本稿は我妻綾が執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。(2023年11月29日)
日本の輸出企業は業績が市場予想を簡単に上回れるよう為替レートで円に強気の見通しを立てており、日本株は世界のトップパフォーマーグループの座を維持している。
TOPIX500を構成する3月期決算企業が今期業績計画の前提とする為替レートの平均は、ブルームバーグのデータで集計すると1ドル=140円22銭。現在の相場より5%円高の水準で、年度初めの平均より高く、為替ストラテジストの予想中央値を上回る。
輸出企業にとって重要なのは、円相場が想定より安くなると海外からの利益を日本に持ち帰って円換算した際、利益が膨らむことだ。トヨタ自動車は為替差益が上半期の営業利益を押し上げたと発表し、株価は今月すでに6%以上上昇。任天堂も通貨安の恩恵を受けて通期計画を上方修正し、約10%上昇している。
円安が1990年以来の水準まで進む中、日本の株価指数である東証株価指数(TOPIX)と日経平均株価は輸出企業の利益急増に支えられ、33年ぶりの高値を更新した。
日本銀行の最新の企業短期経済観測調査(短観)でも、大企業製造業の想定為替レートはスポットレートより円高だ。次回の調査は12月中旬に発表される予定。
ピクテ・ジャパンの糸島孝俊投資戦略部ストラテジストは、世界経済の先行き不透明感が続く中、為替の前提で業績ガイダンスを当面保守的に据え置き、「バッファーに余裕を持たせた方がいい」と話す。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフストラテジストも同様の見方だ。「今年度の着地が増収増益に上方修正され、業績の先行きもかなり良かった」と語った。
実際に、株式アナリストはトヨタの業績見通しを額面通りに受け取ってはいない。今期の純利益はトヨタの予想より2610億円多くなると予想している。武田薬品工業、ホンダ、ANAホールディングスも同様に企業の見通しとアナリスト予想とに大きな開きがある。
トヨタの発表では、対ドルで1円の円安は450億円の営業利益上乗せ要因になる。ブルームバーグの試算によると、日本の大手企業10社は、円相場が1ドル=150円前後で推移した場合、今年度に1兆4000億円の利益が積み増しされる可能性がある。
しかし、円の企業の想定が為替ストラテジストの予測よりも現実に近くなる可能性もある。ブルームバーグのまとめでは、この四半期中は1ドル=148円近辺で取引され、来年3月末までに145円に向かうと為替ストラテジストはみている。
外国為替の専門家たちは過去2年間の急激な円高と円安に対応するのに苦労してきた。1月初旬に対ドルで130円前後で取引されていた際、今年は同じ水準で終わると予想していた。実際は円安が進み、150円を超えた。
大和証券の石戸谷厚子ストラテジストは「円高の可能性はある程度考えておかなくてはならない」と述べ、「この程度の数字は保守的で、理にかなった妥当な水準だ」と指摘した。