Read the English version published on April 23, 2020.
本記事はブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューションズのビジネス・マネジャー、Nadia Humphreysとインデックス・プロダクト・マネジャーのChris Hackelが執筆しました。
さまざまな機関がパッシブ運用の投資商品向けに低炭素ベンチマークの提供を始めていますが、それぞれの異なる手法を比較するのは容易ではありません。報告方法も多様であり、投資家は各戦略に適したベンチマークを選択するのに苦慮する場合があります。投資活動が地球温暖化へ及ぼす影響が不明瞭である点も、低炭素ベンチマークの信頼性を損ねる要因となり、ひいてはベンチマーク普及の足かせとなる可能性もあります。
低炭素で化石燃料を使わないクリーンエネルギー投資商品に対する需要の高まりを示すシグナルが見られる今、EUによる新しい2つの気候ベンチマークの導入は絶好のタイミングといえます。
ブルームバーグ・インテリジェンスの分析によると、特に新型コロナウイルス危機もあり、一段と「グリーン」かつ「サステナブル」な投資商品に多額の資本が流入しています。ESG(環境・社会・ガバナンス)やその他特定の価値観に基づくETFへの資金流入はネットベースで2019年に290億ドルと、2018年の3倍に増えました。パッシブ運用での低炭素投資戦略は2018年以降、多額の資産を集めており、米国ベースのETFへの投資額は10億ドルを超え、2019年も世界中で30億ドル近い資金が流入しました。
ただし、投資家にとって、投資先が本当に気候変動対策に寄与しているのかどうかを確認することは依然として容易ではありません。現在提供されているベンチマークは大まかに以下の3種類に分類されます。
- 市場最適化:低炭素投資戦略を求める投資家向け
- ベスト・イン・クラス:通常、炭素効率性(売上高当たり炭素排出量)の水準とエネルギー移行に着目
- 化石燃料不使用:投資戦略から主な特性が除かれているかに基づく
欧州委員会が設置した、サステナブル・ファイナンスのためのテクニカル・エキスパート・グループは、より多くの戦略を採用する必要性を認識しています。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(アイルランド国立大学ダブリン校)でオペレーショナル・リスク、銀行および金融学を専門とするAndreas Hoepner教授は「現在提供されているベンチマークは必ずしも、地球温暖化を2°C未満にするという基準に示唆される金融ニーズに見合ったものではない」と述べています。これまで、投資家にとって気温シナリオの指針となる正式な枠組みは存在していませんでした。そのため投資家が警戒するのは、あたかも環境に配慮しているかのように見せかけるいわゆる「グリーンウォッシュ」です。すなわち、これらベンチマークの構成銘柄として認められるための特性の測定方法が不正確だったり、推定データに大きく依存したりする懸念です。
2020年4月導入される2つの新しいEUベンチマークはこうした点の明確化に役立つでしょう。これらは、脱炭素投資戦略を追跡する気候移行ベンチマーク(EU Climate Transition Benchmark)とパリ協定適合ベンチマーク(EU Paris-Aligned Benchmark)の2種類です。ベンチマークが適格と認定を受けるには、EUの委任法令で定められる最低技術要件に準拠する必要があります。
各ベンチマークの構成銘柄はカーボンフットプリント削減の面から評価され、各ベンチマークの前年比脱炭素化基準は年平均7%以上と厳しく設定されます。この目標は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が想定する1.5°Cのシナリオに沿ったもので、パリ協定と整合するものです。2年間この基準を満たせない場合は、EU認定が外されます。
また、両ベンチマークでは、投資ユニバースまたは親ベンチマークとの比較における排出削減目標が野心的な数値となっており、パリ協定適合ベンチマークでは50%削減に設定されています。これらの措置により、IPCCの野心的な目標に忠実な手法を維持するとともに、企業によるカーボンフットプリント削減努力も促されます。カーボンフットプリント削減目標を満たさない企業は資本調達が難しくなるためです。
ベンチマーク運営機関にとっての明確なガイダンスと枠組みが、投資家にとっては安心材料となるでしょう。足元の景気後退期においてESG ETF需要が急増するなか、最も影響を受けるのは年金ファンドからの需要に応えようとするパッシブ運用の資産運用会社とみられます。
気候変動は明らかに今注目を浴びているトピックで、EUの提案は将来の投資フローに重要な影響を及ぼし、EUの気候ベンチマークは2050年までにカーボンニュートラルにするという野心的な目標達成に向けて重要な役割を果たすと思われます。2019年9月に発表されたEUの最終報告書は、委任法令の草案の土台となり、事後協議を経て2020年中に採択される予定となっています。