新型コロナウイルスの影響、軽微でもマイナス成長

本稿はブルーバーグエコノミストの増島雄樹によって執筆され、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

現在、日本経済はあらゆる方面から逆風を受けている。2020年第1四半期のテクニカル・リセッショ ン(2四半期連続のマイナス成長)はほぼ確実視されているが、通期においても、最も楽観的なシナリオですらマイナス成長となる見通しだ。新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の主要貿易相手国である米国と中国の成長を鈍化させる一方、円高により日本の輸出業者には競争力低下の懸念が生じている。さらに憂慮されるのは、安倍首相が学校の臨時休校やスポーツや文化イベン トなどの自粛を呼びかけたことによる国内経済活動の停滞だ。とりわけサービス関連消費の冷え込みが懸念される。今後新型コロナウイルスの封じ込めに時間がかかれば、夏季東京オリンピックが予定通りに開催されるかどうかはさらに不透明になる。(本稿執筆は2020年3月11日現在)

  • ブルームバーグ・エコノミクスでは、3つのシナリオを分析した。第1のシナリオは、日本経済への打撃が第1四半期で収束し、中国経済の回復に伴い日本経済もV字回復。第2のシナリオは、中国での感染拡大が第2四半期まで継続し、日本やその他の経済大国でも自国での感染が拡大。第3のシナリオは、日本や他の経済大国でも中国と同じ規模で感染が拡大。
  • 現時点では、第1のシナリオをベースラインシナリオとしているが、より甚大な影響が出る方向へシフトしつつある。
  • 経済成長のもう1つの足かせは、安全資産への逃避に起因する円高だ。円高が日本の経済成長鈍化と物価低下のリスクを高める中、今後日銀は追加の景気刺激策を迫られる可能性がある。ドル円相場が100円まで下落すれば、日銀は緩和拡大するとブルームバーグ・エコノミクスではみている。
  • 政府はすでに本年度の大規模な景気刺激策を策定済みだったが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、新たな財政措置を10日夕方に発表した。新型コロナウイルスの危機が拡大するにつれて、より強力な財政措置が求められる一方、 現時点では大規模な追加の財政支出の正式なアナウンスはない。

新型コロナウイルスショック-3つのシナリオ
出所:内閣府、ブルームバーグ・エコノミクス

  • ブルームバーグ・エコノミクスが想定するベースラインシナリオは最も楽観的なシナリオであり、日本の実質国内総   生産(GDP)が20年に0.8%減少し、2019年の0.7%増からマイナスに転じるというものだ。第2のシナリオは、GDPが1.3%減、第3のシナリオでは、広範囲の感染拡大が長引き、GDPが2.0%減少するというものだ。なお新型コロナウイルス発生前は、2020年のGDP成長は0.3%と予想していた。
  • 新型コロナウイルスが日本の主要市場に打撃を与える前でさえ、消費税引き上げや台風により国内の消費は冷え込んでいた。ブルームバーグ・エコノミクスの景気後退確率インデックスは、景気後退リスクの拡大を示唆している

2020年経済への影響を緩和するための財政支出
出所:内閣府、ブルームバーグ・エコノミクス

財政刺激策は2019年の経済成長要因としてGDPの0.7%ポイント増に寄与したが、この状況は2020年も継続する見通しだ。新型コロナウイルス感染拡大と不安定な金融市場を背景に、政府に対する財政支出拡大の圧力が高まっており、大規模な財政支出が実施されれば、マイナス成長のペースを食いとどめられる可能性がある。

安倍内閣の支持率は低下
出所:大手ニュース機関の調査、ブルームバーグ・エコノミクス

有権者の安倍政権に対する支持率は、昨年8月以降低下し続けているため、政府は経済対策を発表して支持率アップにつなげたい思惑もあっただろう。政府は10日夕方、4300億円の財政措置と1兆6000億円の金融措置を発表した。安倍首相は「政府は日銀と連携を密にしながら、適切に対応していく」とも述べた。ただブルームバーグ・エコノミクスでは、新型コロナウイルス感染拡大と拡大防止策によって国内の経済活動が制限される中、経済へ資金を注入しても効果は限られるとみている。新型コロナウイルスが封じ込めの目途があるていどたった時点で、追加の景気刺激策が出される公算が大きい。

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