Read the English version published on October 23, 2024.
ブルームバーグのESG規制関連問題マネジャー、Maria Elena Sandalliとサステナブル・ファイナンス・データソリューション部門グローバル責任者、Nadia Humphreysが対談し、質疑応答形式でESG開示の進化の状況、最近の規制動向、ESGデータを活用して財務パフォーマンスを向上させながらコンプライアンスに対応する方法について議論します。
Maria Elena:ご存じのように、サステナブル投資を奨励する取り組みが増え続けています。国連によると、世界の排出量の約88%を占める140カ国以上が、ネットゼロ排出量の達成にコミットしています。また、国連によると、サステナブル経済への移行を支援する規制の数は、2014年以降4倍以上増加しました。
この規制要件拡大の勢いを受け、企業が作成して投資家に提供する環境、社会、ガバナンス(ESG)データの量は爆発的に増大する見込みです。こうしたデータの増加傾向によってデータの可用性が向上して多くの機会が提供されるようになった一方で、複雑な規制要件への対応を迫られる企業が増え、コンプライアンス上の重大な課題にも直面しています。
ESG規制の最前線に立ってきたのはEUですが、今では独自のサステナビリティ報告要件を実施する国が増えてきました。このトレンドは、データの断片化や不整合が生じる懸念を引き起こし、グローバル投資家が情報に基づいて意思決定を行うのを複雑にしたり、複数の管轄区域で事業を展開する企業にとってのコンプライアンス負担を増加させています。
こうした状況を踏まえ、気候変動に対して早急に行動を起こす必要があることを考慮に入れた上で、グローバル投資家は新しいESG開示をどのように読み解いているのでしょうか。
Nadia:ESGファクターは、企業レベルと金融機関の両方で財務上重要な要素として広く受け入れられています。企業のESGプロファイルは、企業の事業効率、市場でのポジショニング、そして長期的な収益性に大きな影響を与える可能性があります。
ESGが世界の投資家にとって中核的な優先事項になりつつある理由の1つは、リスク管理に関係しています。例えば、規制の変更や気候変動による事業の混乱に対処する体制が整っている企業は、より現実的な投資先となりえます。もう1つの例はガバナンスリスクです。コーポレートガバナンスが不十分な場合、財務的損失、株主価値の低下、ひいては企業イメージに対して大きなダメージにつながる可能性があります。
事業効率も重要な要素です。効果的な環境対策は、エネルギー消費量の削減や生産性の向上など、大幅なコスト削減が期待できます。従業員の福利厚生、多様性、公正な労働慣行などの社会的要因を重要視する企業は、従業員の満足度や生産性が高く、離職率が低い傾向があり、これらはすべて財務面の安定に寄与します。その他の理由としては、資本へのアクセスや長期的なレジリエンス、イノベーションなどがあります。
全体として、ESGファクターを財務上の意思決定に統合することで、企業はリスクの軽減、収益性の向上、長期的な投資家の呼び込みを高めることが可能です。こうしたファクターが財務パフォーマンスとより密接に結びつくことで、ESGは単なる企業責任の問題ではなく、財務的成功の重要な推進要因と見なされるようになります。つまり、「あれば助かる」という項目ではなく、中心をなす優先事項と捉えられるようになるのです。
Maria Elena:ESG情報開示に関する政策の取り組みは、主に環境要素に焦点を当てていますが、社会とガバナンスの側面も等しく注目されるようにするためには、どのような政策手順を踏むべきでしょうか。
Nadia:社会的な問題は、特定の内容に特化していたり体系的な把握が必要だったりする傾向が見られ、必ずしも特定地域の単一企業に関連しているわけではありません。さらに、地域の特性を考慮して、社会的基準がどのように適用され、実施されるのかは地域によって異なってきます。
ただし、ここで述べておきたいのは、社会問題やガバナンス問題に関する規制は着実に増加しているということです。その目的とは、労働者の権利、多様性、データプライバシー、コーポレートガバナンスなどの分野で、透明性、説明責任、責任あるビジネス慣行を確保することです。これらの問題は、EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)やEUタクソノミーなどの規制に織り込まれているため、投資が優れたガバナンスや社会的慣行を犠牲にして、近視眼的に気候関連の成果を追求することはありません。
しかし、一つの懸念として挙げられるのは、政策による介入が、世界の社会規範に違反しているとみなされる企業を除外するよう投資家に求める場合が多いということです。論争の特定は技術的に困難です。問題となるうわさが流れたとき、訴訟が法廷に持ち込まれた場合、企業に法的責任があると判明した場合に、投資撤退をするべきでしょうか。ではその会社に無罪判決が下りた場合や、訴訟示談が成立した場合はどうなるのでしょうか。
同様に、児童労働のような根深い社会問題も、エンゲージメントを通じて解決するのが最善です。理想的には、企業は社会的サプライチェーンの監査を実施し、リスクを特定し、サプライヤーと協力して問題の解決に投資する必要があります。投資を撤退させるというアプローチだけでは、リスクの高い地域から資本を引き揚げ、問題を悪化させるリスクがあります。
Maria Elena:特定の地域でESG規制が相次ぐと、混乱や分断が生じ、グローバルな投資コミュニティーに問題をもたらす可能性があります。政策立案者は、ESGの用語や略語を並べるだけにとどまらず、より合理的で相互運用可能なフレームワークを開発し、グローバル投資家のために役立てるにはどうすればよいでしょうか。
Nadia:ESGの情報開示は世界的に一貫性がなく、管轄区域、企業規模、セクターによって大きく異なっています。財務データの報告は、サステナビリティの報告と整合性がとれていないことが多く、ESGデータの作成には大きなタイムラグが生じることがよくあります。
こうした問題が、金融機関によるESG関連リスクの正確な評価や、十分な理解を困難にしています。しかし政策立案者は、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の取り組みを導入するために介入して、世界的にさらに整合性のあるESG報告のフレームワーク作成を始めました。この制度の導入は依然として管轄区域によって異なるものの、共通のベースラインとなるESG報告データセットを提供するために大幅な改良が図られてきました。
これらの評価基準は、ESGが企業価値に与える影響を反映し、財務情報と一貫性を持つ必要があります。EUなどの一部の法域では、非財務報告書を財務と並行して作成し、取締役会レベルの承認を条件とすることが推進されており、これにより報告の質、一貫性、頻度を向上させる狙いがあります。さらに政策立案者の中には、報告をアクセス可能で機械が読み取り可能な形式で保存されるようにする手段を導入しているケースも散見されます。
投資家は、企業にとって財務的に何が重要とみなされるかを理解し、気候変動への対応が最も優れた企業を特定できる能力を持つことがかつてないほど重要になっています。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。