Read the English version published on July 21, 2025.
本稿はブルームバーグのコンプライアンス・分析・ディレクトリソリューション担当グローバルヘッドのNader Shwayhatが執筆しました。
通信やデータの量と複雑さが飛躍的に増大する中で、金融機関のコンプライアンス部門は、絶え間なく変化する規制順守を監督するとともに確保するという重大な課題に直面しています。このような環境は、その場しのぎの形式的なコンプライアンス対応をするのではなく、能動的で先見性があり、かつスケーラブルな戦略への転換が求められていることを示しています。
この変革の中心にあるのは人工知能(AI)であり、ブルームバーグはAIを活用して企業がコンプライアンス管理を見直し、再設計するお手伝いをしてきました。メール、チャット、Zoom通話、WhatsAppメッセージなどの膨大な量の電子通信の監視から微妙な行動の検知にいたるまで、AIは幅広いユースケースで活用されています。
問題は「AIがコンプライアンスを変革するのか」ではありません。AIがすでに変革をもたらしているのです。むしろ問うべきは、「企業は今日、AIを責任ある形で効果的に活用するにはどうすべきか」という点です。
従来型AIと生成AI:実践的な活用事例
AIの根底にあるコンセプトは新しいものではありません。「人工知能」という用語は1956年に、「機械学習」という用語は1959年に使われるようになりました。しかし、最近の技術的進歩、特に生成AIの飛躍的な発展によって、企業と消費者の双方が強力かつ手軽に利用できるツールを手に入れたのです。
AIは単一のテクノロジーではなく、多様なツールや手法の集合体であるという点を理解することが重要で、コンプライアンスの観点からは、現在AIは、以下の二つに分類されています:
- 従来型:AIに対する従来の機械学習(ML)のアプローチは、エンティティ認識やトピック認識、自然言語処理(NLP)、自動音声認識、感情分析などのタスクに対して、効率的で説明可能なモデルを提供します。コンプライアンス分野では、従来型AIはデータの分類(例:免責事項の識別)、センチメントの判定(例:ポジティブ/ニュートラル/ネガティブ)、特定情報の抽出(例:取引可能な証券)などに極めて有効です。最大の利点は、説明可能性です。ユーザーが、入力データや想定される出力結果、モデルがどのようにその結論に到達したかを理解でき、これは規制当局による精査に対応する上で非常に重要です。
- 生成:生成AI(GenAI)は、従来MLで処理されてきたタスクのパフォーマンスを向上させるだけでなく、例えばChatGPTを支える大規模言語モデル(LLM)などの技術的進歩を通じて、従来型モデルでは難しかった要約や質問に対する回答といった領域でも卓越した能力を発揮します。GenAIが持つ相対的創造性のおかげで、これらのモデルは大規模なデータセット全体から迅速にコンテンツを生成できるため、書き起こしの要約、合成データの作成、規制変更の分析といったタスクに適しています。
AIは極めて大きな可能性を秘めていますが、その導入は慎重に行うべきです。結局のところ、AIはあくまで一つの技術であって、それ自体が完結したソリューションではありません。つまり、重要なのはAIを導入すること自体でなく、常に具体的な問題解決に焦点を当てることです。だからこそ、コンプライアンス分野におけるブルームバーグのAIに対するアプローチは、明確な目的意識と実務的な実用主義に根ざしているのです。
AIの活用事例:コンプライアンスワークフローの拡充
AIはすでに、データ管理の上流工程から分析の下流工程に至るまで、コンプライアンスワークフローの各段階で大きな影響を与えています。

監視担当者の役割を、違反を見つけ出すこと、つまり、「干し草の山から針を探すこと」にたとえると、AIの有用性がはっきりするでしょう。AIをさまざまな手法で活用することで、非構造化データに含まれるノイズ(干し草)を減らし、真のシグナル(針)を効率的に識別でき、最終的には、企業の行動リスクや市場乱用リスクにつながるパターンや全体像を明らかにできるのです。
1. 上流工程におけるデータの課題-ノイズ(干し草)を減らす
AIは、データを監視エンジンに送信する前に正規化および変換することで、データ取得と管理のプロセスを最適化できます。市場関連の会話の識別(および個人的な会話の排除)や、免責事項の削除、ニュース記事の除外、音声の書き起こしや翻訳などはいずれも、AIがコミュニケーションを最適化し、従来は非構造化されていたデータも形式化してフォールス・ポジティブ(誤検知)を低減できる好例です。ブルームバーグ・ヴォールトが提供する書き起こしと翻訳エンジンに加え、ブルームバーグでは従来型AIモデルおよびLLMを活用してセキュリティ識別と会話分類を行っており、データの最適化と事前処理を通してAIが誤検知の低減に寄与していることを示す事例となっています。

2. リアルタイムの監視とレビューのワークフロー-真のシグナル(針)を見つけ出す
今日のコンプライアンス監視の中核となるのは、通信パターンに基づいてアラートを発する監視システムです。従来の語彙(ごい)ベースのツールは、一定の有効性を保っているものの、微妙なポリシー違反、微妙な行動、口調の変化や、さらには市場乱用、インサイダー取引、利益相反を示唆するパターンなどを検知できる、より高度なAIベースのモデルによって補完されつつあります。これにより、監視の制度が大幅に向上し、内部統制も強化されます。AIはまた、アラートのリスク分析や合理化、文脈化を可能にし、チームが相対的にリスクの高い案件を優先できるようにするとともに、手作業でのレビューに要する時間と人件費を大幅に削減します。

3. 下流工程の分析-全体像を把握する
AIはまた、構造化されていない通信データや価格、市場シグナルといった構造化データを統合したり関連付けたりして、企業が特定の取引や顧客対応をめぐる全体像を把握できるよう支援します。さらにAIは、ユーザーのリスク、役割、顧客、組織の特徴といった文脈を考慮しら上で、現在と過去のコミュニケーションや取引パターンに基づいた分析を行うことができます。最終的には、コンプライアンス担当者は、AIが提供する付加的な文脈や洞察を通じて、従業員や顧客のやり取り、リスク、ビジネス上の機会を的確に理解し、最適化することが可能になります。

AIポリシーにおける信頼と透明性の構築
規制環境下でAIが真に効果を発揮できるようにするには、信頼と透明性が最も重要です。このため、ブルームバーグでは、企業が以下の基本原則を念頭に置いてAIベースのソリューションを活用・導入することを推奨します:
- 目標の定義:すべてのAIソリューションの導入にあたって、まず明確かつ説明可能な目標を掲げる必要があります。そのうえで、誤検知の低減や監視対象となる音声通話量、トゥルー・ポジティブ(真陽性)の識別といった、具体的な目標や主要業績評価指標(KPI)を設定することが求められます。
- 規制当局向けの説明可能性:詳細な文書を提供して、顧客がポリシーの設計や意図する結果を理解できるようにすることが重要です。また、その文書を監査人や規制当局に提出でき、特定のアラートを説明し、正当化できる内容である必要があります。
- 一貫性のあるアノテーション:トレーニングに使用するデータセット全体での一貫性と正確性を向上させるため、アノテーション用ガイドを策定する必要があります。
- 高品質なデータソーシング:データの可用性や品質に関する課題は、識別子や内在するバイアスを排除した、適切かつ高品質なデータセットの活用によって解決を図ることが求められます。こうしたデータセットは、社内や外部の専門家と緊密に連携することで一層最適化され、特に追加の合成データセット作成に強みを持つLLMを活用することで、さらに活用範囲を広げることができます。
- 厳格な検証と継続した改善:他のどのような技術にも言えることですが、AIベースのソリューションは先行導入者のお客さまに限定的に提供し、直接フィードバックを取り込みながら、有効なA/Bテストに基づく検証を継続して実施し、長期にわたりモデルの最適化を図ることが求められます。
- 内部検証:当初設定した指標や目標に立ち返ることは重要なステップの1つで、成果が不十分なモデルを迅速に特定し、最適化、入れ替え、または非推奨します。
自社独自のソリューションを開発する場合でも、ブルームバーグ・ヴォールトなど信頼できる技術を採用する場合でも、このアプローチはAIベースのコンプライアンスソリューションを精査に耐え得るものとし、コンプライアンス担当者が、自社モデルの機能やトレーニング方法、そして反復可能な出力がどのように企業目標を達成しているかを確信を持って説明できるよう支援します。
未来は協業の時代に
コンプライアンス分野にAIを統合することは、人間の専門家を代替することではなく、専門家がより効果的にコンプライアンス上のリスクから企業を守れるよう支援することです。AIが人間による監視機能を強化し、見落としを減らすとともに、よりスマートで迅速な意思決定を可能にします。AIの活用が進む中で、新たに顕在化する課題に取り組み、新たなリスク(市場操作や非公式チャンネルを使った通信、通信パターンの変化の検知など)に対応するためのポリシーを策定する際には、金融企業とテクノロジープロバイダーとの連携が重要な鍵となります。コンプライアンスの将来はAIと密接に結びついており、AIの活用でより効率的で正確かつ能動的な規制監視環境の実現が期待されています。
ブルームバーグがお手伝いできること
業務管理を強化し、行動リスクに対応し、規制上の義務を満たすためのソリューションをお探しですか?
今日の動きが激しい事業環境では、通信チャンネル、取引所、規制は絶えず進化・拡充されています。こうした環境の中で、ブルームバーグ・ヴォールトは、企業の取引や通信のすべてをキャプチャ、アーカイブ、監視、再構築、分析できる、非常に安全性の高い一連のソリューションを提供し、業務管理の強化、行動リスクへの対応、規制義務の履行を支援します。
電子通信のアーカイブ
ブルームバーグ・ヴォールトは、お客さまが選択したデータ保持期間中、最大30年間まで企業の監視対象となる電子通信チャンネル全体で「Write Once, Read-Many」(WORM)ストレージを提供します。
電子通信の監視
リアルタイムでそのまま利用できるポリシーを適用し、誤検知を減らして規制およびデータセキュリティ要件を満たすためにポリシーをカスタマイズしたり、ブルームバーグの強力なクエリ言語と構文機能を利用して複雑なポリシーを策定したりできます。
検索とEディスカバリー
ブルームバーグのケースマネジメント・ツールと柔軟なデータエクスポート機能を活用することで、記録を迅速に特定、集約、分析し、規制監査や法務調査に迅速に対応できます。
取引のアーカイブと再構築
取引アーカイブソリューションをブルームバーグ・ヴォールトと組み合わせると、複数の注文管理システムからの取引記録を一つの統合された画面で確認でき、取引のライフサイクル全体を可視化できます。
管理施策と予防施策
ブルームバーグの強力なコミュニティガバナンス・ツールを活用して、ユーザー、グループ、チャットルーム、ポリシーをリアルタイムで監視し、不正アクセスや悪用から情報を保護します。
ブルームバーグ・ヴォールトの詳細は、こちらからご覧ください。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。