Read the English version published on April 16, 2025.
本稿はブルームバーグのポートフォリオ・分析リサーチ部門のJose MencheroおよびTizian Ottoが執筆しました。
米トランプ大統領は就任以来、貿易不均衡の是正、公平な貿易の実現、そして最終的には製造業の雇用を米国国内に取り戻すことを目標に掲げ、関税を世界経済の改革手段として活用する姿勢を示してきました。
米政府は2025年4月2日、新たな関税政策を発表し、この日を「米国の解放記念日」としました。政策の柱となるのは、(1)すべての輸入品に一律10%の基本税率を適用する「一律輸入関税」、および(2)相手国が米国製品に課す関税率に応じて調整される「相互関税」です。後者は90カ国からの輸入品が影響を受ける見込みです。
米国が発表したこの関税措置を受け、中国、カナダ、欧州連合(EU)、英国など主要貿易相手国はただちに報復を表明、これに敏感に反応した世界の金融市場では株価が暴落、ボラティリティーは急上昇し、世界的な金融危機への懸念が一気に広がりました。
そのわずか数日後、米国政府は金融市場の安定を図るため、一部の国に対する追加関税を90日間停止すると発表しました。この発表は欧州市場の取引終了後に行われましたが、米国株式市場は急騰し、世界金融危機以降で最大の上昇幅を記録しました。
本稿では、MAC3グローバル株式モデルとMAC3米国株式モデルを用いて、トランプ関税が株式市場に与える影響を分析します。特に、最も悪影響を受けたファクターと恩恵を享受したファクターを特定します。さらに、米国が突如として関税を90日間停止した際に生じた「ホイップソー」効果(相場の急激な反転)についても、ファクターリターンの観点から検証します。
リスクモデルの構成
以下の分析では、2種類のMAC3リスクモデルを使用します。一つ目はグローバル株式モデルで、1つの市場ファクター、14のスタイルファクター、56の業種ファクター、49の国ファクターで構成されています。二つ目は米国株式モデルで、1つの市場ファクター、14のスタイルファクター、39の業種ファクターで構成されています(国ファクターはありません)。
ファクターリターンの推定では、クロスセクショナル回帰分析を用いて複数の単一ファクターポートフォリオを構築します。単一ファクターポートフォリオとは、特定のファクターのみにエクスポージャーを持ち、それ以外のすべてのファクターに対するエクスポージャーはゼロとする構成です。市場ファクターポートフォリオについては、100%ネットロングとし、基本的には時価総額加重による市場ポートフォリオとします。その他の単一ファクターポートフォリオについては、すべてドルニュートラル(ロングポジションとショートポジションの金額が等しい状態)とします。スタイルファクターは、株式の特性(モメンタム、サイズなど)に関連する重要なリスク・リターン要因で、関連する単一ファクターポートフォリオは、対象とするスタイルにのみエクスポージャーを持ち、その他のスタイルセクター、業種ファクター、国ファクターのリターン寄与はすべてゼロとします。国の単一ファクターポートフォリオでは、対象国にのみエクスポージャーを持つポートフォリオをロングし、その国全体の市場ポートフォリオと同額をショートします。スタイルファクターや業種ファクターへのエクスポージャーはすべてゼロとします。言い換えれば、国の単一ファクターポートフォリオは、市場、スタイル、業種の要因を除いた、純粋な「国」ファクターのリターンを示すものです。同様に、業種の単一ファクターポートフォリオも、市場、スタイル、国の要因を排除し、純粋な「業種」ファクターのリターンを抽出するものです。
ファクターリターンの推移
まず、2025年4月2日から2025年4月8日までの5営業日間において、トランプ関税を受けて発生した株式市場の大暴落について、MAC3グローバル株式モデルの観点から分析します。ファクターリターンをZスコアに標準化するために、5営業日分の累積リターンを算出し、それを対応する1週間の予想ボラティリティーで除する手法を用います。

図1は、三つの各種ファクターグループ(市場+スタイルファクター、業種ファクター、国ファクター)で今回の分析期間におけるZスコアを示したものです。なお、ファクターの予想ボラティリティーについては、ファクター共分散行列の対角成分から取得しています。これらの対角成分の数値は、それぞれのファクターに対する予想ボラティリティーを示しており、単一ファクターポートフォリオのボラティリティー予測に必要な固有リスクの要素は含まれていません。対象ファクターのみにエクスポージャーを持ち、十分に分散された単一ファクターポートフォリオであれば、固有リスクのZスコアへの影響は限定的で、固有リスクの有無によって定性的な結果に大きな差異が生じることはないと考えられます。この棒グラフは、「米国の解放記念日」発表後の株式市場における反応を示しています。グローバル市場ファクター(GL Market)のZスコアは-6.17で、世界的に株式市場が大規模なネガティブリターンショックに見舞われたことを示しています。また、残差ボラティリティー(ResVol)やベータといった市場関連ファクターも大きく下落しました。市場急落局面においては高ベータ株や高ボラティリティー株がアンダーパフォームする傾向があることを踏まえると、こうした動きは妥当といえるでしょう。一方、プラス面に目を向けると、金融危機時に典型的に見られる「質への逃避」を反映し、利益ファクター(Profit)が大きくプラスに転じました。
業種別に見ると、最も打撃を受けたのは、家庭用電気機器セクター(ConsElec)、石油探査・生産セクター(Expl&Prod)、および電子部品セクター(ElecComp)でした。家庭用電気機器の製造は主に中国に集中していることから、関税に対する懸念が直接的な悪影響を及ぼしたと考えられ、深刻な下落となったのは当然の結果といえます。同様に、関税政策によって世界的な景気後退懸念が広がる中、エネルギー関連企業がアンダーパフォームしたことも、ある程度予想されていた動きといえるでしょう。一方で、パフォーマンスが比較的良好だったのは、生活必需品セクター(Retailstp)とヘルスケアセクター(HealthSrv)です。これらの業種は本質的に国内で調達されることが多いため、関税リスクが高まる中でもアウトパフォームする傾向があります。国別で興味深いのは、米国の国ファクターはZスコア-3.17と、最もパフォーマンスが低かったことです。
90日間の関税停止が発表されたのは欧州市場では2025年4月9日の取引終了後だったため、MAC3グローバル株式モデルの同日分のファクターリターンを用いて関税停止の影響を分析すると、実際の市場反応を十分に反映しきれない可能性があります。そのため、今回の分析では、MACグローバル株式モデルではなく、MAC3米国株式モデルを使って関税停止の発表による影響を分析します。この場合、2025年4月9日のファクターリターンを同日市場開始時点における1日予測ボラティリティーで割り、Zスコアに標準化します。図2では、スタイルファクターグループおよび業種ファクターグループにおける各ファクターのZスコアをチャートで示しています。

スタイルファクターでは、市場ファクター(Market)とベータファクター(Beta)のプラスリターンがひときわ際立っています。業種ファクターでは、銀行セクター(Banks)と特殊金融セクター(SpecFin)のパフォーマンスが最も低調、航空会社セクター(Airlines)と半導体セクター(Semicon)のパフォーマンスが最も好調であったことが分かります。
まとめ
先日の米国関税政策の方針転換によって世界的な貿易摩擦が再び表面化し、関税の影響による激震が国際金融市場を駆け巡りました。ブルームバーグのMAC3株式モデルによる詳細な分析が示す通り、「米国の解放記念日」以降の市場反応からは、地政学的な不確実性と、それに伴う貿易の混乱が投資家の信頼感にどれほど大きな影響を及ぼすかが明らかになっています。世界の株式市場が急落した後に見られた反発、さらにはスタイル別、業種別、国別で異なるリターンの動きからは、トランプ関税という国際貿易の新たな局面が極めて広い範囲にまで影響を及ぼすことが浮き彫りになっています。市場のボラティリティーが高まる中、こうした展開によって、世界経済が重要な転換点に差し掛かっていることが示唆され、また、強力なマルチファクターモデルの観点を通じて株式市場を分析することの重要性が高まっていることが明確に分かります。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。
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