LIBOR廃止が迫る中、銀行は対応に苦慮

Read the English version published on August 27, 2020.

本稿は、ブルームバーグ インテリジェンスのシニアアナリストであるSarah Jane Mahmudが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

2021年末に廃止が予定されるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を参照する金融契約は、まだ1億件以上残存しています。銀行は、関連する規制リスクに対応するためのオペレーション強化に多額の投資が必要であり、それを惜しめばリーガルリスクが高まります。大規模な契約の修正や、信用リスク調整のためのスプレッド計算には時間がかかりますが、廃止の時は刻一刻と近づきつつあります。

契約修正はオペレーション上の悪夢

銀行がLIBORエクスポージャーを数値化するためにはデータ管理テクノロジーに多額の投資が必要であり、さらなるコスト増加要因となっています。今後銀行が克服すべき課題は非常に多く、まず何千もの契約の中から必要なデータを特定して抽出、分類した上で、適切な代替レートを用いて契約を修正するか、あるいは契約の再交渉が必要となります。経営コンサルティング会社のOliver Wymanによれば、世界の大手銀行14行が支出する移行コストの総額は12億ドルを超える可能性があり、その多くが契約修正にかかるコストです。

例えばドイツ銀行は、LIBOR廃止とリスクフリーレート(RFR)への移行については不透明な部分が多く、業務や収益性に悪影響を及ぼす可能性があると決算発表の電話会議で明らかにしています。

2022年以降に満期を迎えるドルLIBOR参照契約(債務の種類別)

フォールバック条項はパンドラの箱

LIBORからの移行に関して、フォールバック条項(LIBORが有効性を失った場合に代替指標への移行を規定する契約条項)についてはメリットよりデメリットの方が大きいと見ています。フォールバック条項が想定しているのはLIBORが一時的に利用できなくなる状態であり、恒久的な廃止ではないためです。このフォールバック条項により想定外の事態が生じて金融商品が劇的に変わってしまい(例えば変動利付から固定利付への変更)、その結果として訴訟リスクが高まる可能性があります。さらにFactor Lawによれば、フォールバック条項が全くないため実務的なソリューションは再交渉しか残されていないと考えられる金融契約がおよそ4,000万件あります。しかし、残された時間は多くありません。

国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)が公表したデリバティブ契約用の標準フォールバック条項(ほとんどの金利スワップおよびオプションをカバー)は、銀行に確実性をもたらす前向きな一歩であると見ています。

担保付翌日物調達金利(SOFR)スワップカーブ

流動性不足がスプレッド調整の阻害要因

LIBORと同じ性質を有する代替指標は存在しません。このため銀行はLIBORと新代替指標間の信用リスクおよびターム構造の違いを調整して、価値の移転を回避しリーガルリスクを最小限にとどめる必要があります。しかしそのためには代替指標市場の取引が厚く流動性が高いことが必要で、流動性が低い場合にはバリュエーションに乖離が生じる可能性があります。時間が経過して、代替指標である翌日物リスクフリーレートを使用する市場参加者が増えれば流動性が深まり、スプレッドが市場取引の実勢をより反映するようになるでしょう。しかし、LIBOR廃止の期限は刻一刻と迫っています。

ドルLIBORの代替指標として推奨される担保付翌日物調達金利(SOFR)にリンクしたデットを最初に発行したのはクレディ・スイスでした。2020年には595本のSOFRリンク債が発行されました。バークレイズ、J.P.モルガン、ウェルズ・ファーゴ、シティグループ、バンク・オブ・アメリカがブルームバーグ幹事リーグテーブルの上位を占め、そのシェアは合計で60%でした。

ブルームバーグのインデックス複利カリキュレーター

LIBORからRFRへの移行は簡単ではない

SOFR、SONIA(ポンド翌日物平均金利)、ESTR(ユーロ短期金利)などのRFRはLIBORと構造的に異なることが移行を複雑なものにしています。LIBORは前決めであり、5通貨で7種の期間があり、金利期間のスタート時に支払金利が確定します。これとは対照的にRFRはオーバーナイト金利であり、翌日に公表されます。このため、例えば3カ月物の金利をLIBORと同じ方法では算出できません。さらにLIBORは銀行の借り入れレートの平均値であるため銀行の信用リスクが反映されています。RFRには信用リスクは含まれていません。

ESTRは2019年第4四半期から公表されています。ブルームバーグのデータによれば、これまでに5本のESTRリンク債が発行され、10万6023本のESTRリンクローンが組成されました。ウニクレディト、RBC、BNP、クレディ・アグリコルが、ブルームバーグの幹事リーグテーブルにおいて合計で85%のシェアを占めています。

ブルームバーグSOFRリーグテーブル

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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