日本企業のサステナビリティー開示、人的資本投資で無形資産を強化

本稿はブルームバーグ・インテリジェンスのESG担当アナリスト本間 靖健および工業セクターアナリスト北浦 岳志が執筆し、ブルームバーグ・ターミナルに掲載されたものです。

現状と課題:賃金等における男女格差の改善

将来の目標に関する説明を含めた人的資本の開示は、賃金等の男女格差を改善し、ひいては収益にもつながる可能性を秘めていよう。日経平均株価の構成銘柄のうち開示のあった178社について集計し、女性管理職比率と賃金の男女差異の関係に焦点を当てて分析を行ったところ、特に女性取締役比率の低い会社では、女性管理職比率が高いほど男女間賃金格差が広がっている可能性が示唆された。

開示の中で男女間の賃金格差が存在することが示された会社のほとんどが、同じ役職においては男女賃金格差はないと表明している。そのためこの分析結果は、管理職の中でも女性が男性と比較して低い役職についていることが賃金格差の一因となっている可能性があり、女性取締役を含む役員が賃金格差是正に向けた対策を強める必要があることを示唆していよう。

また、男性の育児休暇取得の促進や、従業員エンゲージメントの向上を含めた人的資本に関する取り組みは相互に作用し、間接的にも男女間格差の改善に寄与すると考えられる。男女間格差の改善は優秀な人材の確保につながり、長期的な収益の向上にも貢献することとなろう。

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今後の見通し:新開示指標への取り組みに対する株主の賛同

規制当局の意図するところは、情報開示による賃金の男女差異を含めた人的資本に関する数値、ならびに改善策に基づく企業価値の向上である。開示企業には今後、決算や中期経営計画等の各種説明会や投資家エンゲージメントにおいて、数値改善によって導かれる成長ストーリーが求められることになろう。

例えば、男性の育児休暇取得率の目標を100%と定めているIHIは、社内のフラット化や多様性の改革、リモートワークの導入、社員の評価方法等の改革を進めることがビジネスの拡大に役立っていると、統合報告書で説明している。

直近開催された株主総会では、女性取締役であり、かつスキル・マトリックスにおいて人事、人材育成にチェックが入っている松田千恵子氏が、12人のうち最も高い賛成率で取締役に選任された。IHIが人的資本投資を行い成長につなげることを、株主も期待していることが示されたと言えよう。

論点:無形資産による日本企業の企業価値向上

金融庁や経産省が人的資本開示を推進するきっかけとなった「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書」(人材版伊藤レポート)では、日本企業の企業価値が米国と比較して低い理由の一つとして、人的資本を含めた無形資産への投資が少ないことを挙げている。

2000年年初を100とすると、23年6月末時点でTOPIX(東証株価指数)が133であるのに対し、米国S&P総合500種指数は303と、大きく水をあけられている。

また、TOPIX構成銘柄の直近決算期における有形・無形資産合計に対する無形資産の割合は平均わずか4%だが、S&P500指数の平均は27%だ。IT企業の発展や、会計基準、M&A(合併と買収)規模といった違いはあるものの、米国は建物や機械等の有形資産ではなく、特許やソフトウエア、のれん等、従業員の活躍によって高い企業価値が支えられているとみることができよう。

規制当局は、男女賃金格差、男性の育児休暇取得率、従業員エンゲージメントなど人的資本に関する数値と改善策を開示させることで、利益を創出する無形資産を増やし、企業価値向上につながることを期待しているようだ。

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