⽔素供給計画、⽇本政府は⼤幅な⽔素導⼊増を⽬指す

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のシニア・アナリスト北浦岳志およびアソシエイト・アナリスト本間靖健が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。(03/02/21)

⽔素供給網構築が⽇本重⼯業セクターの未来を築く

政府の脱炭素に向けた本格推進により、⽇本では⽔素の潜在需要が呼び起こされる可能性が⾼まりつつあります。発電をはじめ⽔素の⽤途は幅広く、その供給網構築の事業性も⾼まっていると⾔えるでしょう。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)では、⽔素の輸送・貯蔵といった⽔素社会実現に向けた供給網構築やコスト削減への取り組みの中で、川崎重⼯業、三菱重⼯業、東芝、IHIなど、⽇本重⼯業セクター企業の活躍の場は⼤きいとみています。

2050年までに2000万トン

政府は脱炭素に向け、⽇本の発電の1割を⽔素、アンモニア由来にすることを⽬指してます。BIではこの取り組みにより創出される需要は⽔素換算で約600万トン程度では試算しており、政府も500万−1000万トンほどのレンジ予測を⽰しています。⽕⼒発電所1基での年間⽔素換算使⽤量は燃料電池⾞226万台分との試算もあり(経済産業省)、2050年の⽔素導⼊を2000万トンとする政府⽬標の⼤きな部分は、発電関連と想定されます。それ以外では産業⽤途が多いとみられ、⾃動⾞、製鉄、建設機械など、幅広い⽤途が検討されていると思われます。

BIによる⽔素需要シナリオ分析

BIによる⽔素需要シナリオ分析

Source: Ministry of Economy, Trade and Industry, Iwatani

輸送、貯蔵等で2040年の事業売上⾼3000億円を⽬指す: 川崎重⼯

川崎重⼯は⽇本における⽔素の安定供給を⽬指し、産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトの⼀環として豪州から褐炭由来の⽔素の海上輸送と国内での貯蔵の実証実験を⾏っています。褐炭は通常の⼯業⽤⽯炭と⽐較して⽔分や不純物を多く含むことから⼯業利⽤が難しいのですが、低価格のため⽔素抽出には適しており、⽔素価格の低減につながるとして⾼い期待が持たれています。実際、同プロジェクトにてノルマルリューベ(Nm3、1キログラム=11.12Nm3)当たり100円の既存⽔素ステーション価格から、数量増に伴って2030年に同30円、最終的にはLNG並みの同12円を⽬指しています(出所:経産省資源エネルギー庁)。⽔素は液化による輸送の際−253℃での貯蔵が必要であり温度管理が難しいのですが、川崎重⼯は1カ⽉で1℃の温度変化に抑えるタンク技術を有し、⽔素運搬船や⽔素を動⼒とした船の開発も進めています。

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川崎重⼯は⽔素関連事業の売上⾼について2030年までに1200億円、2040年までに3000億円とみており、今後同社の主⼒事業となる可能性があります。20年3⽉期の総売上⾼に対する⽐率では2030年に7%、2040年には18%に拡⼤することとなるが、⾜元での政府の積極的な⽔素活⽤に鑑みれば、⽬標がより早い段階で達成され、最終的な売り上げ⽔準もさらに⾼まる可能性も秘めているでしょう。20年3⽉期までの全社5年平均営業利益率4%に基づけば、2040年売上⾼⽬標である3000億円に対する利益⽔準は、20年3期までの5年平均営業利益を2割程度上回ることになります。また、同社のロケット向け⽔素燃料貯蔵技術は、⽔素時代において新たな事業機会をもたらしています。

川崎重⼯⽔素関連事業売上⽬標

川崎重⼯⽔素関連事業売上⽬標

Source: Kawasaki Heavy

包括的な⽔素技術で盤⽯な体制: 三菱重⼯

三菱重⼯は多くの⽔素関連技術を有しており、⽔素サプライチェーンにおいては、⽔素製造、⼆酸化炭素回収、アンモニア輸送など、⽔素供給の様々な形態において柔軟に対応できる⽴ち位置にあります。特に⽔素の輸送⽅法としてのアンモニア活⽤では、既存の天然ガス船を活⽤することができます。そのため国としては、液体⽔素を推進する川崎重⼯とは違った⽔素供給という、幅を持たせることができるメリットがあるでしょう。また同社は昨年、プラズマ熱分解によりメタンから⽔素と固体炭素を取り出す技術を有する⽶モリノス、ならびに⽔素製造装置を⼿掛けるノルウェーのハイドロジェンプロに出資をしており、提携も積極的に進めています。さらに、⽔素活⽤においては発電、燃料電池、⽔素エンジン、製鉄分野など幅広い技術を有し、⽔素社会が実現した際の事業機会は⼤きいと⾔えるでしょう。2030年には⽔素や⼆酸化炭素(CO2)関連といったエネルギー転換に寄与する製品群で3000億円の事業規模を⽬指しており、21年度からの中期計画ではこれらの分野に900億円を投じるとしています。

再⽣エネルギーから⽔素製造を福島で: 東芝

東芝は、東北電⼒と岩⾕産業と共同で、太陽光から⽔素を製造する施設を20年2⽉に福島で稼働させました。⽣産能⼒は毎時1200NM3(定格運転時)で、当時、世界最⼤級と発表しています。需要予測に対応して⽔素製造量が変動する仕組みです。再⽣エネルギーは発電量が天候に影響されることや電⼒が貯蔵できないことから需給バランスがとりにくいため蓄電池を活⽤する場合がありますが、蓄電池は⻑期の電⼒蓄電には向いていない側⾯もあります。⽔素は効率こそ落ちるものの、電⼒の蓄電に加え輸送媒体としても活⽤余地があり、その点で電⼒を含めたエネルギー需要に⾒合った供給を実現できる可能性があります。東芝は、⽶ゼネラル・エレクトリック(GE)と洋上⾵⼒のコア部品製造を検討することも報じられており(⽇本経済新聞)、太陽光に加え、洋上⾵⼒による発電エネルギーを活⽤した⽔素製造の可能性も期待されるとして、BIでは注⽬しています。

⽔素戦略は⼤量供給と地産地消の両⾯から: IHI

IHIの⽔素戦略はアンモニア輸送等による⽇本への⼤規模⽔素供給と、より地域ニーズに密着した地産地消の再⽣エネルギー活⽤システムの両⾯から対応している印象です。アンモニアにおいてはNEDOのプロジェクトにて、⽕⼒発電におけるアンモニア混焼でのCO2削減について研究を実施しており、微粉炭焚ボイラーとガスタービンにおけるアンモニア混焼の開発が進められています。アンモニア活⽤は⽯炭⽕⼒においてもCO2削減につながる期待があることや、カーボンキャプチャーなどの技術との組み合わせによってグリーンエネルギーに近づけられるため、既存設備の活⽤という点では有⽤なオプションとなり得るでしょう。ただアンモニアの直接燃焼では、CO2は排出されないものの窒素酸化物(NOx)の排出があり、この削減が併せて検討される必要があります。地産地消を⽬指した⽔素活⽤においては福島県相⾺市にて、太陽光発電の活⽤とその余剰電⼒の蓄電、⽔素製造による地域でのCO2削減プロジェクトがすでに⽴ち上がっています。また海外では豪州クイーンズランドにて、豪CSエネルギーと共同で類似した⽔素製造システムの実⾏可能性調査を⾏う計画です。

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