ポートフォリオにESGデータを組み込むには

Read the English version published on June 03, 2019.

現在、環境、社会、ガバナンス(ESG)データと見なされているものの多くは、実は長年にわたりポートフォリオ構築に使われてきています。

例えばガバナンスを見てみましょう。先日開催されたブルームバーグデータ・スピーカーシリーズのイベントにおいて、AQR Capital ManagementのVPであるMarina Niessner氏は、会社設立の1998年以来、AQRはガバナンスをポートフォリオ構築のシグナルとして使ってきたと述べています。

「当時はESGという用語はまだありませんでした。しかし、ガバナンスが優れた企業は将来優れたパフォーマンスを示す可能性が高いという事実は、学術研究でも古くから認められていました」とNiessner氏は言います。

「原データ、これは実質的には大量の高品質会計データですが、を分析してシグナルを抽出したのです。これは今であればESGにあたります」

資産運用会社は、現在、投資戦略にESGを組み込むべきという新たなプレッシャーを受けています。そのため、こうした以前から使ってきたシグナルが実はESGそのものであり、リターン獲得は必ずしも唯一の目的ではなかったことを示すことがますます重要になっています。

ESGの役割は時代とともに変化

ESGに対する需要は変化しています。当然ながら、いつの時代でも重要なのはアルファでした。しかし、今の時代はそれに加えて「ESGに対する意識の高さ」も求められています。

「最近は、制限付き株式リストを求める需要に加えて、価値をベースとした倫理投資(戦略)への関心が高まっています。より『ESGを意識した』ポートフォリオ構築のためにはアルファを幾分か犠牲にしてもよいという考え方です」とNiessner氏は言います。

投資戦略の策定にあたってESGをどう利用するかは、ポートフォリオの目的と投資判断の種類によって決まります。

プライベートエクイティに関する投資判断を行うWarburg Pincusにおいては、ESGは投資評価のクライテリアとして使われています。

「デューディリジェンスの過程において、潜在的なオペレーショナルリスク、レピュテーションリスク、規制リスク、その他の問題点(レッドフラッグ)を評価する手段としてESGを使います」とWarburg PincusのESG担当ディレクターであるLeela Ramnath氏は言います。

一方で、企業はESG情報の開示にも備えなければなりません。

ESGの役割についてRamnath氏は「欧州あるいは香港ではESG関連の上場要件があります。すなわちESGが現実の規制対象となっているのです。これに対し米国では現在、ESGに関する規制はないものの、上場企業にはESG情報の開示が期待されています」と述べています。

ESG投資の市場は世界的に成長が続いていて、2018年の運用資産は30兆ドルに達しました。民間企業がIPOを検討する際にはESGに配慮する傾向が強まっているとRamnath氏は言います。

ESGを投資プロセスに取り込む

企業が真の意味でESGを実践するためには、口先だけではなく、企業戦略と投資プロセスにESGを織り込む必要があります。

「ESGは商品開発の対象となるようなものではありません。売り物ではないからです。ESGは、投資プロセスに組み込むべきものです」と言うのは、ESGクオンツ運用会社ArabesqueのパートナーであるBrace Young氏です。

「ESGを投資プロセスに組み込む理由は、高いリターンを得ることに加えて、資金の出し手である顧客がESGに高い関心を持っているためです。関心の対象はさまざまですが、それをうまく取り込むことができれば大きなビジネスチャンスとなります。そのためには、顧客が重要と考えるESGと関連が深い金融商品をポートフォリオに組み込むことです」とYoung氏は言います。

ESG投資を行うためには、ESG効果が高い投資方法を見つけ出す必要があります。そのためには、強力なデータ分析が必要です。信頼できるサービスプロバイダーから一貫性がある質の高いデータを入手し、ポートフォリオの目的に適合するESG投資方法を開発する必要があります。

ここで重要となるのが財務上のマテリアリティです。株価に実際に影響を与え投資家が関心を持つようなESGシグナルは、セクターやロケーションにもよりますが、極めて限られています。最も効果が高いシグナルを見つけ出すためには、何らかの軸に沿った膨大な量の分析が必要となります。米国サステナビリティ会計基準審議会(SASB)のマテリアリティマップは、ESGを検証しプロセスに統合するためのモデルを開発する際の出発点となるでしょう。

洞察の根拠を正しく理解する

効果が高いESGシグナルを特定するためには、ESGの限界を理解する必要もあります。

前述のブルームバーグのイベントにおいては、すべてのESGデータは企業が自社のESGについて開示したものであるためデータの「完全性」を前提とすることはできないという点で、パネリストの意見が一致しました。顧客の求めに応じてベストプラクティスが出現しつつありますが、まだ途上です。

QMのマネージングディレクターであるJoshua Livnat氏のチームは、最近Journal of Portfolio Management誌にESGに関する論文を掲載するとともに、ポートフォリオ理論にESGを組み込んだ新商品を発表しました。セールス担当者が既存客や見込み客と話をする際に「こうしたESGに関する実績について話をすると顧客は極めて高い関心を示します。今最もホットな話題です」とLivnat氏は言います。

「環境」ファクターおよび「社会」ファクターの影響力が強まるにつれて、ESGに対する顧客の関心が今後さらに高まっていくことが予想されます。顧客が見いだすESGの価値が進化を続ける中、ESGがポートフォリオに与える影響を将来的により深く理解するためには、いまESG戦略を開発することが大変重要です。

また、ESGの影響力を理解するためには、堅牢なデータソースと優れたデータ管理が必須です。

ブルームバーグ主催のイベントにおいてArabesqueのBrace Young氏は「今、最も重要視すべきはマテリアリティです。データの質が向上すれば、個別銘柄の投資判断を行う際の強力な武器となることが期待されます」と述べています。