LIBOR廃止に向けて準備を進めるウォールストリート

本稿はLananh NguyenおよびAlexandra Harrisが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

Read the English version published on September 02, 2019.

世界の規制当局が、LIBORは終わりの時を迎えつつあると警告を発しています。銀行がそれを止めることはできません。

銀行に残された選択肢は終わりの時に備えることのみです。

ここでJason Granet氏の登場です。Granet氏は、昨年までゴールドマン・サックス・グループの資産運用部門に勤務していました。しかし今では、世界で最も重要な指標金利が終わりを迎える運命の日―まだ2年以上先ですが―に備えることを目的として社員と弁護士から構成されるゴールドマン・サックス・グループLIBOR移行準備グループのリーダーとして、連日仕事に追われています。

ウォール街の大手銀行をはじめとして、保険会社、資産運用会社、弁護士事務所、コンサルティング会社などは、来るべきLIBOR終焉に備え全世界の従業員を動員して準備に当たっています。LIBORは、さまざまな通貨の計350兆ドル以上のモーゲージ、ローン、デリバティブに参照され、金融市場で重要な役割を果たしています。このことは、LIBORを参照する商品は金融市場の多岐に亘ることを意味します。Granet氏の目的は明確です。現代金融の歴史の中で最も重要かつ複雑な移行作業の1つと言われるLIBOR移行を、ゴールドマン・サックスにおいて支障なく完了させることです。

「私の仕事は180度変わってしまいました。今の仕事は国際的で複雑な知的チャレンジです」とGranet氏は言います。20年近いゴールドマン・サックスでのキャリアの大半をマネーマーケットファンド部門で過ごしてきたGranet氏は、現在、トレジャラーであるBeth Hammack氏に直接レポートする立場となっています。

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過去数十年にわたり、LIBOR―ロンドン銀行間取引金利―は、世界中の変動金利債務のコストを確定させる便利な手段として利用されてきました。15行を超える大手銀行が提示する無担保銀行間借入金利を毎日調査して算出されています。

しかし、レート推定のベースとなる実取引が枯渇した上に、不正操作がまん延していたことが金融危機後に発覚したため、英当局は2021年末以降銀行に対してレート提示を強制しないと2年前に公表、LIBORの廃止を示唆しました。

この決定により、世界の規制当局はそれぞれ独自の代替金利の検討を急ぎ、金融機関はグローバルマーケットに完全に組み込まれたLIBORからの脱却方法の検討を余儀なくされました。

ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴなどが2019年6月に会議を開催し、LIBORからの移行体制を構築するための監視委員会および共同運営グループの設立、LIBOR移行担当者の採用などについて話し合いました。オリバー・ワイマン、アクセンチュアなどのコンサルティング会社は、移行を最適に管理する方法について顧客に助言を行っています。また、キャドワラダー・ウィッカーシャム・アンド・タフトなどの法律事務所は、LIBORを参照するクレジット契約のフォールバック条項を検討しています。

ウェルズ・ファーゴのBrian Grabenstein氏は、昨年同行のLIBOR移行室のヘッドに就任しました。そこですぐに気付いたことはスタッフの不足でした。現在は、10人余りのチームを率いて消費者金融部門やウェルスマネジメント部門などとの会合を調整したり、法律文書やコミュニケーションなど移行に伴う各種課題をそれぞれ検討する委員会の運営を行ったりしています。

Grabenstein氏の試算によれば、ウェルズ・ファーゴでは移行作業のために過去1カ月間に200人の人間が少なくとも10時間費やしています。

「少し前までは、移行問題を真剣に捉える人は多くありませんでした。しかし私は、これは1人の人間でこなすことができる仕事ではないとすぐに気付きました。実際には、多くの人間がフルタイムで取り組むべき仕事であったのです」とGrabenstein氏は述べています。

移行チームのコミュニケーション戦略を担当するReadie Callahan氏と共に、Grabenstein氏はここ数カ月間全米各地を訪ね、1カ所で50人ほどの法人顧客を前に移行について説明を重ねてきました。ウェルズ・ファーゴは現在も、金利変動型の住宅ローンなどが移行の影響を受ける個人顧客に情報を提供する戦略を継続しています。

「やるべきことが数多くあるということに対する理解がやっと深まってきました」とGrabenstein氏は言います。

影響を受けるのは銀行だけではない

LIBOR廃止の影響を受けるのは銀行だけではありません。米国最大の生命保険会社であるメットライフは、5870億ドルの投資ポートフォリオがLIBOR廃止の影響を受けます。同社は、デリバティブおよび高流動性市場のグローバルヘッドであるJason Manske氏を移行の責任者に任命しました。

同社は、ニューヨーク連邦準備銀行がLIBORに代わる新たなベンチマークとして開発した担保付翌日物調達金利(SOFR)を、自社の債券発行に早期に導入しました。ブルームバーグがまとめたデータによると、メットライフは2018年に入ってから公表が開始されたSOFRにリンクした債券25億ドルを発行しました。

それでもなお、代替指標を参照する商品の広がりが市場全体として進んでいないことから、今後数年間の金融の安定性を脅かす潜在的リスクについて、業界内で懸念が高まっています。今回の指標改革について、2008年の金融危機後に制定されたドッド・フランク法による金融改革に匹敵するという人もいれば、ウォールストリート各社の業務運営上大問題とされた2000年問題(実際には大きな問題は生じませんでしたが)になぞらえる人もいます。

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SOFR(「ソファー」と発音)への円滑な移行のためにニューヨーク連銀が設置した代替参照金利委員会のメンバーであるManske氏は、移行が金融市場に与える影響を20年前のユーロ導入と比較しています。

「ユーロが関わっていたのはスポット市場、先物市場、オプション市場だけでした。これに対して今回のベンチマーク移行はクロスボーダーであることに加えて、担保の有無、クレジットスプレッドの有無など、現物市場とデリバティブ市場の双方において多くの課題があります。移行問題が、市場がこれまで経験したことがないほどの複雑性を備えていることは明らかです」とManske氏は言います。

ジグソーパズルが好きなゴールドマン・サックスのGranet氏にとって、今回の移行は今までで最も難しいパズルの1つとなりました。4人から成るチームおよび専任の弁護士グループと共に、Granet氏は、来るべきLIBOR移行に備えたポートフォリオエクスポージャーの確認、契約修正、取引システムの改修などにここ数カ月間集中してきました。

移行作業の規模についてGranet氏は「文字通り、会社のあらゆる部署が関わっています。一歩引いて大局的に考えてみると、現在行っているグローバルファイナンス業務の多くについて、その大本を変えていく作業なのです」と述べています。