EUタクソノミーの実践的な活用:データ&ユーザビリティー・リポート概要

Read the English version published on October 12, 2022.

この記事は、ブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューションズのビジネスマネジャーで、欧州委員会のサステナブル・ファイナンス・プラットフォーム委員でもあるNadia Humphreysが執筆しました。

サステナブルファイナンス規制が効果的かつ達成可能であるためには、実践的な利便性を備えていなければなりません。つまり、企業や銀行、投資会社がその意思決定と報告プロセスにおいて効率的に要件を満たすことができるような規制でなくてはいけません。その結果として、市場に透明性と信頼性の高いESGデータが浸透することになるのです。

欧州委員会サステナブル・ファイナンス・プラットフォームの「データおよびユーザビリティー」サブグループは先日発行のリポートで、EUタクソノミーの第1段階実施状況を振り返るとともに、ユーザビリティーを強化し、EUのESG規制の整合性を改善するための提言を行いました。このリポートにはプラットフォームのメンバーだけでなく、業界団体や市場参加者も含め、市場全体からの意見が幅広く反映されています。

同リポートによると、EUタクソノミーの履行状況は全体的に順調に進んでいます。非財務情報開示指令(NFRD)の対象となる1956社のうち、タクソノミー適格性に関連するデータを発表している企業は1053社で、タクソノミー適合性の報告はまだ義務付けられていないにもかかわらず、同適合性に関する現状報告を行った企業も534社ありました(適合性をゼロと報告した企業も含みます)。更にブルームバーグのデータは、サステナブル投資商品の需要が増え続けていることも示しています。特に、第8条と第9条に分類されるETF(上場投資信託)が活況を呈し、年初来欧州ETFファンドへの資金流入の60%近くを占めていることがそれを如実に物語っています。

しかしその一方で、企業や銀行、投資会社が克服しなくてはならないユーザビリティー上の問題がタクソノミーの実施を妨げ、更なるガイダンスが必要なことも示されています。同リポートではこうした課題を明らかにするとともに、タクソノミーのユーザビリティーを強化し、全体的なサステナブルファイナンスの枠組みの整合性を改善するための、的を絞った調整作業を行うことを提言しています。

特に以下の問題点がリポートで明示されています。

  • サステナブルファイナンス報告要件におけるさまざまな規制間で整合性がとれていないという問題があげられます。特に規制内容によって用語の意味が異なる場合が見受けられます(例:別の記事で説明した「do no significant harm(DNSH、著しい害を及ぼさない」の定義など)。
  • 報告体制のフレームワーク間における優先度の問題が投資会社の作業を複雑化していることも挙げられます。当然投資会社側としては、信頼できる報告書の提供と、サステナブルな内容のポートフォリオをアピールするために、投資先企業からの信頼できる情報にアクセスする必要があります。
  • 短期間で数多くの要件が義務付けられたことによる、規制対応作業の過負荷が、利点よりも問題を多くもたらしたと見る向きもあります。
  • 解釈上の問題も指摘されています。いつまでにどのように何を報告したらよいのかを全員が明確に理解しているわけではありません。

最後の重要な点となりますが、このリポートでは、タクソノミーの国際的な適用に関するガイダンスを提供しています。EU内でファンドのマーケティングを行う投資会社も規制に準拠する必要があるためです。

このプラットフォームでは、EUタクソノミーと他地域のタクソノミーとの間の共通点と相違点の理解をさらに深め、等価表の開発などを通じて相互運用方法を模索することを提言しています。世界でタクソノミーを開発する国が増えるに従い、異なる制度間で解釈の違いによって効果が失われることのないよう共通の定義や枠組みを確立しておくことが重要となります。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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