【⽇本インサイト】コロナ前には戻れない−2050年までに16%経済縮⼩

Read the English version published on September 8, 2020.

本稿は、ブルームバーグのエコノミスト増島雄樹が執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

【⽇本インサイト】コロナ前には戻れない−2050年までに16%経済縮⼩

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的⼤流⾏)による打撃は、⽇本に国内総⽣産(GDP)の拡⼤の恒久的な頭打ちという回避できない歴史的転換点をもたらすことになるかもしれない。今後5年間の成⻑率が潜在成⻑率を上回る回復をみせても、消費税率引き上げとコロナ感染拡⼤による損失を全て取り戻すことはできない。かつて世界第2位、現在は第3位の経済⼤国である⽇本の経済規模が2019年の⽔準を再び上回るには、⼤胆な構造改⾰なしでは難しい。

⻑期的な成⻑を⽀える3つの重要なけん引役のうち、1つ(労働⼒)がマイナスに転じ、もう1つ(資本形成)が伸びず、それらの効果的な組み合わせの知⾒(⽣産性)の改善ペースは減速している。アベノミクスの⽴役者である安倍晋三⾸相が退任する8年ぶりの⽇本の指導者交代は、先⾏きの不確実性を⾼めている⼀⽅で、改⾰刷新を急加速させる機会でもある。

しかし、⻑期的な成⻑への下押し圧⼒を⽌めるのはあまりにも難しいだろうというのがわれわれの⾒解だ。50年までに、⽇本の実質GDPは19年⽐で16%縮⼩する可能性が現状では⾼いとみている。

  • 基本シナリオでは、経済は20年に5.2%縮⼩し、21年には3.2%の成⻑に回復すると予測。その後、25年までは年平均0.5%の成⻑を⾒込む
  • 28年に経済規模の次のピークを迎えるまでは、潜在成⻑率を上回る成⻑が⾒込まれる。その場合でも、実質GDPは19年の⽔準を0.1%ほど下回り、パンデミック前のわれわれの予測と⽐較して2.7%経済規模が⼩さい
  • 29年から始まる経済縮⼩は、コロナショック後の景気回復を⼀掃し、50年までにGDPを約16%押し下げると予測される
  • 31年から50年までは、年平均0.8%のマイナス成⻑を⾒込んでいる。経済の製造業からサービス業へのシフト、官⺠のワークフローのデジタル化の促進、省⼒化技術や柔軟な働き⽅への投資の促進などが、⽣産性の向上を後押しするが、⼈⼝減少を補うまでには⾄らない

2028年以降の⻑期的な経済縮⼩局⾯

(出所)ブルームバーグ・エコノミクス、内閣府

こうした悲惨な予測は、少⼦⾼齢化が進む中、限られた資源からより多くの経済活動につながるような新たな⽅法を⾒つけることの重要性、つまり⽣産性の向上と教育の質的な改善の必要性を強調している。そのため、⻑期的な成⻑に対する最⼤のリスクの⼀つは、構造改⾰を推進できないことにある。

保護主義が台頭している場合には⼤きな課題となる貿易障壁の削減、海外からの直接投資の誘致、知的財産の活⽤、外国⼈労働者の受け⼊れ⼤幅拡⼤、教育の質の改善、労働市場の柔軟性の向上などの改⾰は、いずれもある程度の痛みを伴うだろう。これらは、⻑期的な⽣産性の改善の低下傾向を緩和するだろう。しかし、⽇本の改⾰の実績は、過去8年間のアベノミクスをみても、今後の進展について楽観的な考えを抱かせるものではない。

⾦融・財政政策の追加⽀援の余地がますます限られていることを考えると、改⾰の重要性はますます⾼まっている。⼤規模な歳出政策の結果、本年の⼀般政府の債務がGDPの268%に達する⾒込みであることから、財政の持続可能性をどう維持するかは、より喫緊の課題となるだろう。

アベノミクスは経済縮⼩の始まりを先送りしただけ

(出所)ブルームバーグ・エコノミクス、内閣府

ただ、つぶさにみると、コロナの感染拡⼤は、⻑期的な経済成⻑がマイナスとなる主因ではない。コロナショックの影響を除いた11年から19年の潜在成⻑率は、その前の10年と⽐べて上昇したものの、構造改⾰によってもたらされる余地の⼤きい全要素⽣産性は縮⼩している。⽣産性は⼈⼝減少化でも改善可能であり、持続的成⻑のためには改善が必要な部分だ。

⼀⽅、構造改⾰は⼀時的に経済成⻑の減速や格差拡⼤などの痛みを伴う。特に、16%の経済縮⼩を押し戻そうとすればなおさらだ。基本シナリオでは⽇本の経済規模は縮⼩するものの、31年から50年の⼀⼈当たりGDPの成⻑率はほぼ横ばいだ。つまり、政府債務の拡⼤に⽬をつぶれば、国⺠の⽣活⽔準が⼤幅に悪化するわけではない。どちらを選ぶかは国⺠と安倍⾸相以降の指導者の選択に委ねられる。

今回の経済予測で⽤いた⽣産関数とは、経済活動に⽤いられる資源である労働⼒、資本、労働者の知識・熟練度(⼈的資本)、とそれらがどの程度効率的に使われているか(全要素⽣産性)をモデル化したものだ。

以下がわれわれの予測の詳細と前提条件となる。

労働⼒

⽣産年齢⼈⼝の減少は⽇本経済にとって最⼤の問題だ。⼈⼝減少は、今後10年間で年0.7ポイント、31年から50年までは年1.3ポイントの潜在成⻑率を低下させる前提を置いている。

  • アベノミクスの成果の⼀つは、⼥性活⽤の看板の下、⼥性の労働参加を進めたことだ。パートでの新規雇⽤の部分が⼤きいものの、この傾向は継続していると考えられる
  • 外国⼈労働者の増加も、⼈⼿不⾜の業種で仕事を回すのに役⽴っている。ただ、外国⼈労働者受け⼊れの規制緩和をすれば外国⼈労働者が⽇本にいくらでもやってくる時代は過ぎつつある。⽇本と他のアジア地域との所得格差が急速に縮⼩しているため、5年の遅れが命取りになる。21年に東京五輪が開催されれば、外国⼈労働者による⽇本の認知度を上げるきっかけになるかもしれない
  • 労働者数の推移は、国⽴社会保障・⼈⼝問題研究所の⼈⼝予測に、男⼥の労働参加の状況や外国⼈労働者の流⼊などを加味して予測している

⼈的資本

われわれの予測には労働⼒の質も考慮されており、これは学校教育の年数で推定されている。⼈的資本は、⾼度成⻑期は⾼校進学率が上昇し、その後2000年代までは⼤学進学率が上昇する中、成⻑に強い追い⾵をもたらした。ただ、その後20年までは改善ペースが減速している20年以降は、教育が⼈的資本に与える影響はほとんどないと考えられる。⾼校⽣の50%以上が⼤学に進学しており、1990年代初頭の30%から増加している。2050年までに上昇はほとんど⾒られない。

資本の蓄積

アベノミクス下での景気回復が企業の設備投資拡⼤を促した。19年10⽉の消費税率引き上げと20年のパンデミックによるショックで、この傾向は中断した。それでも、⽇本の投資需要は今後数年間、堅調に推移するはずだ。

  • 携帯ネットワークの5G化、⼯場の⾃動化、デジタル化、ネット通販の増加、介護のロボット活⽤など、より多くの投資が必要とされている
  • ただ、⾼齢化社会に対応するための投資も必要であるが、これは⾼齢化がピークを過ぎる30年以降には薄れていくと思われる

コロナショックの経済成⻑率への影響は、最終的には中⽴的なものになるかもしれない。プラス⾯では、⽣産の国内回帰、リモートワークや学校教育に対応するための設備投資があり、マイナス⾯では、企業の倒産と新規投資全般の萎縮効果が考えられる。

(全要素)⽣産性

過去30年間、全要素⽣産性の成⻑は鈍化してきた。今後の30年間も同様の傾向が続くだろう。パンデミックは⽣産性に⼀時的に打撃となるが21年には回復し、⻑期的に影響を及ぼしてはいかない。

  • ⽇本が有利な要因の⼀つは、コロナ前の外国⼈観光客の拡⼤にみられるような観光先としての⼈気だ。それは労働⼒や資本といった⼀般的な観光資源とは異なる。観光資源は成⻑に貢献する貴重な無形資産である⼀⽅、外国⼈観光客のリピーター増加など、持続可能な⼈気の維持が資源の有効活⽤につながる
  • ウイルス危機が過ぎ、東京五輪が開催されれば、観光は再び回復し、労働⼒や資本の貢献度が低下しても経済を押し上げることができるだろう
  • ⽇本はまた、全要素⽣産性をけん引するもう⼀つの要因となる、研究・技術開発の成果である知的財産権からのライセンス収⼊の⼤幅な黒字からも恩恵を受けることができる
  • しかし、⽣産性の向上は⼈⼝減少による経済成⻑を反転させるには⾄らない。このことは、無形資産の活⽤を促進し、新たなニーズに対応するために教育を含めた⼈⼯知能への投資を⾏うといった、抜本的な改⾰の重要性を⽰している

リスク

⻑期経済予測の最⼤の下振れリスクは、構造改⾰の停滞や進捗(しんちょく)の遅れだ。労働市場から財政健全化まで、いくつかの重要な改⾰がアベノミクスの過程で何度か延期された。コロナショックはそれらをさらに遅らせる可能性が⾼いと思われる。

東京五輪の中⽌は、もう⼀つの下振れリスクだ。経済への直接的な影響(GDPの約0.6%)は相対的に⼤きくはない。しかし、⻑期的に⾒れば、観光客や外国⼈労働者、⽇本向けの海外直接投資の流⼊を減少させるのであれば、その波及効果ははるかに⼤きくなる。

⼀⽅、⼤きな上振れリスクもある。コロナショックは、これまでの経済の担い⼿の中⼼だった製造業からサービス業へのシフトを加速させ、⺠間・公共部⾨におけるワークフローのデジタル化に拍⾞を掛け、省⼒化技術や柔軟な働き⽅を促す投資を後押しする可能性がある。⽣産性が⼤幅に改善すれば、経済は再び拡⼤する。