けるべきではないと言っています。FCAはレート提出を銀行に求めなくなりますので、提出をやめる銀行も出るかもしれません。

8. LIBORを参照する既存の契約はどうなるのでしょうか?

それは、370兆ドルをどうするのか、という質問と同じです。ロンドンにあるLinklaters法律事務所のデリバティブ担当パートナーであるDeepak Sitlani氏によれば、契約は変更が必要で、その難易度は市場によって異なります。同氏は、デリバティブ契約の変更にはプロトコル(修正条項)を使う方が、社債権者集会を招集して個別債券の発行要項を変更するよりは簡単で時間も短くて済むだろうと述べています。また、Bailey長官はスピーチの中で、シンセティックLIBORあるいはデリバティブベースのLIBOR代替金利の開発も可能かもしれないと述べ、問題解決への希望を示しました。ただし長官も具体案は示さず、リスクフリーレートに銀行リスクを反映したクレジットスプレッドを加味したようなものになるだろうと述べるにとどめました。最後に長官は、FCAは市場関係者に対してこの問題に早急に対処することを要請すると述べました。

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