Know your funds:成長を加速させるためのデータ・リスク戦略

Read the English version published on November 5, 2020.

本稿は、ブルームバーグ エンタープライズ レファレンス データのコンテンツ(エンタープライズ)グローバルヘッドであるBradley Foster、規制プロダクトのEMEA & AsiaヘッドであるMurat Bozdemir、規制スペシャリストであるJason Palsgrove、ファンドポートフォリオホールディングスのプロダクトマネジャーであるWendy Huangが執筆しました。

分散投資および魅力的なリターンを求める投資家需要を背景として、投資信託および上場投資信託(ETF)の成長が加速し続けています。その成長率は以下の通りです。

  • 2020年第3四半期、ETFへの純資金流入額は全世界で1927億8000万ドルに上りました。この結果、年初からの純資金流入額は5174億1000万ドルとなり、3年間の増加額は1兆6900億ドルを超えました。
  • 過去3年間の株式ETFへの純資金流入額は1%増の9436億5000万ドル、債券ETFへの純資金流入額は41.8%増の6246億1000万ドルでした。
  • 成長を主導したのは米株式・債券を投資対象とするETFで23%増の約1兆ドルの純資金流入がありましたが、同期間にさらに力強い成長を見せたのは米国以外の地域を投資対象とするETFでした。特にラテンアメリカおよび中東を投資対象とするETFは、それぞれ53%および111%の伸びを見せました。

このようにセルサイド、バイサイド双方の金融機関がファンドへのエクスポージャーを増加させています。しかしそうした金融機関は、ますます厳格化するリスク・規制要件に対応する際に、ファンドに関連したデータやテクノロジーに関する課題に直面しています。本稿では、そうした課題についてご説明します。

金融危機に端を発する自己資本規制改革の総仕上げと銀行が有するファンドエクスポージャーへの影響

過去10年間に、自己資本規制などに関する広範な規制改革が進められました。トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)や銀行勘定の信用リスク規制強化などは最終段階にあり、適用期限は数年後に迫っています。これらはいずれも、金融機関のバランスシートを簡素化し自己資本水準を引き上げることにより、市場の急落や市場へのショックに対する強靱性を強化することを目的としています。また、透明性が低い金融資産に対しては、より厳格な自己資本および流動性規制が適用されます。

そうした中、2019年にバーゼル銀行監督委員会(BCBS)が公表した最終的なマーケットリスク基準において、投資信託およびETFポジションのトレーディング勘定への計上が認められたことは、銀行にとって安堵の種でした。新規制は、ファンドのマーケットリスクをルックスルーアプローチ(ファンドが保有する個々の銘柄ポジションを計測するアプローチ)により計測するために必要なデータを定期的に整備することを求めています。このアプローチは、最低所要自己資本が最も少なくて済み収益性と自己資本利益率(ROE)の改善につながることから、金融機関にとって望ましいアプローチでした。また、ファンドの保有銘柄に関するデータがない場合でも、毎日の株価およびファンドに関する所定の情報があれば代替のアプローチが用意されています(ただし、所要自己資本額は増加します)。

ここで重要なポイントは、正確かつタイムリーな価格データやレファレンスデータ、ファンドの保有銘柄に関するデータがなければ、資本集約的なトレーディングビジネスのROE低下につながるという点です。ただ単にファンドを銀行勘定に移し資本集約度を下げるだけでは問題の解決にはなりません。銀行勘定のファンドに対する自己資本規制にも同様の原則が適用されるため、正確なデータが十分に用意できなければ、同等に厳しい基準が適用されます。

規制要件の遵守は、フロントからバックまでをカバーするリスク管理業務フロー構築の出発点に過ぎません。リスクポジション、リスクの上限、最低所要自己資本を常にモニタリングし、戦略やリスク選好度と整合性を取る必要があります。これに関連した最近の事例としては、新型コロナウイルスがもたらした経済的損失により増幅された集中リスクの計測があります。集中リスクの計測は、保有するエクスポージャーを個々の借り手、セクター、国のレベルで集計することにより初めて可能となります。これは決して単純な作業ではありません。ブルームバーグのコーポレート・ストラクチャーデータには、ファンドが保有する個別銘柄のデータが500万社以上マッピングされています。

保険会社はソルベンシーII対応に必要なデータを整備

保険会社にとってファンドの取り扱いは、リスク管理面および規制面で以前からの課題でした。2016年から適用されているソルベンシーII資本要件(SCR)はルックスルーベースでの算出を求めています。すなわち、資産を直接保有しているか間接的に保有しているかにかかわらず、ファンドが保有する個々の資産を経済価値ベースで評価することが必要となります。ルックスルーアプローチが適用できない場合には、所要自己資本額が上乗せされます。

実は、このソルベンシー規制にはもう1つの側面があります。運用会社が運用するファンドは分散が効きリスクリターンも最適化されています。しかし保険会社は、自社が投資するファンドの保有銘柄をすべて把握しなければ銘柄の重複を確認できないのです。すなわち、特定の銘柄、セクター、国に対するエクスポージャーが過大になっていないかどうかを確認するためには、ファンドの中身を知ることが不可欠となります。

投資家保護や運用会社向けの新たな流動性ストレステストに必要なファンドデータ

投資家保護および行為要件を定める規制の強化により、ファンドに関する詳細なデータが必要になりました。2018年に施行されたパッケージ型リテール投資商品および保険ベース投資商品(PRIIPs)規則は、PRIIPsの組成者である運用会社に対して、個人投資家への販売開始以前に重要情報書類(KID)を作成するよう義務付けています。多くのファンドが他のファンドへのエクスポージャーを有しているため、投資向けKIDの作成には他のファンドの詳細情報をタイムリーに入手することが不可欠となります。さらに、それらのファンドがパッケージされた商品を販売する保険会社にとっても、KIDの情報が不可欠となります。

ファンドの開示を促すもう1つの要因は2020年9月から適用が開始された流動性ストレステストに関する欧州証券市場監督局(ESMA)の新ガイドラインで、運用会社に対して管理する資産および負債のストレステストを実施するよう求めています。これも、運用会社が保有する他社のファンドに関するデータを必要とする一因となりました。

投資家に対する詳細なファンドデータの開示

国・地域により規制の枠組みが異なることが均一な分析の妨げとなり、それによって特定の市場が不利となることがあります。現在、より整備されたファンド市場を有する英国およびルクセンブルグにおいてさえ、ファンドの保有資産に関する情報のうち公開情報として入手可能なものは3割を切っています。欧州では、譲渡可能証券への集合投資事業(UCITS)に関するEU指令を遵守するファンドは、その運用方針およびリスク戦略を目論見書ならびに年次および半年ごとのアニュアルレポートで開示することが義務付けられていますが、保有資産に関する定期的な開示を厳格に求める規則は存在していません。米国においては1934年証券取引所法により、米国株に1億ドル以上投資する機関投資家は、公衆および投資家の利益のために四半期ごとにForm 13Fを証券取引委員会(SEC)に提出し、保有資産を開示することが義務付けられています。

欧州では、ファンド業界が開示およびファンド分類基準を標準化し、透明性の向上を図っています。オープンファンド(openfunds)のような試みは、運用会社に対して開示標準化の枠組みを提供し、透明性を向上させることを目的としています。また保険会社によるPRIIPs KIDのデータは、標準化されたEPTテンプレート(European PRIIPs Template)を用いて配信されます。さらに、英国投資協会(IA)および欧州投資信託協会(EFAMA)はファンドセクターの分類基準を公表し、投資家がファンドを比較する際の便宜を図っています。米国では最近SECが1940年投資会社法に基づいて登録されたファンドに対して、Form N-Qに代わるForm N-PORTにより、ファンドのポートフォリオ保有銘柄に関するより詳細かつ頻度の高い報告を義務付けました。

ファンドデータの利用価値は規制遵守だけではない

リターンと分散を実現する投資ビークルとしてのファンドの重要性が増す中で、ファンドに関する高品質のデータは単に規制が求める報告要件を満たすための追加コスト以上の意味を持ち始めており、ビジネスあるいはリスク管理などで有効に活用することができます。

例えば銀行は所要資本額を削減することができます。保険会社は投資するファンドのパフォーマンスをより明確に把握し、データに基づいた資金配分と運用会社の選択を行うことができます。運用会社、銀行、第三者管理機関、アセットオーナーにとっても、タイムリーかつ詳細なファンド情報(運用方針、パフォーマンス、ルックスルー・データなど)にはさまざまな用途があります。

今日の金融機関は、従来のアプローチでは解決できない課題に対処する必要があります。ファンドのデータに関する課題についても、プロセス、データ、リスクシステムを統合する世界クラスのソリューションを目指して戦略的に対応しなければなりません。ブルームバーグのファンド保有データは、さまざまなソース(公開情報、運用会社、カストディアン、ファンド管理会社など)を情報源とし、投資信託およびETFをグローバルにカバーしています。また、ブルームバーグの強力なグローバルネットワークを活用したデータの一貫性および時系列性、ならびにユニバーサル識別子によるシームレスな相互運用性を確保しているため、トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)、PRIIPs、ソルベンシーIIなどの規制対応ソリューションとしても活用いただけます。

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