マシンがニュースを読んで利益を生み出す

本稿は、Cuemacro創立者であるSaeed Amenが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

多くのトレーダーのデスクにはブルームバーグ ターミナルが置かれています。幾つものスクリーンに市場のチャートやニュースが表示され、トレーダーはそれらを終日チェックしています。スクリーン上で配信される情報を意思決定材料の1つとしているのです。トレーダーの意思決定において間違いなく重要な情報は価格ですが、市場センチメントもまた重要です。

その市場センチメントに大きな影響を及ぼすのがニュースです。株価に影響を与える企業固有のニュースもあれば、FRB声明文のように市場に広範な影響を及ぼすマクロ的なニュースもあります。また、米大統領選挙や英国のEU離脱に関するニュースで市場が大きく揺れ動いたことからも分かる通り、政治に関するニュースもここ数年で大きな影響力を持つようになりました。市場に影響を与えたニュースの例は枚挙にいとまがありません。ニュースに目を向けなければ、市場を動かす重要な要因を見逃すことにもなりかねないのです。

ニュースが市場を動かすという考えは特に目新しいものではなく、何世紀もの間、市場で起きていることです。しかし、日々流れるニュースの量はこれまでになく膨大になっており、毎日流れるニュースのヘッドラインを一人の人間が全て読むことはもはや不可能です。この問題に対する1つの答えが、コンピューターに全てのニュースをそのまま読み込ませ、センチメントを示すシグナルに変換することです。

ブルームバーグは自然言語処理済みのニュースのデータセットを複数作成しており、ニュースが発信されるとともにAPIに読み込ませたり、1日分をまとめたフラットファイルを読み込ませたりすることができます。各ニュースは機械が処理可能なフォーマットで作成され、各記事に記録が付されます。また、ヘッドラインと本文の他にメタデータが添付され、そこには様々なタイムスタンプに加えて、ブルームバーグ ターミナルで使われているのと同じトピックタグやティッカータグが含まれています。このメタデータを使って、トレーダーは自分が見たいトピックのニュースを容易に検索することができます。

ではどのようにしてニュースを実際の取引に役立てるのでしょう。この件に関して私は最近リサーチレポートを書きました。目的は、ブルームバーグニュースに流れる記事を自然言語処理済みのデータセットに変換し、それを使って外国為替(FX)システムトレード戦略を策定することでした。

ブルームバーグの自然言語処理済のニュースデータを使ったFX取引
リサーチレポートはこちら

まず、通貨ティッカーのタグが付いたニュースを調べました。次に、ニュース本文に自然言語処理を適用してセンチメントスコアを数値化し、それを集計して各通貨の日次インデックスを作成しました。さらに、この日次インデックスから各通貨ペアのセンチメントの指標を作成しました。

取引ルールについては、長期センチメントから極端な値動きを消去するなどいろいろなルールを採り入れることももちろん可能ですが、今回は、ある通貨ペアについて短期センチメントが強い時には買い、弱い時には売るという比較的シンプルなものとしました。そして最後に、リターンの分散化を目的として全ての通貨ペアを1つのバスケットに集約しました。

このニュースベース・バスケットの2010年から2017年までのリスク調整後リターンは約0.6となり、同期間の一般的なFXトレンドフォロー戦略のリターンを十分にアウトパフォームしました。ここで重要なのは、一般的なFX取引手法であるトレンドフォロー戦略とニュースベース戦略の相関性がとても低かったことです。これは、トレンドベースFX取引戦略を用いる投資家がニュースベース戦略を導入することによりリターンの分散が可能になることを意味しています。

ニュースは価格の変化方向を示すのみならず、ボラティリティ予想の改善にも役立つ可能性があります。私はレポートの中でニュースの量とFX市場のボラティリティの関係についても調べました。その結果、ニュース量とボラティリティの間には統計的に有意な関連があることが分かりました。ニュース量が増加すればボラティリティも増加し、ニュース量が減少すればボラティリティも減少します。この関係は直感的にも理にかなっています。また、米連邦公開市場委員会(FOMC)と欧州中央銀行(ECB)理事会という2つのイベントに関する調査も行いました。その結果、政策金利を決定するこれらの会合に関するニュースと市場のボラティリティの間にも合理的な相関が認められました。

私のレポートの対象は、自然言語処理済みのニュースをシステムトレード戦略の情報として使うことに限定したものでした。しかし、自然言語処理済みのニュースは売買一任勘定取引を執行するトレーダーにも役立つと思われます。ニュースベースセンチメント指標を彼らの意思決定プロセスにおいて、ひとつのインプットとして使用できるのです。

自然言語処理済みのニュースを使用するトレーダーの数は増えています。あと数年もすれば投資プロセスの一環として自然言語処理済みのニュースを使用することの価値を理解する市場参加者が増加し、この方法はより市場に定着することでしょう。

Saeed AmenはCuemacroの創立者で、過去10年間はリーマンブラザーズや野村證券などの大手投資銀行でシステムトレード戦略の開発に従事。個人としては、流動性が高い先進10か国通貨の自己勘定システムトレードを2013年以降行っています。著書に『Trading Thalesians: What the ancient world can teach us about trading today』 (Palgrave Macmillan) があります。Cuemacroではシステムトレード分野の顧客を対象としたコンサルティングとリサーチレポートの執筆を行い、大手クオンツファンドやデータ解析会社(RavenPack、TIM Groupなど)を顧客に持っています。また、Thalesiansの共同創立者でもあります。